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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

57-2.逃亡の策

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「偉人の墓であるだとか、秘宝が眠っているだとか……。色々な憶測が飛び交ったり、実際に希少な物品が発見されたりはしているけれど、実際のところ建物自体の用途や分布する建築物同士の共通点なんかは定かではない」

 『建造物』の殆どは細く高い塔の姿をしているが、外観と全く異なる内装をしているという話は有名だ。
 聳え立つ塔の上層へ向かおうにも上へ向かう為の道が一切見つからなかったり、細いシルエットからは想像もできない程広大な迷路が広がっていたりと、実際に足を踏み入れるまで中の構造が一切予測できない仕組みとなっているのだ。

「ただ、そういった建物の中には現代人にすら真似ができないような古代の文明や優れた魔術の知識、実際にそれを使用したアーティファクト、当時の様子を事細かに記された歴史書などが頻繁に発見される。研究熱心な魔導師にはまさに知識と技術の宝庫と言って差し支えないだろう」

 ノアは人差し指を立てる。
 話し手へと視線を向けていたからかクリスティーナの視線が彼のものと交わり、藍色の目が片方だけ閉じられた。

「そして今まで発見された歴史的建造物のうち一つはここ、フォルトゥナに現存する。俺達の目的地だね」

 希少な歴史的建造物。その内一つをフォルトゥナが所持していることはクリスティーナも知っている。地理や歴史に触れたことのあるものであれば聞いたことはあるだろう話だ

 魔法学に通ずる国がその建物を保有することで更に魔法の研究が進む。
 フォルトゥナが大陸中トップクラスの魔法の技術という強みを得た背景。それは元より得ていた知識と魔法の見識を広げられる程の環境の間に良い循環が生まれたからだと考えられている。

「勿論目的は宝物の類じゃあない。最下層にある転移大結晶だ。……転移結晶は割と有名なアーティファクトだよね」

 クリスティーナは小さく頷く。
 聞き覚えのある単語だったのだろう。エリアスも特に口を挟まなかった。

「古代人が複雑な魔術を構成させて作り上げたアーティファクトですね」

 ノアの問いに明確な返答を与えたのはリオだった。
 彼は他国からやってきた自分達とノア達の間に認識の齟齬がないことを確認するように、事細かに補足を入れる。

「触れた者が過去に訪れたことのある地を思い浮かべることでそこへ瞬間的に移動することのできる代物ですね。その上、物によっては目的地へ一度に遅れる人数が一万を上ることもある。いくつかの大国や魔法に精通している国の上層部が所持、管理をしている……と聞いたことがあります」

「そう。研究は進んでいるものの現代人が生み出すまでには至っていない、非常に希少なアーティファクトだ」

 この国の主な移動手段は馬や徒歩だ。
 移動速度を速めることのできる魔導具等の開発は進んでいるものの、移動や物の運搬には相当の時間が生じている。
 更に道中ではならず者による襲撃などのリスクも伴う。故にそのリスクや時間の浪費という問題を解消する転移結晶は非常に重宝される代物なのだ。
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