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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
50-2.無気力な少女
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「……っ!」
驚いて振り返ると、漸く背後に立っていた相手の姿を視認する。
水色の髪の少女。宝石のように鮮やかな赤色を伴った彼女の瞳は僅かな驚きを表すように見開かれた。
伸ばされた腕は何もない虚空へ弾かれ、クリスティーナと彼女の間に立つように首のない体がたった今蹴り上げたらしい足を宙に浮かせていた。
両腕を地面に付けた代わりに浮かせた足で回し蹴りを繰り出したリオは更にその勢いを殺すことなく、両腕で地面を押し上げ、宙で体を捻りながら着地する。
「……そう。あなたは……」
ほんの一瞬驚きを顕わにした少女は一人で納得したように呟いた後、すぐに落ち着きを取り戻すと無言で前方に片手を翳す。
それ以外の予備動作も前触れもなく彼女の手の中には突如氷で形成された大鎌が握られた。
詠唱も、無から有が生み出される過程やそれにかかる時間も。人の中にある魔法の常識を全て無視したかのような魔法の行使。
呆気に取られるクリスティーナを他所に、少女は自身の身長を優に超える大鎌を軽々と振り被った。
地面と水平に振るわれた刃がリオの胴体を切断しようと目にも止まらぬ速さで彼へ迫る。
しかしリオは繰り出された攻撃を意にも留めず持ち前の脚力で前進した。
だがリーチが圧倒的に長い大鎌が相手ではリオが距離を詰め切るよりも先にその刃先が彼を捕らえてしまう。彼が自身の攻撃範囲ギリギリへ辿り着いた瞬間、大鎌はその軌道にリオの体を捕えた。
迫る刃。空を裂く音。
それは容易にリオに触れるかと思われたが彼はすんでのところで地面へ滑り込み、無傷で躱す。その体ギリギリを掠めるように大鎌が過ぎ去った。
しかし少女の猛攻はそれに留まることはない。
大鎌を振るったことによって生じた少女の隙を衝くようにリオは相手の懐へ潜り込んだ。
その頭上に影が差す。
彼の頭上には一瞬の内に生成された五十を超える氷の矢が浮いていた。そしてそれは一刻の余裕も与えまいと、無慈悲にも生み出された直後に肉を抉るには十分すぎる程の速度を持ってリオへ降り注いだ。
地面ごと抉る無数の騒音。濃霧に加えて砂埃が巻き起こり、視界は更に悪化する。
悪くなる視界や目に入る砂に思わず目を細めそうになるクリスティーナの視界。降り注ぐ槍が地面を抉る瞬間、それは被弾を避けるべく地面を転がったリオの姿を何とか収めていた。
多少被弾しつつも致命傷を回避した彼は地面に手を付いて体を捻る。
再度回し蹴りを試みる彼の足は先程とは違い、地面を掠めるかと思われる程低い位置へ放たれた。
それは攻撃へ意識を削がれていた少女の足を捕え、その体勢を崩すことに成功する。
不意を衝かれた少女は目を丸くしながらその場に尻餅をつく。
繰り広げられる戦いが高度な物であればある程、一秒という時は重要になる。一秒で命を左右する戦場に於いて、転倒による隙などもっての外である。
しかしリオは相手の転倒を確認すると同時に踵を返し、素早くクリスティーナを抱き上げた。
そしてそのまま自身の脚力を最大限に発揮して少女からの逃亡を図る。
驚いて振り返ると、漸く背後に立っていた相手の姿を視認する。
水色の髪の少女。宝石のように鮮やかな赤色を伴った彼女の瞳は僅かな驚きを表すように見開かれた。
伸ばされた腕は何もない虚空へ弾かれ、クリスティーナと彼女の間に立つように首のない体がたった今蹴り上げたらしい足を宙に浮かせていた。
両腕を地面に付けた代わりに浮かせた足で回し蹴りを繰り出したリオは更にその勢いを殺すことなく、両腕で地面を押し上げ、宙で体を捻りながら着地する。
「……そう。あなたは……」
ほんの一瞬驚きを顕わにした少女は一人で納得したように呟いた後、すぐに落ち着きを取り戻すと無言で前方に片手を翳す。
それ以外の予備動作も前触れもなく彼女の手の中には突如氷で形成された大鎌が握られた。
詠唱も、無から有が生み出される過程やそれにかかる時間も。人の中にある魔法の常識を全て無視したかのような魔法の行使。
呆気に取られるクリスティーナを他所に、少女は自身の身長を優に超える大鎌を軽々と振り被った。
地面と水平に振るわれた刃がリオの胴体を切断しようと目にも止まらぬ速さで彼へ迫る。
しかしリオは繰り出された攻撃を意にも留めず持ち前の脚力で前進した。
だがリーチが圧倒的に長い大鎌が相手ではリオが距離を詰め切るよりも先にその刃先が彼を捕らえてしまう。彼が自身の攻撃範囲ギリギリへ辿り着いた瞬間、大鎌はその軌道にリオの体を捕えた。
迫る刃。空を裂く音。
それは容易にリオに触れるかと思われたが彼はすんでのところで地面へ滑り込み、無傷で躱す。その体ギリギリを掠めるように大鎌が過ぎ去った。
しかし少女の猛攻はそれに留まることはない。
大鎌を振るったことによって生じた少女の隙を衝くようにリオは相手の懐へ潜り込んだ。
その頭上に影が差す。
彼の頭上には一瞬の内に生成された五十を超える氷の矢が浮いていた。そしてそれは一刻の余裕も与えまいと、無慈悲にも生み出された直後に肉を抉るには十分すぎる程の速度を持ってリオへ降り注いだ。
地面ごと抉る無数の騒音。濃霧に加えて砂埃が巻き起こり、視界は更に悪化する。
悪くなる視界や目に入る砂に思わず目を細めそうになるクリスティーナの視界。降り注ぐ槍が地面を抉る瞬間、それは被弾を避けるべく地面を転がったリオの姿を何とか収めていた。
多少被弾しつつも致命傷を回避した彼は地面に手を付いて体を捻る。
再度回し蹴りを試みる彼の足は先程とは違い、地面を掠めるかと思われる程低い位置へ放たれた。
それは攻撃へ意識を削がれていた少女の足を捕え、その体勢を崩すことに成功する。
不意を衝かれた少女は目を丸くしながらその場に尻餅をつく。
繰り広げられる戦いが高度な物であればある程、一秒という時は重要になる。一秒で命を左右する戦場に於いて、転倒による隙などもっての外である。
しかしリオは相手の転倒を確認すると同時に踵を返し、素早くクリスティーナを抱き上げた。
そしてそのまま自身の脚力を最大限に発揮して少女からの逃亡を図る。
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