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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

54-3.悪女のプライドと覚悟

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 まずは聖女の能力について、特に回復魔法以外の能力の詳細を知る必要がある。そしてそれを自在に操れるようになる技術も必要だろう。更には戦闘で咄嗟に応用できるだけの瞬発力と判断力を磨かなければならない。

 一つ熟せるようになればそれ以上の課題が見つかる。
 自分の旅路はどこまでも困難を極めるようだ。しかし手を抜くわけにはいかない。
 他者から指し示される使命やら期待やらの為に自分の望むことを手放してやる気などもう、微塵もないのだ。

 引き結ばれていた口が弧を描く。
 クリスティーナはどこか挑発めいた笑みを浮かべた。

「私は悪女のようだから。自己のちっぽけなプライドを守りたいし、その為に何でもしたいの」

 静かに耳を傾けていたリオは彼女の言葉を聞き遂げてから、やれやれと大袈裟に肩を竦める。

「……そうですね。今でも十分助けられてはいるのですが、強力だと言われている聖女の能力が自在に操れるようになればパーティーのバランスは更に安定するはずです」
「ええ」
「俺も一緒に頑張りますよ。お嬢様ばかりに頼る未来が来ないように」
「貴方は……それ以上は難しいのではないかしら」

 笑顔で自分を指す従者に思わず顔を顰めてしまう。
 ただでさえ人間離れした能力を有している彼は既に極地に達していると言っても過言ではないような気がするのだが。仮にこれ以上があるのだとすれば末恐ろしさすら感じるだろう。

 ええ、と不満げな声を漏らす本人はクリスティーナの言わんとしていることをあまり理解していなさそうである。
 クリスティーナはそんな彼から目を逸らし、もう一度自分達が来た方角を見やる。
 やや緩んだ空気が流れてはいるものの、彼女の心中には未だ大きな不安が居座っていた。

「心配ですか?」
「……いいえ。これ以上職務を放棄されたらたまったものじゃないと思ったまでよ。追いついてくれなければ困るわ」
「そうですか」

 自分の中で渦巻く不安を誤魔化すように嘘を吐いた。
 リオにはバレていただろうが、自分に言い聞かせなければ気持ちが沈んでしまうような気がしたのだ。

「行きましょう。話したいこともあるの」
「了解しました」

 クリスティーナ達は更に森の奥へと向かって歩みを進める。
 どこかのタイミングで後ろから声が掛かることを願って。
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