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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
45-2.水遣いの応戦
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「……っ!」
彼の頬とフードの一部を鋭い爪が切り裂く。
「……ほんと、どうなってるわけ」
心配そうに名前を呼ぶシモンに大丈夫だと片手を振り、頬を流れる血を雑に拭い取る。
ノアは杖を構える。
魔物が五体。二人を囲むように姿を現した。
一方でノアは背後を取られないようゆっくりと後退をする。
オーケアヌス魔法学院の生徒は時折実践演習として魔物と対峙する授業を受ける。
しかし原則教師の監視の元、数人編成の班を形成しての戦闘形態である為命の危機に瀕するという事態は発生しない。
更に授業で討伐に当たる魔物の数は精々二、三体。
単独で、しかも相手が五体となるとノアが経験したことのない領域である。
(流石にきつい、かなぁ)
身の危険を覚えて杖を握った手が震えるが、シモンにバレることがないようその手に力を込めて誤魔化した。
――せめて、シモンを逃がすことさえできれば。
気に掛けるのが己の身一つであれば撃退は出来ずとも逃走くらいなら可能であったかもしれない。
もし自分が一人でなかったのなら。今ここで誰かが駆けつけてくれたのなら――
(……ないなぁ)
ふと過った考えをノアは否定する。
真っ先に浮かんだのは親しい冒険者達だったが、彼らは慎重で賢い。誰かの為に危ない橋を渡ることはないだろう。
今のノアの立場が例えば、依頼を共に熟す家族同然のパーティーメンバーであればまた違ったかもしれないが。
ノアは、自分が彼らにとって特別な存在ではないことを知っていた。
自分が彼らを特別視していないからだ。
他者へ向ける気持ちの強さは、自分が他者から向けられている気持ちの強さと同等であることが多い。
例えば、相手から嫌われていると感じれば理由もなくわざわざ好意を抱きに行くことはないし、相手が自分に対して強い好意を向けてくれていれば多少なりともプラスの気持ちが働くものだ。
勿論恋愛等による過剰すぎる愛情表現など、例外は多岐に渡るが。
少なくとも、自分と彼らの関係は同等の感情の働きによって築かれているものであるとノアは考えていた。
ノアは人に親切にする。どんな人間であっても自分に出来る限りのことで尽くす。それが初めて出会った者であってたとしても。
ノアは大抵の人間と仲良くなることが出来る。相手の警戒心を丁寧に解して、気が付けば軽口を言い合える仲に進展している。
ノアは『誰に対しても』親切で、気さくに話す。
殆どの人間に対して、全く同じ温度と距離間で接するのだ。初めての相手も、何年物付き合いがある人間も同じ価値でしか捉えることができない。
故に、それに勘づく人間は彼と同じだけの距離を取る。彼に深く干渉することはせず、気楽な友人として、しかし替えの利く立場として関わるのだ。
彼らは賢い。だからきっと自分の元へは来ない。
「やるしかない、よね」
ああだこうだと考えたところで、状況が好転することはない
ノアは深く息を吐いた。空元気に口角を上げて杖を構える。
彼の頬とフードの一部を鋭い爪が切り裂く。
「……ほんと、どうなってるわけ」
心配そうに名前を呼ぶシモンに大丈夫だと片手を振り、頬を流れる血を雑に拭い取る。
ノアは杖を構える。
魔物が五体。二人を囲むように姿を現した。
一方でノアは背後を取られないようゆっくりと後退をする。
オーケアヌス魔法学院の生徒は時折実践演習として魔物と対峙する授業を受ける。
しかし原則教師の監視の元、数人編成の班を形成しての戦闘形態である為命の危機に瀕するという事態は発生しない。
更に授業で討伐に当たる魔物の数は精々二、三体。
単独で、しかも相手が五体となるとノアが経験したことのない領域である。
(流石にきつい、かなぁ)
身の危険を覚えて杖を握った手が震えるが、シモンにバレることがないようその手に力を込めて誤魔化した。
――せめて、シモンを逃がすことさえできれば。
気に掛けるのが己の身一つであれば撃退は出来ずとも逃走くらいなら可能であったかもしれない。
もし自分が一人でなかったのなら。今ここで誰かが駆けつけてくれたのなら――
(……ないなぁ)
ふと過った考えをノアは否定する。
真っ先に浮かんだのは親しい冒険者達だったが、彼らは慎重で賢い。誰かの為に危ない橋を渡ることはないだろう。
今のノアの立場が例えば、依頼を共に熟す家族同然のパーティーメンバーであればまた違ったかもしれないが。
ノアは、自分が彼らにとって特別な存在ではないことを知っていた。
自分が彼らを特別視していないからだ。
他者へ向ける気持ちの強さは、自分が他者から向けられている気持ちの強さと同等であることが多い。
例えば、相手から嫌われていると感じれば理由もなくわざわざ好意を抱きに行くことはないし、相手が自分に対して強い好意を向けてくれていれば多少なりともプラスの気持ちが働くものだ。
勿論恋愛等による過剰すぎる愛情表現など、例外は多岐に渡るが。
少なくとも、自分と彼らの関係は同等の感情の働きによって築かれているものであるとノアは考えていた。
ノアは人に親切にする。どんな人間であっても自分に出来る限りのことで尽くす。それが初めて出会った者であってたとしても。
ノアは大抵の人間と仲良くなることが出来る。相手の警戒心を丁寧に解して、気が付けば軽口を言い合える仲に進展している。
ノアは『誰に対しても』親切で、気さくに話す。
殆どの人間に対して、全く同じ温度と距離間で接するのだ。初めての相手も、何年物付き合いがある人間も同じ価値でしか捉えることができない。
故に、それに勘づく人間は彼と同じだけの距離を取る。彼に深く干渉することはせず、気楽な友人として、しかし替えの利く立場として関わるのだ。
彼らは賢い。だからきっと自分の元へは来ない。
「やるしかない、よね」
ああだこうだと考えたところで、状況が好転することはない
ノアは深く息を吐いた。空元気に口角を上げて杖を構える。
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