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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

48-5.達観と盲目

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「……私達以外にもいるじゃない。案外貴方が気付いていないだけかもしれないわね」
「はは、そうかもしれないね」

 がっちりと腕の中に拘束した上でシモンに頬擦りしていたノアはその動きを止めて穏やかに微笑む。
 一方でシモンは照れ臭いのか、顔を真っ赤にしたまま暴れたままだ。

 そろそろ移動を再開しようと進行方向を見やったクリスティーナ。
 その時自分の耳が何かを拾い、彼女は深々とため息を吐いた。
 恐らく彼女よりも前に気付いていただろうリオとエリアスはやれやれと肩を竦めて笑っており、騒いでいて気が付くことの出来なかったノアとシモンは不思議そうに瞬きをしている。

「敵襲?」
「いいえ」

 杖を構えて立ち上がるノアにリオが首を横に振る。
 彼はそれ以上語るつもりがないようで、代わりに自分の目で見ればいいと進行方向を顎で指し示す。
 ノアはそれに従う様に濃霧の先へ目を凝らし、遅れてその正体に気付いた。

「撤回するわ」

 呆然と立ち尽くす彼の横で、クリスティーナは鼻で笑う。

 五人の視線の先。徐々に距離を詰めるそれはクリスティーナ達へ近づくにつれてその輪郭を明らかにしていく。
 更に聞こえるのはノアの声を呼ぶ野太い男女の声だ。

 やがて霧の中から姿を現したのはオーバンを先頭にした十を越える冒険者達。

 自分のしてきたことが誰かの心を動かせなくてもいいと彼は言っていた。だから自分のしてきたことがそのまま返ってこずとも構わないのだと。
 それは嘘ではないのだろう。

 けれど平気だということと期待してしまうことは別の感情だ。
 わかっていると諦めたつもりになっていた彼はきっと、心のどこかで期待していたのだ。
 もしかしたら、自分の予想を裏切ってくれる人がいるのではないか。そんな思いがきっとあったはず。

「……貴方の目って、案外節穴なのね?」
「っ……もぉ~~、なんなんだよぉ……っ」

 そんな予測には、ノアの反応を見れば誰だって行き着くことが出来るだろう。

 何度も耐えていた彼の感情が堤防を決壊させて溢れ出す。
 口を小さく戦慄かせ、強がるように文句を垂れる彼は眉根を寄せて深く俯いた。
 被り直したフードの下で唇を噛みしめる彼の頬を一粒の雫が流れ落ちる。

 目を見ずとも、顔を隠されていてもわかる。
 きっと彼の滲んだ瞳には安堵と喜びの色がはっきりと浮かんでいることだろう。

 クリスティーナは涙を流す彼の姿に気付かないふりをしてやることにした。
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