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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

41-4.静かな睨み合い

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 冒険者をあまり必要としない国の在り方、国内の冒険者の後衛不足。
 以上の要因を理解した上で冒険者という職を選ぶ者達。

 それらを鑑みるに、この地に留まる冒険者というのは刺激や名声に飢えた者ではなく、リスクを押さえて己の身の安全を大前提とする堅実な者が多いのだろう。

「安全圏で武力を行使して鼻だけ伸ばす。結局はお金。危険を感じたら我が身可愛さに尻尾を巻いて逃げる。とても合理的で人間らしいわ」

 それが悪いことだとは微塵も思わない。むしろ賢い生き方だと思う。
 けれどこの時のクリスティーナは敢えて鼻につく物言いに徹した。

「……思っていたよりも大した事はないのね?」

 クリスティーナは挑発的に微笑む。日頃から冷たい印象を与えやすい顔立ちではその微笑も必要以上に底意地の悪そうなものへ映ったことだろう。

 世間話をしているかのように穏やかな口調と、それに相反するような直接的な罵倒。オーバンは数秒程面食らってから眉間に皺を寄せ、歯ぎしりをしながら太い両腕に拳を作った。

 ここで掴みかかったり暴力を振るわない辺り、やはり彼は日頃の言動に反して理性的な人間なのだろう。クリスティーナは彼をそのように評価した。

「戻るわ」

 怒りを顕わに睨みつける大男に背中を向け、クリスティーナは宿へ足を踏み入れる。

「……好き勝手言ってくれてるが、自分こそどうなんだ。お嬢ちゃん」

 リオが続き、宿の扉を閉めようとしたところでオーバンが口を開く。
 クリスティーナは足を止め、リオを片手で制してからその言葉に耳を傾ける。

「お前らだってノアのダチなんだろ? けど俺の話を聞いてもあいつを助けに行く素振り一つ見せず、今も安全な屋根の下へ引っ込もうとしている。そんなお前が俺達に何か言えるたぁ、相当良いご身分のようだな」
「良いご身分、という部分を否定するつもりはないけれど。誤解のないように言っておくわ」

 半身で振り返り、再びオーバンの顔を見てクリスティーナは告げる。

「私達が彼と知り合ったのは二週間前。それよりも前から関係を築いている貴方達ですら、相手の為に動けないような薄っぺらい絆でしか繋がっていないというのに。どうして私達に動く理由があると言えるのかしら」

 制していた片手を下ろして、扉を閉めるよう指示をする。
 今度こそオーバンの元から立ち去りながら、クリスティーナは最後に呟いた。

「私も私の身が一番可愛いの。お揃いね、私達」

 くすくすという上品な、それでいて相手の神経を逆なでるような嘲笑。それは扉の閉まる音によって掻き消された。
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