226 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
70-2.撤退作戦
しおりを挟む
そして彼女が能動的に動くよりも先に二人は動き出した。
リオは手元で生成されるナイフを掴んではベルフェゴールへ向けて投げつけ、近づき、その肉を切り裂かんと振るい続ける。
時折二人の間に出現する水柱がベルフェゴールの注意を削ぎ、無駄に回避行動を取らせることで彼女から隙を生み出そうとした。
後方の支援を受けながら攻め続けるリオ。だがその攻撃の殆どをベルフェゴールは避けてみせる。
だが、それでいいのだ。自分達の目的はあくまでその場からの撤退。相手の深追いでも撃退でもないのだから。
時間を稼ぐリオの背後をオリヴィエが素早く通過する。
道中、転がっていたエリアスの剣へ足を伸ばし、爪先で掠めるように触れる。
そして低空で飛行する彼は、体に負担が掛からない範疇で可能な限りの速度を以てエリアスへ近づいた。
エリアスもまた、地面に手をついて体を起こそうとしていた。しかし壁へ激突した際にどこかを酷く痛めらしく、彼は立ち上がることすらままならないようだ。
そんな彼へ近づいたオリヴィエがその肩へ触れる。
「っ、オリヴィエ――」
「その様で文句なんて言ってくれるな。今の僕達に求められる最善は先の撤退だ」
主人が残っている場での撤退を良しとしないエリアスの言い分を悟ったオリヴィエは先回りするように言い放つ。
まともに動けない前衛は役に立たないどころか、足を引っ張ることになりかねない。自分の意志や誇りよりも優先しなければならない選択も時には存在する。
それを短く指摘され、エリアスは顔を歪める。それは自分の無力さや望まぬ選択に対する苛立ち、悔しさから来るものだった。
彼は項垂れるが、それ以上口を挟むことはしなかった。
「……わかった。頼む」
「賢明な判断だ。”飛べ”」
エリアスの体がオリヴィエと同じように上昇する。
それを確認するとオリヴィエは転移大結晶へ向けて最速で移動を始めた。
道中、彼は後方を気遣うように視線を動かした後、人差し指で何かを招くような素振りを見せる。
それに応えたのは地面に転がったままであったエリアスの剣だ。合図を受け取ったそれは、独りでに浮かび上がった後にオリヴィエ達の背を追って滑空した。
「リヴィ、エリー!」
自分の元へ近づく二人にノアが声を掛ける。
「悪い、先に行く。お前も後から必ず来い」
「勿論だ。先で待っていてくれ」
すれ違い様に短い言葉を交わすノアとオリヴィエ。
一方でエリアスもクリスティーナへ声を掛けた。
「すみません、オレ……」
「不要な謝罪よ」
エリアスは思っていることが顔に出やすい。
顔を曇らせる彼の考えを察したクリスティーナはその声を遮った。
リオは手元で生成されるナイフを掴んではベルフェゴールへ向けて投げつけ、近づき、その肉を切り裂かんと振るい続ける。
時折二人の間に出現する水柱がベルフェゴールの注意を削ぎ、無駄に回避行動を取らせることで彼女から隙を生み出そうとした。
後方の支援を受けながら攻め続けるリオ。だがその攻撃の殆どをベルフェゴールは避けてみせる。
だが、それでいいのだ。自分達の目的はあくまでその場からの撤退。相手の深追いでも撃退でもないのだから。
時間を稼ぐリオの背後をオリヴィエが素早く通過する。
道中、転がっていたエリアスの剣へ足を伸ばし、爪先で掠めるように触れる。
そして低空で飛行する彼は、体に負担が掛からない範疇で可能な限りの速度を以てエリアスへ近づいた。
エリアスもまた、地面に手をついて体を起こそうとしていた。しかし壁へ激突した際にどこかを酷く痛めらしく、彼は立ち上がることすらままならないようだ。
そんな彼へ近づいたオリヴィエがその肩へ触れる。
「っ、オリヴィエ――」
「その様で文句なんて言ってくれるな。今の僕達に求められる最善は先の撤退だ」
主人が残っている場での撤退を良しとしないエリアスの言い分を悟ったオリヴィエは先回りするように言い放つ。
まともに動けない前衛は役に立たないどころか、足を引っ張ることになりかねない。自分の意志や誇りよりも優先しなければならない選択も時には存在する。
それを短く指摘され、エリアスは顔を歪める。それは自分の無力さや望まぬ選択に対する苛立ち、悔しさから来るものだった。
彼は項垂れるが、それ以上口を挟むことはしなかった。
「……わかった。頼む」
「賢明な判断だ。”飛べ”」
エリアスの体がオリヴィエと同じように上昇する。
それを確認するとオリヴィエは転移大結晶へ向けて最速で移動を始めた。
道中、彼は後方を気遣うように視線を動かした後、人差し指で何かを招くような素振りを見せる。
それに応えたのは地面に転がったままであったエリアスの剣だ。合図を受け取ったそれは、独りでに浮かび上がった後にオリヴィエ達の背を追って滑空した。
「リヴィ、エリー!」
自分の元へ近づく二人にノアが声を掛ける。
「悪い、先に行く。お前も後から必ず来い」
「勿論だ。先で待っていてくれ」
すれ違い様に短い言葉を交わすノアとオリヴィエ。
一方でエリアスもクリスティーナへ声を掛けた。
「すみません、オレ……」
「不要な謝罪よ」
エリアスは思っていることが顔に出やすい。
顔を曇らせる彼の考えを察したクリスティーナはその声を遮った。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
※完結まで毎日更新です。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる
みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」
濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い
「あー、薪があればな」
と思ったら
薪が出てきた。
「はい?……火があればな」
薪に火がついた。
「うわ!?」
どういうことだ?
どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。
これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる