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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

41-3.静かな睨み合い

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「水……」

 クリスティーナは首を傾げる。

 魔法適性が一種のみというのは何もおかしなことではない。クリスティーナやリオも一種のみだし、大陸規模で見ても人口の半数以上は一種か二種しか持っていないだろう。
 ノアが見せた魔法は確かに水を生み出すものばかりだったことを考えても、適性が水のみという話は納得のいく話だ。
 それがどうかしたのかと問おうとしたクリスティーナへリオが小さく呟く。

「水は戦闘向きではありませんね」

 なるほどと頷く。
 火、雷は元より、氷や風、土は鋭さや強度を上げることで対象を傷つけることもできる。
 しかし戦闘面に於ける水魔法はわかりやすく外傷を与えられるような魔法は少ないのではないだろうか。少なくともクリスティーナに心当たりはない。
 水を使った戦闘を想定するならば、クリスティーナが思いつくのは窒息させるか水温上昇で火傷を負わせるかの二択くらいだ。他の種に比べて戦闘に有力な手段が少ないだろうことは想像が出来た。

「いくら学院の生徒だとしても、魔物と遭遇しても水しか扱えねぇってなるとな。数で囲まれちゃどうしようもねぇ」

 オーバンの言葉に、クリスティーナは森のある方角を見やる。
 霧は魔物の動きにどれだけの影響を与えるのかはわからない。わからないということは想定外の危機に陥ることも考えられるということだ。

「そういえば」
「んぁ?」
「こういう時、冒険者は動かないのね」

 街の様子を見たところ、冒険者らしき人間の姿はない。

「ああ。俺達ぁ、報酬がそのリスクが見合うものかを判断した上で依頼を受けるからな。霧に関する依頼も出てはいるが、受ける奴らがいねぇ。そういう状態だ」
「つまり冒険者の殆どはこの霧に物怖じしていると、そういうことね」
「……おいおい、何が言いたいんだ?」

 オーバンの顔が引き攣る。
 一方でクリスティーナは彼の様子に気付いていないふりをしながら小首を傾げる。

「いいえ、特に何も。ただ、冒険者という職業を買い被り過ぎていたのかもしれないと思っただけよ」

 オーバンの携える武器をクリスティーナは指さす。
 突き出した人差し指の先を揺り動かしながら青い双眸を細めた。

「日々体を張り、浪漫と功績を求めて金銭を得る。そういう勇敢な方々の集まりだと思っていたものだから」

 物語に取り上げられる脚色された姿とまではいかずとも敵意ある存在と相対し、常にリスクを負う職。
 地域によってはその存在の心強さが際立ち、重宝されることだろう。

 しかしよくよく考えればこの国は腕利きの魔導師が集う国。冒険者の勇敢さに頼らずとも国が認めた魔導師がその才を存分に奮って国を守る。

 更に冒険者ギルドへ足を踏み入れた時のことを思い返してみると、肉体を鍛えている者達が集う中、魔導師らしき者の姿は殆ど見られなかったように思える。
 それは腕利きの魔導師達が国単位で重宝される為、わざわざ冒険者という職を選ぶ必要がないというフォルトゥナ独自の国風から作り出された環境だろう。

 つまりそれは、フォルトゥナで冒険者を生業としようと考えた際、パーティーの戦力バランスを整えることが非常に困難であることを指す。
 戦力バランスが前衛に偏っていれば予測し得ない出来事に遭遇する可能性も高く、リスクの大きい依頼には手が出しにくい。
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