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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
49-1.走る緊張
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「ああ、何だぁ? 俺達の出番はなさそうじゃねぇか!」
シモンを連れたノアの様子や返り血を浴びたエリアスの様子を見て、合流したオーバンが開口一番に文句を言う。
「皆、どうしてここに?」
先程涙した面影を残さない様に、ノアは普段と同じ声音を取り持つ。
投げかけられた問いにオーバンは不服そうに顔を顰めた。
「そっちの嬢ちゃん達がお前を助けに行って、付き合いの長ぇ俺達が助けに行かない理由なんてねーだろうが」
「森へ向かう嬢ちゃん達を見て、負けてらんねーって焚きつけられたのさ」
「あ、おい!」
にやにやと笑いながら告げ口をする冒険者の女性をどつき、オーバンはノアから目を逸らした。
どういうことかと問う様にノアはクリスティーナの顔を見たが、喧嘩を売ったと言っていたリオの言葉を思い出したのか事の経緯を自力で予測したらしい。
小さく吹き出された彼の笑いはオーバン達の耳にも届き、あっという間に彼は締め技を食らわされることになる。
「なーに笑ってるんだお前!」
「あいだだだっ、死んじゃう、死んじゃうってぇ!」
大袈裟に悲鳴を上げるものの、十分に手加減はされているのだろう。目が合い、笑いかけてくるノアを見ながらクリスティーナは肩を竦めた。
気遣いや親切といった優しさは与えすぎると毒にもなり得る。何もせずとも与えられる甘美な蜜に人は依存し、やがてそれが当たり前となり、甘えとなって現れる。
彼が無作為に人へ与える優しさは毒としての素質が十二分にあった。その結果彼が与える親切を享受し、自ら動くという考えを鈍らせた人々が大量に生産される。
彼はそれを知っていたはずだ。けれど自分の為だからと他者から向けられる期待を裏切ることなく、愚行そのものである親切を続けた。
そして同時に、本来あるべき感謝や敬愛……他者が自身へ向けるはずだった純粋な好意を諦めた。
度を越えた優しさは毒だ。しかし彼が他者へ与えたのは親切だけではない。
自分の為と彼は言うが、例え打算の基に生まれた行いだとしても彼が相手を想う気持ちも本物であるはずだ。
他者を見限ることで自分を好きだと言えなくなる可能性があるということはつまり、他者を心から想いやる気持ちが彼の中にあるということである。彼は何も機械的に愚行を続けたわけではない。
人を助けたいと思うその瞬間、彼はその人の境遇に共感して、またはその人自身のことを思いやって動いてきたのだろう。
例え自分の為の行いであったとしても、彼の中に生まれていた想いもまた偽物ではないのだ。
そして彼から与えられたものが優しさだけではないことに気付ける者がいるならば、彼に自分の予測を越えた光景を見せてくれることもあるだろう。
今回のオーバン達はまさしくそうであるとクリスティーナは思った。
シモンを連れたノアの様子や返り血を浴びたエリアスの様子を見て、合流したオーバンが開口一番に文句を言う。
「皆、どうしてここに?」
先程涙した面影を残さない様に、ノアは普段と同じ声音を取り持つ。
投げかけられた問いにオーバンは不服そうに顔を顰めた。
「そっちの嬢ちゃん達がお前を助けに行って、付き合いの長ぇ俺達が助けに行かない理由なんてねーだろうが」
「森へ向かう嬢ちゃん達を見て、負けてらんねーって焚きつけられたのさ」
「あ、おい!」
にやにやと笑いながら告げ口をする冒険者の女性をどつき、オーバンはノアから目を逸らした。
どういうことかと問う様にノアはクリスティーナの顔を見たが、喧嘩を売ったと言っていたリオの言葉を思い出したのか事の経緯を自力で予測したらしい。
小さく吹き出された彼の笑いはオーバン達の耳にも届き、あっという間に彼は締め技を食らわされることになる。
「なーに笑ってるんだお前!」
「あいだだだっ、死んじゃう、死んじゃうってぇ!」
大袈裟に悲鳴を上げるものの、十分に手加減はされているのだろう。目が合い、笑いかけてくるノアを見ながらクリスティーナは肩を竦めた。
気遣いや親切といった優しさは与えすぎると毒にもなり得る。何もせずとも与えられる甘美な蜜に人は依存し、やがてそれが当たり前となり、甘えとなって現れる。
彼が無作為に人へ与える優しさは毒としての素質が十二分にあった。その結果彼が与える親切を享受し、自ら動くという考えを鈍らせた人々が大量に生産される。
彼はそれを知っていたはずだ。けれど自分の為だからと他者から向けられる期待を裏切ることなく、愚行そのものである親切を続けた。
そして同時に、本来あるべき感謝や敬愛……他者が自身へ向けるはずだった純粋な好意を諦めた。
度を越えた優しさは毒だ。しかし彼が他者へ与えたのは親切だけではない。
自分の為と彼は言うが、例え打算の基に生まれた行いだとしても彼が相手を想う気持ちも本物であるはずだ。
他者を見限ることで自分を好きだと言えなくなる可能性があるということはつまり、他者を心から想いやる気持ちが彼の中にあるということである。彼は何も機械的に愚行を続けたわけではない。
人を助けたいと思うその瞬間、彼はその人の境遇に共感して、またはその人自身のことを思いやって動いてきたのだろう。
例え自分の為の行いであったとしても、彼の中に生まれていた想いもまた偽物ではないのだ。
そして彼から与えられたものが優しさだけではないことに気付ける者がいるならば、彼に自分の予測を越えた光景を見せてくれることもあるだろう。
今回のオーバン達はまさしくそうであるとクリスティーナは思った。
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