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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
42-2.守るという意義
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しかし、残念ながらノアは聡い。
クリスティーナ達の指導に当たる時だけでも、彼の周囲をよく見る能力や相手の顔色を的確に窺える能力に感心する場面が何度もあった。
そういう面はクリスティーナと非常によく似ているのだろう。
(それにあの時の目は……)
ルイーズに縋りつかれた時のノアの表情を思い出す。
揺らいだ双眸。何かを悟った様な顔と、その奥に孕む諦観。躊躇いと疑念と、悲哀。
複雑な色を織り交ぜて揺らぐ瞳が、クリスティーナに確信を齎した。
彼はルイーズすらも意識していなかったかもしれない言葉の意図に全て気付いていたのだ。気付いた上で、それが愚かな選択だとわかっていながらも頷いたのだ。
クリスティーナは、何故だかそれが許せなかった。
「お嬢様はノア様を買っていらっしゃるのですね」
「買う?」
リオの言葉の意図が見えず、思わず振り返って問いかける。
漸く目が合ったことに微笑みながらリオは頷く。
「はい。あの方のことを買っているから、それを下に見られたり他者に搾取されるような姿が気に食わないのではないですか?」
クリスティーナは暫し瞬きを繰り返す。
わざわざ愚行を選ぶノアにもどかしさを覚えているのだとクリスティーナは己の感情を分析していたのだが、それも彼がもっと上手く出来ることを知っているから……つまり彼のことを買っているからだと言われてしまえば辻褄が合う。
目から鱗だと面食らう主人の様子に従者は再び苦笑を零した。
「なんでこうも、不器用なんですかね」
「主人を下げるような物言いは不敬だわ」
「それは失礼しました」
言葉では謝罪するものの、表情は相変わらずへらへらしている。
……いや、へらへらというよりもにこにことしている。
やや呆れ混じりに眉は下げられているが、和らげられた目尻と口元に緩やかな弧を描いて作られた笑みは慈愛に満ちている。
主人の顔を覗き込むように首を傾ける彼の顔が非常に精巧な作りである分、急に優しい顔をされると反応に困るのが少し悔しい。
「……貴方を咎めているつもりなのだけれど」
「どうかしましたか?」
しかもこれが無自覚だという。
日頃外面用の笑みばかりを作る癖、時折見せる気の抜けるような微笑。それによる主人の動揺を誘うまでが目論見なのではないかと疑ってしまいそうだ。
何でもないと首を横に振るクリスティーナに素直に頷いた従者は少しの間、話すことをやめた。
一室を静寂が包んだことによって、街の喧騒が嫌でも耳に入る様になる。
昨日の訓練の後から魔力制御は続けているが、考え事をする程度の余力は残されている。それに加えて先程の玄関でのやり取りもあってか、どうしても窓の外が気になってしまう。
「お言葉ですが」
やがて霧のせいで数メートル先の様子すら定かではないのにもかかわらず窓ばかり眺める主人の姿を見て、リオが再び口を開いた。
クリスティーナ達の指導に当たる時だけでも、彼の周囲をよく見る能力や相手の顔色を的確に窺える能力に感心する場面が何度もあった。
そういう面はクリスティーナと非常によく似ているのだろう。
(それにあの時の目は……)
ルイーズに縋りつかれた時のノアの表情を思い出す。
揺らいだ双眸。何かを悟った様な顔と、その奥に孕む諦観。躊躇いと疑念と、悲哀。
複雑な色を織り交ぜて揺らぐ瞳が、クリスティーナに確信を齎した。
彼はルイーズすらも意識していなかったかもしれない言葉の意図に全て気付いていたのだ。気付いた上で、それが愚かな選択だとわかっていながらも頷いたのだ。
クリスティーナは、何故だかそれが許せなかった。
「お嬢様はノア様を買っていらっしゃるのですね」
「買う?」
リオの言葉の意図が見えず、思わず振り返って問いかける。
漸く目が合ったことに微笑みながらリオは頷く。
「はい。あの方のことを買っているから、それを下に見られたり他者に搾取されるような姿が気に食わないのではないですか?」
クリスティーナは暫し瞬きを繰り返す。
わざわざ愚行を選ぶノアにもどかしさを覚えているのだとクリスティーナは己の感情を分析していたのだが、それも彼がもっと上手く出来ることを知っているから……つまり彼のことを買っているからだと言われてしまえば辻褄が合う。
目から鱗だと面食らう主人の様子に従者は再び苦笑を零した。
「なんでこうも、不器用なんですかね」
「主人を下げるような物言いは不敬だわ」
「それは失礼しました」
言葉では謝罪するものの、表情は相変わらずへらへらしている。
……いや、へらへらというよりもにこにことしている。
やや呆れ混じりに眉は下げられているが、和らげられた目尻と口元に緩やかな弧を描いて作られた笑みは慈愛に満ちている。
主人の顔を覗き込むように首を傾ける彼の顔が非常に精巧な作りである分、急に優しい顔をされると反応に困るのが少し悔しい。
「……貴方を咎めているつもりなのだけれど」
「どうかしましたか?」
しかもこれが無自覚だという。
日頃外面用の笑みばかりを作る癖、時折見せる気の抜けるような微笑。それによる主人の動揺を誘うまでが目論見なのではないかと疑ってしまいそうだ。
何でもないと首を横に振るクリスティーナに素直に頷いた従者は少しの間、話すことをやめた。
一室を静寂が包んだことによって、街の喧騒が嫌でも耳に入る様になる。
昨日の訓練の後から魔力制御は続けているが、考え事をする程度の余力は残されている。それに加えて先程の玄関でのやり取りもあってか、どうしても窓の外が気になってしまう。
「お言葉ですが」
やがて霧のせいで数メートル先の様子すら定かではないのにもかかわらず窓ばかり眺める主人の姿を見て、リオが再び口を開いた。
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