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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

61-2.目的の明確化

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「それと、ブレスレットに関連してもう一つ」
「何でしょう」
「先程の魔族……彼女はリオの魔力につられてやってきたようだった。ブレスレットを付けた君が撤退した後、魔力の気配が消えたことに反応していたから間違いないだろう」
「という事は俺が魔力を制御できない限り危険は付き纏うという事ですね」
「残念ながらそういうことだ。現時点で他に手立てはない」

 恐らくベルフェゴールはリオの膨大な魔力量をクリスティーナの物として誤認して接近してきたのだろう。
 魔族が反応する魔力がクリスティーナの物であろうとリオの物であろうと、行動を共にしている以上そこに大きな差はない。結果としてクリスティーナが見つかってしまえば同じことなのだ。

 しかし戦力不足という問題に直面している今、リオを手放すというわけにはもちろんいかない。アレットの魔導具の効果が切れた後も魔族の手から逃れる方法は考えていかなければならないだろう。
 そこまで思考を巡らせてからクリスティーナはそれ以上深く考えることをやめた。

 今は先のことよりも目下の問題――安全の確保を優先させるべきだ。

 そのことはリオもわかっているのだろう。暫し考え込む素振りを見せていたが、すぐに気持ちを切り替えたようだった。

「肝に銘じておきます。ありがとうございます」
「いいや、俺に出来ることは忠告程度だ。あまり役に立てなくて歯痒いよ」
「まさか。既に十分すぎるくらい力添えいただいてますよ」

 ならいいのだけれど、とノアははにかむ。
 そして視線をリオからオリヴィエへ向けた。

「さて。じゃあ次は君の番だ、リヴィ。君の事情は勿論把握している。その上で提案しているのには訳があるんだ」

 言ってみろとオリヴィエは無言で視線を投げかける。
 ノアはそれに甘んじる形で話を続ける。

「まず君は俺達を救出する過程で魔族と接触した……それも妨害という形でね。この時点で彼女からは敵対勢力と判定されていると考えていいだろう。君が単独で動いた時、彼女と遭遇したら間違いなく戦闘だ。君の能力は確かに優秀だが、分が悪いだろう」
「つまり僕があいつに負けると言いたいんだな」
「まあ、端的に言うならそうなる」

 眼鏡の奥で眉が寄せられ、黄緑の瞳は心外だと言いたげに細められた。

「やってみないとわからないだろう」
「わかったわかった。なら君が勝てるとしてもだ。怪我なんてしたらシャリーは悲しむだろう」

 友人が気を損ねたことを察したノアは話しを円滑に進める為に議論を避けた。代わりに出されたのは誰かの名。
 クリスティーナ達には聞き覚えのない名だったが、オリヴィエには効果的だったようだ。
 彼は苦い顔になり、明らかに狼狽える。

「彼女は関係ないだろう」
「そうかい」
「……けど、お前の案も一理あると思ったんだ」
「そういう事にしておこうか」

 客観的に見ても決定打は明らかだったが、苦し紛れの言い訳に触れることなくノアが笑顔で頷く。

「勿論、学院関係者に見つかる前に君が抜け出せる手立ては講じるよ」
「当たり前だ」

 相変わらず素っ気のない返事を返しながらオリヴィエは鼻を鳴らす。
 ノアの案に……というよりも魔法学院に対してだろうか。思うことはある様だったがそれを口にする様子はない。

「……さて、そういうことだ。これで晴れて満場一致だね。あとは行動に出るだけだ」

 異を唱える者がいなくなったことにより、全員の目的がより明確になる。
 場を取りまとめたノアの言葉を肯定するように一行は無言で視線を向けた。

 五人は最下層へ向かうべく先を急いだ。
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