上 下
152 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

49-1.走る緊張

しおりを挟む
「ああ、何だぁ? 俺達の出番はなさそうじゃねぇか!」

 シモンを連れたノアの様子や返り血を浴びたエリアスの様子を見て、合流したオーバンが開口一番に文句を言う。

「皆、どうしてここに?」

 先程涙した面影を残さない様に、ノアは普段と同じ声音を取り持つ。
 投げかけられた問いにオーバンは不服そうに顔を顰めた。

「そっちの嬢ちゃん達がお前を助けに行って、付き合いの長ぇ俺達が助けに行かない理由なんてねーだろうが」
「森へ向かう嬢ちゃん達を見て、負けてらんねーって焚きつけられたのさ」
「あ、おい!」

 にやにやと笑いながら告げ口をする冒険者の女性をどつき、オーバンはノアから目を逸らした。
 どういうことかと問う様にノアはクリスティーナの顔を見たが、喧嘩を売ったと言っていたリオの言葉を思い出したのか事の経緯を自力で予測したらしい。
 小さく吹き出された彼の笑いはオーバン達の耳にも届き、あっという間に彼は締め技を食らわされることになる。

「なーに笑ってるんだお前!」
「あいだだだっ、死んじゃう、死んじゃうってぇ!」

 大袈裟に悲鳴を上げるものの、十分に手加減はされているのだろう。目が合い、笑いかけてくるノアを見ながらクリスティーナは肩を竦めた。

 気遣いや親切といった優しさは与えすぎると毒にもなり得る。何もせずとも与えられる甘美な蜜に人は依存し、やがてそれが当たり前となり、甘えとなって現れる。
 彼が無作為に人へ与える優しさは毒としての素質が十二分にあった。その結果彼が与える親切を享受し、自ら動くという考えを鈍らせた人々が大量に生産される。

 彼はそれを知っていたはずだ。けれど自分の為だからと他者から向けられる期待を裏切ることなく、愚行そのものである親切を続けた。
 そして同時に、本来あるべき感謝や敬愛……他者が自身へ向けるはずだった純粋な好意を諦めた。

 度を越えた優しさは毒だ。しかし彼が他者へ与えたのは親切だけではない。
 自分の為と彼は言うが、例え打算の基に生まれた行いだとしても彼が相手を想う気持ちも本物であるはずだ。
 他者を見限ることで自分を好きだと言えなくなる可能性があるということはつまり、他者を心から想いやる気持ちが彼の中にあるということである。彼は何も機械的に愚行を続けたわけではない。
 人を助けたいと思うその瞬間、彼はその人の境遇に共感して、またはその人自身のことを思いやって動いてきたのだろう。

 例え自分の為の行いであったとしても、彼の中に生まれていた想いもまた偽物ではないのだ。
 そして彼から与えられたものが優しさだけではないことに気付ける者がいるならば、彼に自分の予測を越えた光景を見せてくれることもあるだろう。

 今回のオーバン達はまさしくそうであるとクリスティーナは思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

アブストラクト・シンキング 人間編

時富まいむ(プロフ必読
ファンタジー
訳ありでここに連載している小説をカクヨムに移転、以降の更新をそちらで行います。 一月末まで公開しております 侵食した世界に隠された真実を子供たちは受け入れるのか、それとも・・・

乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚

水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ! そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!! 最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。 だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。 チートの成長率ってよく分からないです。 初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。 会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!! あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。 あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・

y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える! てってれてーてってれてーてててててー! やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪ 一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ この小説の主人公は神崎 悠斗くん 前世では色々可哀想な人生を歩んでね… まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪ 前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる 久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく 色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー 友情、熱血、愛はあるかわかりません! ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ

じーさんず & We are

Tro
ファンタジー
むかしむかし、あるところに、お爺さんとお爺さんがいました。 最初のお爺さんは、かつて魔王と呼ばれ、好き放題な人生を送ったと聞いていますが、 今はただのジジイです。 その次のお爺さんは、かつて勇者と呼ばれ、果敢に魔王に挑んだようですが見事に敗れ、 その後、悲惨な人生を送ったと聞いています。今はただのジジイです。 そんな元・勇者が魔王の隠居話を聞きつけてリベンジにやって来ました。 しかし本当の狙いは復讐ではなかったようです。 現魔王である私が、このジジイ達の行く末を物語っていきます。 ですがそう長くはありません、行く末ですから。 ※この作品で使用している画像は全てpixabay(https://pixabay.com/)から商用利用無料、帰属表示不要の画像のみを使用しています。

処理中です...