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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

57-3.逃亡の策

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 国が厳重に保管しているそれらは一般人の手に渡ることは皆無と言えるだろう。
 具体的な用途は国交に関わる会議による責任者の移動や戦時の軍隊の派遣などだろうか。

「発見された転移結晶を高値で買い取ったり権力にものを言わせて回収したりしているものだが……フォルトゥナはその中でも強力な効力を備えていると言われる代物を二つ所持している。それが転移大結晶」
「転移結晶は大きさと効果の強さが比例しているのよね」
「うん。特に大きな転移結晶のことを大結晶と呼んでいるだけで、齎す効果の規模以外に違いはないよ」

 東大陸一の大国、イニティウム皇国にも転移大結晶が一つ存在する。確か王宮の地下で厳重に保管されていたはずだ。
 ノアはクリスティーナの確認に頷いた後に説明を続ける。

「一つは首都にある。普段は限られた人物しか近づけず、現在使用が許可されているのは国家魔導師の中でも一部の人間のみ。国のお偉いさん方の移動時や緊急時に使用される」

 彼は一つ目の転移結晶の所在を明確に知っているようだったが、敢えてそれをぼかした。
 それは適切な判断だと言えるだろう。仮に国民共通の認識であったり、目星がつけられるような場所に保管されているのだとしても、他国の、それも正体も定かではない人間に自ら言いふらすようなことではないはずだ。

「そしてもう一つ。これは造り上移動が難しく、無理に移動させれば損壊につながる恐れがある為に未だ撤去がされていないもの。今回の俺達の目的に当たる」

 確かに転移結晶で離れた場所への移動が可能ならば、そこまで辿り着けさえすればいくらでも逃げようはあるだろう。
 勿論部外者であるノアやオリヴィエがいる以上、彼らの立場や事情を鑑み、きちんと話し合った上で目的地を決める必要はあるが。それでも闇雲に逃げ回るよりも確実にベルフェゴールと距離を取ることが出来そうだ。

「……と、見えて来たね」

 更に何か話そうとしていたノアは続きは後にしよう、と途中で言葉を切った。彼の視線は進行方向へ向けられている。
 それにつられるように目線を動かせば、霧の先から大きな建物のシルエットが浮かび上がる。

「あれが『迷宮』だ」

 それは近づくにつれてはっきりとした輪郭を描いていく。
 所々罅割れ、経過した年月を彷彿とさせる塔。建てられた当初は豪奢な姿だったのだろう面影を残すそれはどこか緊迫した空気を醸しており、中へ足を踏み入れるものの覚悟を見定めている様であった。

 『迷宮』。数多の財を抱えた歴史的建造物。
 その一つが彼女達の前に立ちはだかっていた。
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