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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

67-1.『目が良い』魔導師

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 瞬く間に距離を詰めた強大な存在。
 それは少女の姿を象っているものの、その数倍の大きさを持つのではないかと錯覚するほどの存在感と気迫に満ちていた。

 大槌がクリスティーナの体を押し潰さんと迫る。
 横から胴体へ叩きつけるように動いたそれはしかし、クリスティーナへ触れるよりも先に下から与えられた何物かの力によって軌道を逸らした。

 下から上へと押し上げられ、クリスティーナの頭上を通過する大槌。
 巨大な武器を押し上げた正体はその物量と対抗するだけの水柱。それは渦巻き、水飛沫を散らしながらベルフェゴールの視界の端に映り込んだ。

「っ、邪魔」

 再度、今度は反対の方角からベルフェゴールが大槌を振るう。だがそれはまたもや多量の水によって押し上げられ、あらぬ方向へと逸らされる。

(見えている……?)

 その後三度、四度と振るわれる大槌は全て狙ったかのように弾かれる。彼女は手は抜いていない。油断しているわけでもなかった。
 にも拘らず水の防護は的確に放たれる。ベルフェゴールは目を見張った。

 敵の動きを間近で目の当たりにする前衛ならば多少の慣れが生じることもあるだろう。だが後衛が、それも武道による戦闘能力よりも魔法に特化した者が近接戦闘に長けた者の動きに対応できるかと言われれば、非常に難しいというのが答えだ。
 だが、水魔法による防衛は偶然という言葉で片付けることのできない正確さが備わっていた。

 ノアは瞬きをするのも惜しんで、ベルフェゴールの動きを注視する。

(俺には強敵と直接対抗できるだけの技術も才も持ち合わせていない)

 魔物を数体相手にする程度であれば水魔法で対処もできる。
 だが彼女のような強敵を前にした時、水魔法一つで相手に致命傷を与えることはまずできない。それは魔法適性を水しか持たない者の宿命だった。

 生まれ持ったもので決まる世界。魔物やならず者など小さな脅威に晒され続けるこの世界では、戦う術を得られない者に対する風当たりは強い。
 その現実はどれだけ努力を積んだとしていても付き纏う。

(……けど、だからこそ支援と防御だけは譲れない。得意とする領域ですら押し負けてしまうようならば、俺の存在意義は本当に潰えてしまうから)

 複数の魔晶石を強く握りしめ、ノアは強敵を見据える。

 攻撃手段を磨くことは疾うの昔に諦めた。
 だがその代わりに彼が得たもの。それこそが数多の支援と防衛の手段だった。

 目立たなくていい、裏方でいい。それでもいいから、自分がそこにいる意味をきちんと残せるような存在で在りたい。
 表に立つ者を支える、必要不可欠な役割として在りたい。

 それこそが『特別』を追求した在りし日の少年が辿り着いた答えであった。

(だから、意地でも逃さない。俺は俺の役目をやり遂げてみせる……!)
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