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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

72-1.生首の似合う聖女

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 オーケアヌス魔法学院学生寮内。
 学校が全面休講になったことで休日を喜ぶ生徒やミロワールの霧に関する事件の情報を求める生徒達が行き来する中、レミはその一日の殆どを寮の自室で過ごしていた。

 勉学や読書に時間を費やしつつも、時折徐に席を立っては部屋の中を徘徊する。彼が見せる落ち着きのなさの要因は全てルームメイトにあった。
 朝、ミロワールの霧に関する話を聞いた途端に飛び出していったノア。日が暮れ、門限や夕食の時刻を過ぎても結局彼は帰ってこなかった。

(ノアがフロンティエールにいるかもしれないという話は通信機を借りてアレット先生に連絡した。他にぼくが出来ることはないだろう)

 アレットは国中でも有数の腕利きの魔導師だ。彼女が気に掛けてくれていれば余程のことはないと思いたいが、ルームメイトの問題を引き付ける体質が厄介極まりないものであることをレミは知っている。

 故に不安を拭いきることは出来ず、机に向かってはいるものの勉学も読書も殆ど進んではいなかった。

「……そもそも、あいつはいつだって問題に首を突っ込み過ぎなんだ」

 過去のノアの行いの数々を思い出してしまい、更に募る苛立ちから貧乏揺すりをするレミ。
 そして彼が乱暴に頭を掻き毟った時。
 その視界の端が突如として青く光りだした。

「……っ!?」

(魔法陣……?)

 視界の端に現れる複雑な図式。それに気付き何事かと咄嗟に椅子から腰を浮かせ、レミは身構える。
 そして現れた魔法陣から人が二人、姿を現した。

 一人は数週間前に対峙した赤髪の騎士、そしてもう一人は久しく顔を合わせていなかった知人。

「お前は……っ、というかそっちはオリヴィエか……!?」

 状況を呑み込めず目を剥くレミの前で既に満身創痍であったエリアスとオリヴィエは倒れ込む。

「一体何が――」

 見るからに激しく消耗している二人へとレミは駆け寄る。
 そんな彼の顔を掠めるように、何かが素早く通過した。
 それは鈍く大きな音を立てて壁に突き刺さる。

「まずいな、勢いをつけ過ぎたか」

 突如襲い掛かった何かにレミは絶句し、冷や汗を掻きながら視線だけを後方へ向ける。
 ぱらぱらと破片を散らしながら壁に突き刺さるのは剣だ。一歩間違えればそれは彼の顔へ突き刺さっていたことだろう。

 にも拘らずオリヴィエはやけに平然とした態度でそれを目で追っていた。
 発言からして壁に穴を空けるに至った原因が彼にあることは間違いない。レミは引き攣った笑みを浮かべてオリヴィエを見下ろした。

「どういう状況か、勿論説明してくれるんだよな?」
「……面倒だな。こいつの説教は長いんだ」
「説教されるようなことをしでかす方が悪いとは思わないか?」

 自分と同じように隣で横たわっているエリアスへ、オリヴィエは小声で囁く。
 その声はレミにも届いていたようだ。彼はラックに置かれていた救急箱を手に取りながらすかさず口を挟んだ。

 だが、彼が更に小言を続けるよりも先に部屋の戸がノックされる。
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