122 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
39-1.不吉な予感
しおりを挟む
いつものように夕暮れの街並みを眺めて歩いていた時。ノアがふと呟いた。
「そうだ。今朝耳にした話なんだけど、ミロワールの森の霧が広がってきているみたいなんだ」
「ミロワールの森」
聞き覚えがある。確かエリアスが皇国騎士時代の遠征で訪れた地であったはずだ。
そう考えてクリスティーナはエリアスへ視線を向ける。
「ミロワールかぁ。発生する霧自体の脅威はそこまでなかった気がするけど」
「おっと、聞いたことがあるんだね」
エリアスの言葉を肯定するように頷いたノアが説明を続ける。
「ミロワールの森を包む霧は幻覚作用を持っている。森の訪問者達に深く根付いた記憶を具現化するんだ」
「霧が映像を生成する感じ。実体はないけどその場にいる全員が視認できるから、黒歴史とかが出されると……まあ悲惨だったりとか」
「……それは脅威がないと言うのかしら」
クリスティーナの指摘に頭を掻いて苦笑する騎士。
一方でノアは彼の言葉をフォローするように言葉を加えた。
「精神的なダメージを受ける人はいるかもしれないけど、さっきも言った通り霧が生み出す幻自体は実体を持っていないから攻撃してきたりもしない。つまり霧の見せる幻そのものが原因で怪我をすることはないんだ」
「なるほど」
生命を脅かされる直接的な要因とならなければ脅威としての認識も浅くなるらしい。
つまりミロワールの森以上に危険な現象が存在しているということだろう。
「ただ、森に充満する霧ってのは何もなくても厄介だからね。視界が悪いから地形の変化にも、魔物の接近にも気付きにくくなる」
「まー、あとはあれかな。幻覚ってのは人の注意を引くには十分な要因だからどうしても隙が生まれやすい。だから十分面倒な場所だとは思う……ます」
自身の口調が砕けていることに今更ながら気付いたのか、エリアスが唐突に不自然な敬語を使い始めた。
主人と護衛という立場である以上確かに適切なのは敬語を使うことだろうが、クリスティーナの身分を知らないノアが傍に居る以上それについて咎めるつもりもない。その為やってしまったという顔で強張っている騎士のことは無視をすることにした。
「うんうん。国としても不必要に入らないようにと注意はしているし、風向きなどによる霧の動きを考慮した上でミロワールとその周辺を厳重注意区域として定めてはいるのだけれど、今回はどうもそれを越えてきているらしい」
片手に握った杖で額を掻きながら南方へ視線を向けるノア。
フォルトゥナの国土は東大陸上でも狭い方に該当する。
故にフォルトゥナ南端に位置するミロワールの森は東端に位置するこの街と十分な距離があるとは言い難い。
「学院も警戒して動き出してはいるけれど、出来ることは霧によって人里まで迷い込んだ魔物を狩るだとか驚異を押さえる程度のものだからね。霧の広がりそのものを止められるわけじゃあない」
クリスティーナは来た道を振り返る。
自分達が日頃足を踏み入れている森が道の先に見えた。ノアもまた、クリスティーナの視線を追うように振り返って続けた。
「フロンティエールの森とミロワールの森は繋がっているからね。霧の範囲が広がれば魔物の影響を受けやすいはずだ」
彼の言葉にクリスティーナは小さく頷きを返す。フォルトゥナの大まかな地理は事前に確認済みだ。
フォルトゥナに森林地帯は一か所しかないのに対し、森と呼ばれる地域は二つある。一つの森林地帯を二つの区域に分割しているのだ。
南のミロワールと東のフロンティエール。国が厳重注意区域と定めた箇所をミロワールの森とし、霧の影響を受けない東側と区別をつけたのだ。
「とは言っても霧の広がり方は緩やかだし、仮にフロンティエールまで広がったとしても森へ入らなければ滅多なことは起らないだろう。幸い、魔力制御の訓練は森でなければならないわけでもないし、訓練の妨げにもならなさそうだ」
気が付けばクリスティーナ達が宿泊している宿が目先まで近づいていた。
ノアが足を止める。
「ただ、万が一に備えて伝えておいた方がいいとは思ってね。一応気に留めておいてくれ」
彼の忠告を受け止めた三人は各々が頷いた。
「そうだ。今朝耳にした話なんだけど、ミロワールの森の霧が広がってきているみたいなんだ」
「ミロワールの森」
聞き覚えがある。確かエリアスが皇国騎士時代の遠征で訪れた地であったはずだ。
そう考えてクリスティーナはエリアスへ視線を向ける。
「ミロワールかぁ。発生する霧自体の脅威はそこまでなかった気がするけど」
「おっと、聞いたことがあるんだね」
エリアスの言葉を肯定するように頷いたノアが説明を続ける。
「ミロワールの森を包む霧は幻覚作用を持っている。森の訪問者達に深く根付いた記憶を具現化するんだ」
「霧が映像を生成する感じ。実体はないけどその場にいる全員が視認できるから、黒歴史とかが出されると……まあ悲惨だったりとか」
「……それは脅威がないと言うのかしら」
クリスティーナの指摘に頭を掻いて苦笑する騎士。
一方でノアは彼の言葉をフォローするように言葉を加えた。
「精神的なダメージを受ける人はいるかもしれないけど、さっきも言った通り霧が生み出す幻自体は実体を持っていないから攻撃してきたりもしない。つまり霧の見せる幻そのものが原因で怪我をすることはないんだ」
「なるほど」
生命を脅かされる直接的な要因とならなければ脅威としての認識も浅くなるらしい。
つまりミロワールの森以上に危険な現象が存在しているということだろう。
「ただ、森に充満する霧ってのは何もなくても厄介だからね。視界が悪いから地形の変化にも、魔物の接近にも気付きにくくなる」
「まー、あとはあれかな。幻覚ってのは人の注意を引くには十分な要因だからどうしても隙が生まれやすい。だから十分面倒な場所だとは思う……ます」
自身の口調が砕けていることに今更ながら気付いたのか、エリアスが唐突に不自然な敬語を使い始めた。
主人と護衛という立場である以上確かに適切なのは敬語を使うことだろうが、クリスティーナの身分を知らないノアが傍に居る以上それについて咎めるつもりもない。その為やってしまったという顔で強張っている騎士のことは無視をすることにした。
「うんうん。国としても不必要に入らないようにと注意はしているし、風向きなどによる霧の動きを考慮した上でミロワールとその周辺を厳重注意区域として定めてはいるのだけれど、今回はどうもそれを越えてきているらしい」
片手に握った杖で額を掻きながら南方へ視線を向けるノア。
フォルトゥナの国土は東大陸上でも狭い方に該当する。
故にフォルトゥナ南端に位置するミロワールの森は東端に位置するこの街と十分な距離があるとは言い難い。
「学院も警戒して動き出してはいるけれど、出来ることは霧によって人里まで迷い込んだ魔物を狩るだとか驚異を押さえる程度のものだからね。霧の広がりそのものを止められるわけじゃあない」
クリスティーナは来た道を振り返る。
自分達が日頃足を踏み入れている森が道の先に見えた。ノアもまた、クリスティーナの視線を追うように振り返って続けた。
「フロンティエールの森とミロワールの森は繋がっているからね。霧の範囲が広がれば魔物の影響を受けやすいはずだ」
彼の言葉にクリスティーナは小さく頷きを返す。フォルトゥナの大まかな地理は事前に確認済みだ。
フォルトゥナに森林地帯は一か所しかないのに対し、森と呼ばれる地域は二つある。一つの森林地帯を二つの区域に分割しているのだ。
南のミロワールと東のフロンティエール。国が厳重注意区域と定めた箇所をミロワールの森とし、霧の影響を受けない東側と区別をつけたのだ。
「とは言っても霧の広がり方は緩やかだし、仮にフロンティエールまで広がったとしても森へ入らなければ滅多なことは起らないだろう。幸い、魔力制御の訓練は森でなければならないわけでもないし、訓練の妨げにもならなさそうだ」
気が付けばクリスティーナ達が宿泊している宿が目先まで近づいていた。
ノアが足を止める。
「ただ、万が一に備えて伝えておいた方がいいとは思ってね。一応気に留めておいてくれ」
彼の忠告を受け止めた三人は各々が頷いた。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。
あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。
貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。
…あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?
悪役令嬢ですが最強ですよ??
鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。
で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw
ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。
だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw
主人公最強系の話です。
苦手な方はバックで!
アブストラクト・シンキング 人間編
時富まいむ(プロフ必読
ファンタジー
訳ありでここに連載している小説をカクヨムに移転、以降の更新をそちらで行います。
一月末まで公開しております
侵食した世界に隠された真実を子供たちは受け入れるのか、それとも・・・
どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。
じーさんず & We are
Tro
ファンタジー
むかしむかし、あるところに、お爺さんとお爺さんがいました。
最初のお爺さんは、かつて魔王と呼ばれ、好き放題な人生を送ったと聞いていますが、
今はただのジジイです。
その次のお爺さんは、かつて勇者と呼ばれ、果敢に魔王に挑んだようですが見事に敗れ、
その後、悲惨な人生を送ったと聞いています。今はただのジジイです。
そんな元・勇者が魔王の隠居話を聞きつけてリベンジにやって来ました。
しかし本当の狙いは復讐ではなかったようです。
現魔王である私が、このジジイ達の行く末を物語っていきます。
ですがそう長くはありません、行く末ですから。
※この作品で使用している画像は全てpixabay(https://pixabay.com/)から商用利用無料、帰属表示不要の画像のみを使用しています。
転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。
異世界に来たら勇者するより旅行でしょう
はたつば
ファンタジー
大きな力を持つ者が揃った学校の一クラス。彼らは異世界へと召喚された。恩恵、魔術、兵器使用など、様々な力を転移前から持っていた彼らは異世界で何を見るのか。クラス内で化け物とされていた黒田 楓は居心地最悪のクラス内から抜け出すために王に頼んで旅に出た。最強な主人公が異世界を観光したり、家を建ててみたり、戦ってみたりと色々する物語です。
よくある主人公最強系がいいです。
異世界に来て美少女と出会う、爺と仲良くなる、国王がネタになる、かつての仲間と再会する、学園祭を満喫、別世界にいる、遊ぶ←イマココ
タイトル詐欺と言う人もいるかもしれないが、逆に考えよう。まだ、本編は始まっていないと・・・
九十話を超えて、タイトル回収の目処が・・・。
ストーリー性とかがちょっと(どころではなく)欠けているので、暇な人だけどうぞ
確定の更新日は毎週土曜19時です。その他でも不定期で更新することも無きにしもなんたら。
ーーーーーーー
もう一つ、『僕達はどうしても美少女を仲間にしたい』をよろしくお願いします。
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる