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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

66-6.戦況悪化

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「……のものを拘束せよ。アクア・ジェイル!」

 だがその危機がオリヴィエへと触れるよりも先に、ノアが早口で呪文を唱え終える。
 オリヴィエとベルフェゴールの間に現れるのは多量の水の膜。そしてそれはベルフェゴールを拘束しようと襲い掛かる。

 その魔法の厄介さを知っている彼女は後退を余儀なくされた。
 そこへ更に、十本程の氷の槍が背中から降り注ぐ。
 水魔法へ対する回避へ意識が向いていたベルフェゴールは瞬時に繰り出された槍への対処が間に合わなかった。

 それは彼女の横腹と肩を貫き、修復に時間が掛かるだろう傷を残す。

「焦らなくても、殺してあげるのに」

 ベルフェゴールがエリアスとオリヴィエへ接近することを恐れ、ノアは牽制の為に水魔法『アクア・フラッド』を繰り返し放つ。
 それを躱すこと自体はベルフェゴールにとって難しいことではない。しかし躱した傍から更に放たれる水の攻撃は倒れ伏す相手への接近を困難なものへとさせた。

 このままでは埒が明かない。仮に粘った末に距離を詰められるとしても、付け入る隙を見つけるまでに無駄な時間が掛かることは確かだった。
 仕方ないとため息を吐き、彼女はエリアスとオリヴィエへ止めを刺すことを後回しにする。

 となれば彼女の次の狙いは勿論後衛の命。どちらから仕留めようかと考えたところでふとベルフェゴールは思い出した。

「……そうだ。殺すのは一人でいいんだった」

 目的を邪魔する存在がいれば手間が掛かる。手練れ揃いの前衛が厄介であったせいで苛立ちを募らせ、我を忘れてしまっていた訳だが、ベルフェゴールの元々の狙いは少女の命一つなのだ。
 面倒ごとが嫌いという彼女の性質が理性を狂わせ、熱が入り過ぎた結果本来の目的が疎かになっていたらしい。

 標的を殺しさえすれば、いくら邪魔が増えようと相手にしなくていいのだ。標的だけを殺せるならそれが一番楽な道に違いない。
 そう自身の目的を思い出したベルフェゴールはクリスティーナへ狙いを定めた。

 彼女の手には再び大槌が生成される。

「……っ、クリス、下がるんだ」

 ベルフェゴールの赤い瞳がクリスティーナへ向けられていることを悟ったノアが指示を出す。
 本来であれば庇いに出てやりたいところであったが、転移大結晶に触れ続けていなければならないノアの行動は制限されてしまっている。
 故にせめて自分と同じ場所まで下がるようにと声を掛けたのだが、クリスティーナはそれに頷くことなく、ノアの前へ立ちはだかった。
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