210 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
66-2.戦況悪化
しおりを挟む
「動くの、やっぱり疲れる……」
持ち主の体躯以上の大きさを誇る大槌。
それを彼女は涼しい顔で持ち直した。
咄嗟に避けたものの、その攻撃のすさまじさにエリアスは息を呑む。
だが怯めばその一瞬が命取りになることは重々承知していた。
彼は一歩踏み込んで剣を振り上げる。
だが、それはリオの時と同様に空を切った。
ベルフェゴールは前衛の三人と均等に距離を置ける場所へ立つとため息を吐いた。
「こうすれば……楽になるかも」
彼女は大槌を肩に担ぐと片手を前へ翳す。
次の瞬間、翳された手から真っ黒な何かが溢れ出す様をクリスティーナは目撃する。
それは黒い煙――『闇』としか形容しようのない何かだ。
同時に襲い掛かるのは途轍もない嫌悪感。あれは触れてはいけないものであると本能が告げた。
『闇』はベルフェゴールの目の前で大きな集合を作ったかと思えば、三つに分散して前衛へ襲い掛かった。
「駄目……っ!」
「クリス!?」
思わず叫び、手を伸ばすクリスティーナ。
だがそれに反し、前衛の三人は警戒こそしているものの、『闇』を避けようとする動き一つ見えない。
見るからに怪しい現象であるのにも誰も反応を示さない。
クリスティーナの反応を間近で見ていたノアもまた、何故彼女が急に焦っているのかがわからないと言った様子で驚いている。
(まさか、見えていないの?)
四人の反応からクリスティーナが導いたのはそんな結論だった。
目の前で起きていることが見えていないかのような四人の様子。五人の中で自分だけが気付いた良からぬものの存在。
彼らの目に『あれ』が見えてないのであれば何とか出来るのは自分だけだと思いつつも、対処の方法がわからない。
その上距離も開いており、今から駆け寄ったとて『闇』が彼らへ触れる方が先であることは明らかであった。
「その場から離れて! 今すぐ!」
遠くから飛ぶクリスティーナの声に何事かと困惑の色を見せる三人。
しかしその声に含まれた必死さを感じ取ったからか、一斉に後退を開始する。
だが目に見えない、気配すらないものを避けるというのは至難の業だ。
それに加えて、黒い煙には追尾性があるようで、距離を置いた彼らを追いかけ続ける。
『闇』は容赦なく彼らへと距離を詰めた。
だがそれが三人へ覆いかぶさり、飲み込もうとした瞬間。
不自然な動きでそれは彼らから距離を取った。
自らそうすることを望んだというよりは何かに弾かれたかのような動き。
クリスティーナが何か手を下したわけではない。何が『闇』を弾く要因となったのか定かではない。
だがそれはベルフェゴールにとっても予想外のことであったようだ。
彼女は目を丸くし、その現象に驚いて見せる。
持ち主の体躯以上の大きさを誇る大槌。
それを彼女は涼しい顔で持ち直した。
咄嗟に避けたものの、その攻撃のすさまじさにエリアスは息を呑む。
だが怯めばその一瞬が命取りになることは重々承知していた。
彼は一歩踏み込んで剣を振り上げる。
だが、それはリオの時と同様に空を切った。
ベルフェゴールは前衛の三人と均等に距離を置ける場所へ立つとため息を吐いた。
「こうすれば……楽になるかも」
彼女は大槌を肩に担ぐと片手を前へ翳す。
次の瞬間、翳された手から真っ黒な何かが溢れ出す様をクリスティーナは目撃する。
それは黒い煙――『闇』としか形容しようのない何かだ。
同時に襲い掛かるのは途轍もない嫌悪感。あれは触れてはいけないものであると本能が告げた。
『闇』はベルフェゴールの目の前で大きな集合を作ったかと思えば、三つに分散して前衛へ襲い掛かった。
「駄目……っ!」
「クリス!?」
思わず叫び、手を伸ばすクリスティーナ。
だがそれに反し、前衛の三人は警戒こそしているものの、『闇』を避けようとする動き一つ見えない。
見るからに怪しい現象であるのにも誰も反応を示さない。
クリスティーナの反応を間近で見ていたノアもまた、何故彼女が急に焦っているのかがわからないと言った様子で驚いている。
(まさか、見えていないの?)
四人の反応からクリスティーナが導いたのはそんな結論だった。
目の前で起きていることが見えていないかのような四人の様子。五人の中で自分だけが気付いた良からぬものの存在。
彼らの目に『あれ』が見えてないのであれば何とか出来るのは自分だけだと思いつつも、対処の方法がわからない。
その上距離も開いており、今から駆け寄ったとて『闇』が彼らへ触れる方が先であることは明らかであった。
「その場から離れて! 今すぐ!」
遠くから飛ぶクリスティーナの声に何事かと困惑の色を見せる三人。
しかしその声に含まれた必死さを感じ取ったからか、一斉に後退を開始する。
だが目に見えない、気配すらないものを避けるというのは至難の業だ。
それに加えて、黒い煙には追尾性があるようで、距離を置いた彼らを追いかけ続ける。
『闇』は容赦なく彼らへと距離を詰めた。
だがそれが三人へ覆いかぶさり、飲み込もうとした瞬間。
不自然な動きでそれは彼らから距離を取った。
自らそうすることを望んだというよりは何かに弾かれたかのような動き。
クリスティーナが何か手を下したわけではない。何が『闇』を弾く要因となったのか定かではない。
だがそれはベルフェゴールにとっても予想外のことであったようだ。
彼女は目を丸くし、その現象に驚いて見せる。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
悪役令嬢ですが最強ですよ??
鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。
で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw
ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。
だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw
主人公最強系の話です。
苦手な方はバックで!
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・
y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える!
てってれてーてってれてーてててててー!
やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪
一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ
この小説の主人公は神崎 悠斗くん
前世では色々可哀想な人生を歩んでね…
まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪
前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる
久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく
色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー
友情、熱血、愛はあるかわかりません!
ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる