171 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
54-1.悪女のプライドと覚悟
しおりを挟む
霧が充満した森の中、リオは主人を抱き上げたまま駆け抜ける。
彼の脚力で移動すること十分程度。
目まぐるしく過ぎ去る景色からは凡その移動距離すら推測できないが、それでもエリアス達と随分離れてしまったことだけはクリスティーナにも察せられた。
「……追ってくる気配はありませんね」
クリスティーナを優しく地面へ降ろしながらリオは呟く。
その声につられるようにクリスティーナも振り返るが、霧に阻害された視界では遠くの景色を見る事すらままならない。
「リオ」
「ああ、お手数おかけしました」
クリスティーナは腕に抱えていた従者の首を両手で掲げてやる。
手元の首はそれに礼を告げ、分離していた体は頭が乗せやすいようにとその場で屈んでみせた。
グロテスクな首の断面に頭を乗せれば、本人の両手が慣れた手つきでそれを固定する。
そして首を一周するようについていた傷は短時間の内に姿を完全に消した。
両手で押さえずとも頭が落下しないことを確認してから、リオは息を吐く。
「すみません。反応が遅れたせいで不覚を取りました」
何を謝られているのかと瞬きを繰り返すクリスティーナ。
やがて初手で首を斬り落とされたことについての言葉であることに気付いたクリスティーナは怪訝そうな顔付きになった。
「あれは私を庇った結果だったと思うのだけれど」
「しかし、もう少し早く対応が出来ていれば撤退以外の選択が取れたかもしれません」
クリスティーナは反応すらできなかったのだ。あの場で咄嗟に体が動いただけでも十分仕事を熟したと評価されるべきなのだが。
彼の戦闘能力は非常に優れている。しかし首がある状態とない状態で発揮できる能力に差が生じるのは仕方のないことだ。
頭を失い、尚且つそれを回収して体勢を整える余裕もなかった彼は全力を出せないリスクを考えて撤退を選んだ。あの場で撤退を即決した裏にはそういう事情があったのだろうことは彼の発言から窺える。
「首があってもそうせざる得なかった可能性も十分にあるでしょう。もしもの話を一々広げられても聞かされるこちらが気疲れするわ」
「……だとしても、貴女はあの場に留まりたかった。そうでしょう?」
出来る限り平常心を保ちつつ責任の所在はないのだと伝える。
しかしリオは痛い所を衝いてきた。彼の指摘は事実であり、クリスティーナが今まさに気にしていることであったのだ。
彼の脚力で移動すること十分程度。
目まぐるしく過ぎ去る景色からは凡その移動距離すら推測できないが、それでもエリアス達と随分離れてしまったことだけはクリスティーナにも察せられた。
「……追ってくる気配はありませんね」
クリスティーナを優しく地面へ降ろしながらリオは呟く。
その声につられるようにクリスティーナも振り返るが、霧に阻害された視界では遠くの景色を見る事すらままならない。
「リオ」
「ああ、お手数おかけしました」
クリスティーナは腕に抱えていた従者の首を両手で掲げてやる。
手元の首はそれに礼を告げ、分離していた体は頭が乗せやすいようにとその場で屈んでみせた。
グロテスクな首の断面に頭を乗せれば、本人の両手が慣れた手つきでそれを固定する。
そして首を一周するようについていた傷は短時間の内に姿を完全に消した。
両手で押さえずとも頭が落下しないことを確認してから、リオは息を吐く。
「すみません。反応が遅れたせいで不覚を取りました」
何を謝られているのかと瞬きを繰り返すクリスティーナ。
やがて初手で首を斬り落とされたことについての言葉であることに気付いたクリスティーナは怪訝そうな顔付きになった。
「あれは私を庇った結果だったと思うのだけれど」
「しかし、もう少し早く対応が出来ていれば撤退以外の選択が取れたかもしれません」
クリスティーナは反応すらできなかったのだ。あの場で咄嗟に体が動いただけでも十分仕事を熟したと評価されるべきなのだが。
彼の戦闘能力は非常に優れている。しかし首がある状態とない状態で発揮できる能力に差が生じるのは仕方のないことだ。
頭を失い、尚且つそれを回収して体勢を整える余裕もなかった彼は全力を出せないリスクを考えて撤退を選んだ。あの場で撤退を即決した裏にはそういう事情があったのだろうことは彼の発言から窺える。
「首があってもそうせざる得なかった可能性も十分にあるでしょう。もしもの話を一々広げられても聞かされるこちらが気疲れするわ」
「……だとしても、貴女はあの場に留まりたかった。そうでしょう?」
出来る限り平常心を保ちつつ責任の所在はないのだと伝える。
しかしリオは痛い所を衝いてきた。彼の指摘は事実であり、クリスティーナが今まさに気にしていることであったのだ。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。
あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。
貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。
…あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?
アブストラクト・シンキング 人間編
時富まいむ(プロフ必読
ファンタジー
訳ありでここに連載している小説をカクヨムに移転、以降の更新をそちらで行います。
一月末まで公開しております
侵食した世界に隠された真実を子供たちは受け入れるのか、それとも・・・
どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
両親が勇者と魔王だなんて知らない〜平民だからと理不尽に追放されましたが当然ざまぁします〜
コレゼン
ファンタジー
「ランス、おまえみたいな適なしの無能はこのパーティーから追放だ!」
仲間だと思っていたパーティーメンバー。
彼らはランスを仲間となどと思っていなかった。
ランスは二つの強力なスキルで、パーティーをサポートしてきた。
だがそんなランスのスキルに嫉妬したメンバーたちは洞窟で亡き者にしようとする。
追放されたランス。
奴隷だったハイエルフ少女のミミとパーティーを組み。
そして冒険者として、どんどん成りあがっていく。
その一方でランスを追放した元パーティー。
彼らはどんどん没落していった。
気づけはランス達は、元パーティーをはるかに凌駕していた。
そんな中、ある人物からランスは自身の強力なスキルが、勇者と魔王の固有のスキルであることを知らされる。
「え!? 俺の両親って勇者と魔王?」
ランスは様々な争いに次々と巻き込まれていくが――
その勇者と魔王の力とランス自身の才によって、周囲の度肝を抜く結果を引き起こしてゆくのであった。
※新たに連載を開始しました。よければこちらもどうぞ!
魔王様は転生して追放される。今更戻ってきて欲しいといわれても、もう俺の昔の隷属たちは離してくれない。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/980968044/481690134
(ページ下部にもリンクがあります)
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・
y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える!
てってれてーてってれてーてててててー!
やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪
一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ
この小説の主人公は神崎 悠斗くん
前世では色々可哀想な人生を歩んでね…
まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪
前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる
久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく
色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー
友情、熱血、愛はあるかわかりません!
ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ
TS少女の猫耳ライフ ~チート装備を得て最強になったのはいいけどよ……なんで女の体になってんだ!? しかもその装備も何か変だしよお!~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
俺の名前はカエデ。
そんなこんなで、異世界に行くことになった。
それ自体はギリギリ受け入れられなくもないのだが――
『申し訳ありません。こちらの手違いで、転移時に少女の体に変質してしまったようです。テヘッ』
「おいこらっ!!」
つい、突っ込んでしまった。
女神のミスで、俺の性別が男から女に変わってしまっていた。
いわゆる、TSというやつだ。
『せめてものお詫びとして、最強のチート装備を送ります』
「おおっ! こういうのを求めていたんだよ!」
過ぎてしまったことは仕方ない。
さっそく、最強のチート装備とやらを確認しよう。
「……って、何だこれ?」
猫の着ぐるみじみた装備だ。
猫耳付きのフードに、モコモコしたボディ。
さらに、肉球付きの手袋と足袋まである。
『では、ご健闘をお祈りしていますね』
女神からの連絡はそこで途絶えた。
くそ~!
「こうなりゃヤケだ! 少女の体に猫耳装備をまとい、この世界で無双しまくってやるぜ!!!」
せいぜい楽しませてもらうことにしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる