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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
66-1.戦況悪化
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「姿が、変わった……」
人とは言い難い歪な姿を取るベルフェゴールの見目にクリスティーナは小さく呟く。
同じく驚いた様子のノアがその声に頷く。
「魔族は人族と近しい姿を持つというのが有名な話ではあるけれど……もしかしたらそれは仮初の物だったのかもしれない」
彼はいつでも助力できるようにと細心の注意を払い、険しい顔つきでベルフェゴールと前衛の三人の様子を窺う。
その顔色は良いとはとても言えないものだ。
「姿を変えるのも魔法の類だと仮定すれば、その労力を惜しむ程彼女追いこんでいる証拠にはなる。……ただしそれは同時に、彼女の戦闘能力が底上げされることに他ならない」
「……そっちはまだ掛かるの?」
クリスティーナは未だ光を絶やさない転移大結晶へ視線を向ける。
巨大な水晶が帯びる光は起動直後に比べて随分と強くなっている。
しかしノアは苦々しく頷いた。
「ああ。もう少し……あと少しなんだ」
焦りを滲ませる二人。移動が可能になるまでの時間を稼ぎきることが出来るのか、それとも前衛が倒れるのが先か。
前者であって欲しいと思いながらも、望みは決して高くないだろう現実が彼女達に重く伸し掛かっていた。
一方で前衛はベルフェゴールが放つ気迫に呑まれぬよう気を張りつめ、彼女の出方を窺っている。
その視界の中でベルフェゴールは傍に漂っていた大鎌を掴み直す。
それが殲滅の為の第一手であることは明らかであった。
故にリオとエリアスはそれを封じるべく動き出す。
先にベルフェゴールへ近づいたのはリオだ。
彼は新たに用意された氷のナイフを握ると彼女の背後を取った。両手に握られた刃が交差するように彼女を切り裂く。
だが、それは一切の手ごたえを与えなかった。
リオは僅かに目を見開く。
ベルフェゴールは残像を残し、彼が対応できる速度を凌駕した動きでそれを躱してみせたのだ。
ならば、彼女は一体どこへ向かったのか。
残像を切り裂くに留まったリオは視線を彷徨わせた。
だが彼が敵の姿を見つけるよりも先に轟音が鼓膜を揺らす。
その音に導かれるように視線を動かせば、反対側からベルフェゴールと距離を詰めていたエリアスが彼女と対峙している様を捉える。
エリアスは敵の接近に辛うじて気付いたようで、すんでのところで身を躱していた。
彼の目と鼻の先で地面に大きな穴を空ける武器。
それは大鎌ではなかった。
人とは言い難い歪な姿を取るベルフェゴールの見目にクリスティーナは小さく呟く。
同じく驚いた様子のノアがその声に頷く。
「魔族は人族と近しい姿を持つというのが有名な話ではあるけれど……もしかしたらそれは仮初の物だったのかもしれない」
彼はいつでも助力できるようにと細心の注意を払い、険しい顔つきでベルフェゴールと前衛の三人の様子を窺う。
その顔色は良いとはとても言えないものだ。
「姿を変えるのも魔法の類だと仮定すれば、その労力を惜しむ程彼女追いこんでいる証拠にはなる。……ただしそれは同時に、彼女の戦闘能力が底上げされることに他ならない」
「……そっちはまだ掛かるの?」
クリスティーナは未だ光を絶やさない転移大結晶へ視線を向ける。
巨大な水晶が帯びる光は起動直後に比べて随分と強くなっている。
しかしノアは苦々しく頷いた。
「ああ。もう少し……あと少しなんだ」
焦りを滲ませる二人。移動が可能になるまでの時間を稼ぎきることが出来るのか、それとも前衛が倒れるのが先か。
前者であって欲しいと思いながらも、望みは決して高くないだろう現実が彼女達に重く伸し掛かっていた。
一方で前衛はベルフェゴールが放つ気迫に呑まれぬよう気を張りつめ、彼女の出方を窺っている。
その視界の中でベルフェゴールは傍に漂っていた大鎌を掴み直す。
それが殲滅の為の第一手であることは明らかであった。
故にリオとエリアスはそれを封じるべく動き出す。
先にベルフェゴールへ近づいたのはリオだ。
彼は新たに用意された氷のナイフを握ると彼女の背後を取った。両手に握られた刃が交差するように彼女を切り裂く。
だが、それは一切の手ごたえを与えなかった。
リオは僅かに目を見開く。
ベルフェゴールは残像を残し、彼が対応できる速度を凌駕した動きでそれを躱してみせたのだ。
ならば、彼女は一体どこへ向かったのか。
残像を切り裂くに留まったリオは視線を彷徨わせた。
だが彼が敵の姿を見つけるよりも先に轟音が鼓膜を揺らす。
その音に導かれるように視線を動かせば、反対側からベルフェゴールと距離を詰めていたエリアスが彼女と対峙している様を捉える。
エリアスは敵の接近に辛うじて気付いたようで、すんでのところで身を躱していた。
彼の目と鼻の先で地面に大きな穴を空ける武器。
それは大鎌ではなかった。
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