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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
39-3.不吉な予感
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翌日の朝。校舎は慌ただしく行き交う人々で普段の何倍もの騒々しさを齎していた。
共に寮を出て登校していたノアとレミはその光景を見て互いに顔を見合わせる。
「ノア、レミ!」
その時、たまたますれ違った同級生が二人に声を掛けた。
同級生は挨拶もそこそこに話を切り出す。
「今日、全面休講だってさ」
その言葉にドッと嫌な予感がノアの脳裏へ押し寄せる。
鋭く息を吸ったノアは滲む汗を感じながら焦る気持ちを何とか押し留める。
「ミロワール関係?」
「ああ。今朝突然、霧がフロンティエールまで到達したらしい。急なことだったから教員の魔導師が殆ど招集されたらしい」
「なっ、昨日の今日だぞ? 今までの読みなら少なくとも一週間はかかる見込みだっただろう」
「詳しいことは俺もわかんねーけどさぁ。やっぱ結構やばそうだよな」
ノアの問いに答えた同級生とレミがその後も議論を続ける。
しかしその殆どが頭に入ってくることはなかった。
霧自体はそこまで脅威的ではない。屋内にいれば魔物の襲撃も免れるだろう。
厄介な問題ではあるが、甚大な被害には及ばないはずだ。
それに、クリスティーナ達の実力は出会ったその日に把握している。万一予想外のことが起きたとしても彼女達が窮地に立たされるとは考えにくかった。
しかし、何故だろうか。酷く胸騒ぎがする。
じりじりと嫌な予感が自分へ詰めよってくるような感覚。
やがてノアは弾かれたように走り出した。
「ノア!?」
「ごめん、ちょっと行ってくる!」
「行ってくるってお前、まさか……!」
レミの静止が聞こえてきたが、それを振り払ってノアは走った。
まず立ち寄ったのは教員の研究室が立ち並ぶ廊下。その一室の扉をノックもせず開け放った。
「アレット先生!」
難解な魔導書や書類に埋め尽くされた一室。開け放った扉の前には荷物を纏め、今まさに出掛けようとしていたアレットの姿があった。
あと少しで扉に頭をぶつけるところであったアレットは眉間に皺を寄せて、不機嫌な顔つきになった。
「ノア、せめてノックはしろ」
「ごめん! ちょっと慌ててて……っ! よかった、まだいたぁ……」
魔導師は体力作りよりも研究時間に重きを置く者が多い。ノアもその例外ではなかった。
その為彼は走って校舎を一つ跨ぐだけでその体力を使い切ってしまい、両膝をついて息を切らすという体たらくを見せる羽目になってしまう。
「悪いが呼ばれていてな。用件があるなら手短に頼む」
「うん」
まともに話せる程度にまで呼吸が落ち着いてきたところでノアは再び口を開いた。
「頼んでたのってできたかな?」
具体的な物の名前は上げていないが、最近ノアがアレットに『頼んでいた物』は一つしかない。
その言葉がどれを示したものであるか伝わったらしいアレットはため息を吐いて書斎机へ向かった。
「できたというにはあまりにも質が悪い。あくまで試作品……もっても三日程度が限界だろう」
「三日か……」
書斎机の引き出しから取り出したものを持ってアレットがノアの前まで戻ってくる。
彼女から差し出されたそれを受け取り、数秒ほど観察してから微笑む。
「うん、ありがとう。先生」
「頼むからこれ以上の面倒ごとは勘弁してくれ」
「うーん、善処します……」
試作品というこれがどれほど役に立つかはわからないが、ないよりもある方が助けにはなるはずだ。
アレットに礼を述べてノアは再び走り出す。
そのまま学院の敷地を出た彼は街へ出て馬を一つ借りる。
普段であれば速度を落とし、風を感じながらのんびりと目的地まで向かうところだが、今日は気が急いている。
故に出来る限りの速度を出してノアはフロンティエールを目指した。
共に寮を出て登校していたノアとレミはその光景を見て互いに顔を見合わせる。
「ノア、レミ!」
その時、たまたますれ違った同級生が二人に声を掛けた。
同級生は挨拶もそこそこに話を切り出す。
「今日、全面休講だってさ」
その言葉にドッと嫌な予感がノアの脳裏へ押し寄せる。
鋭く息を吸ったノアは滲む汗を感じながら焦る気持ちを何とか押し留める。
「ミロワール関係?」
「ああ。今朝突然、霧がフロンティエールまで到達したらしい。急なことだったから教員の魔導師が殆ど招集されたらしい」
「なっ、昨日の今日だぞ? 今までの読みなら少なくとも一週間はかかる見込みだっただろう」
「詳しいことは俺もわかんねーけどさぁ。やっぱ結構やばそうだよな」
ノアの問いに答えた同級生とレミがその後も議論を続ける。
しかしその殆どが頭に入ってくることはなかった。
霧自体はそこまで脅威的ではない。屋内にいれば魔物の襲撃も免れるだろう。
厄介な問題ではあるが、甚大な被害には及ばないはずだ。
それに、クリスティーナ達の実力は出会ったその日に把握している。万一予想外のことが起きたとしても彼女達が窮地に立たされるとは考えにくかった。
しかし、何故だろうか。酷く胸騒ぎがする。
じりじりと嫌な予感が自分へ詰めよってくるような感覚。
やがてノアは弾かれたように走り出した。
「ノア!?」
「ごめん、ちょっと行ってくる!」
「行ってくるってお前、まさか……!」
レミの静止が聞こえてきたが、それを振り払ってノアは走った。
まず立ち寄ったのは教員の研究室が立ち並ぶ廊下。その一室の扉をノックもせず開け放った。
「アレット先生!」
難解な魔導書や書類に埋め尽くされた一室。開け放った扉の前には荷物を纏め、今まさに出掛けようとしていたアレットの姿があった。
あと少しで扉に頭をぶつけるところであったアレットは眉間に皺を寄せて、不機嫌な顔つきになった。
「ノア、せめてノックはしろ」
「ごめん! ちょっと慌ててて……っ! よかった、まだいたぁ……」
魔導師は体力作りよりも研究時間に重きを置く者が多い。ノアもその例外ではなかった。
その為彼は走って校舎を一つ跨ぐだけでその体力を使い切ってしまい、両膝をついて息を切らすという体たらくを見せる羽目になってしまう。
「悪いが呼ばれていてな。用件があるなら手短に頼む」
「うん」
まともに話せる程度にまで呼吸が落ち着いてきたところでノアは再び口を開いた。
「頼んでたのってできたかな?」
具体的な物の名前は上げていないが、最近ノアがアレットに『頼んでいた物』は一つしかない。
その言葉がどれを示したものであるか伝わったらしいアレットはため息を吐いて書斎机へ向かった。
「できたというにはあまりにも質が悪い。あくまで試作品……もっても三日程度が限界だろう」
「三日か……」
書斎机の引き出しから取り出したものを持ってアレットがノアの前まで戻ってくる。
彼女から差し出されたそれを受け取り、数秒ほど観察してから微笑む。
「うん、ありがとう。先生」
「頼むからこれ以上の面倒ごとは勘弁してくれ」
「うーん、善処します……」
試作品というこれがどれほど役に立つかはわからないが、ないよりもある方が助けにはなるはずだ。
アレットに礼を述べてノアは再び走り出す。
そのまま学院の敷地を出た彼は街へ出て馬を一つ借りる。
普段であれば速度を落とし、風を感じながらのんびりと目的地まで向かうところだが、今日は気が急いている。
故に出来る限りの速度を出してノアはフロンティエールを目指した。
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