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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

48-3.達観と盲目

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「んー、そうは言ってもさ、ノア。例え理由があってやってることだとしてもそれが当たり前だと思われるのは……それに対して何もないってのは、やっぱ寂しくないか?」

 ずっと静観していたエリアスが眉を下げた。
 彼の言葉にノアは暫し思考を巡らせてから苦笑を零す。

「そりゃ、感謝されたり好意が返ってきたりすれば嬉しい。大勢とまではいかずとも誰かの心の中で特別な存在として残ることが出来たのなら、俺の人生は更に色付くことだろう」
「ノア……」
「けれど、やっぱり一番大切なのは自分が自分を好きでいることだと思うんだ。だから、俺のしてきたことが誰かの心を動かすことになり得ないとしても俺はそれでいいんだよ」

 途中、エリアスが何かを言いかける。しかしノアの切なくも真っ直ぐ先を見据える様な目を見て言葉を呑み込み、結局「そっか」とだけ呟いた。
 思うことはあれど、それに対する簡単な同情も労いも彼には不要だと、そう藍色の瞳が告げている。

「……心外だわ」
「え?」

 しかしそんな中、クリスティーナはぽつりと不服を述べた。
 何か気を損ねるようなことを言ってしまったのかと自身の言動を思い返すノアの姿を視界に留め乍ら彼女は続ける。

「貴方は自身の在り方を模索するのに必死なあまり、貴方自身の強みである洞察力を扱いきれていない」
「どういうことだい?」

 クリスティーナの言葉の意図がわからず困った様に答えを求めるノア。
 仕方がないと言いたげに深く息を吐いてからクリスティーナは言った。

「貴方はもう既に人の心を動かしているというのに、それに気付いてやることすら出来ないのね」
「クリス……」

 見開かれた目は彼女の言わんとしたことを悟ったのだと伝える。
 その表情に構うことなくクリスティーナ目を細めて続きを述べた。

「貴方は私達の力になった。貴方のしたことは今後、私達が身を守る為大いに役立つことよ」

 異論は認めないと強い口調でクリスティーナはノアを諭す。

「貴方が手を尽くしてくれた指導は私の好奇心を擽らせたわ。もっと自ら学んでもいいと思わせた」

 クリスティーナの隣にいたリオが彼女の声を聞きながら静かに目を閉じて微笑んでいる。
 彼女の話の向かう先を見守る様に、耳だけを傾けている。

「私達はここへ来た。礼も報酬もろくに渡していない貴方に死なれたら寝覚めが悪いから……心から感謝しているからよ」

 その場にいるクリスティーナとノア以外がそれぞれ笑いかける。
 クリスティーナの言葉に同意すると言う様に。
 ノアは面食らったままに、四人を見回した。

「今までの態度を鑑みて他者に対し高望みをしないのも、諦めを抱くのも結構だわ。けれど真実に気付けない程に目を閉じるのは怠慢以外の何物でもない。見たがっている物が目の前にある。けれどそれに気付くことが出来ない。……それでは意味がないでしょう」
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