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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

38-3.確かな進展

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 ハッと我に返ったクリスティーナは目を開けて、驚いた拍子に息を吸い込む。
 そこで漸く自分が息を止めたままであったことに気付いた。

「クリス様!」

 突然入り込んだ空気が喉を刺激し、思わず咳き込む。
 顔を覗き込んだリオはクリスティーナが我に返ったことを確認すると安堵するように息を吐いた。
 彼と同じく傍まで駆け寄ってきたらしいノアやエリアスにも動揺の色が見られる。

「君、息してなかっただろ。全く、とんでもない子だな」
「……ごめんなさい、集中していたものだから」
「集中してたって……君ねえ」

 困ったような、はたまた呆れたような顔でため息を吐いたノアは小言の一つでも言ってやろうと何か言いかけたが、クリスティーナの顔を見ると結局その言葉を呑み込んだ。
 何かに気付いた彼は目を丸くして瞬きをした後、またため息を吐くが、その口は緩やかに弧を描いている。

「少し休もう。ほら、座って」

 促されるがまま、クリスティーナは腰を下ろす。
 同じく腰を下ろしたノアはリオやエリアスも同様に座り込んだのを確認してからクリスティーナの顔を覗き込む。

「それで、何か掴めたんだろう? そういう顔をしてる」
「……顔」

 確かに感じる達成感と自信。それを表に出したつもりはなかったのだが、どうやら彼はクリスティーナの表情から何かを感じ取ったようだ。
 顔に出てたのか、と問うようにリオを見ればノアの言葉を肯定するように微笑みながら頷いた。

「とてもご機嫌がよさそうです」

 エリアスだけは二人の言葉に首を傾げている為あからさまに態度に出ていたとまではいかなさそうだが、それにしても自身の思っていることが他者に漏れているというのはむず痒い気分だ。
 若干の居心地の悪さを感じて視線を泳がせると、手元の魔晶石が視界に入る。

 先の経験を思い出し、自身の魔力の流れを探る。
 すると全体を行き交うエネルギーの存在をしっかりと認識することが出来た。魔力の流れを認知する感覚は確かに身についたらしい。

「全体の魔力の流れ、多分わかったわ」
「おっ」
「流石です」

 驚いた声を上げたエリアスや賞賛するリオの傍で、既に察しがついていたらしいノアは満足そうに頷いている。

「うんうん、君ならもしかしたらって思ってたけど。やっぱり早かったね」

 長期滞在にリスクが生じることや自身が足を引っ張る可能性がある以上、どうにも焦る気持ちが拭えないでいたが、どうやらクリスティーナは通常よりも早期の習得を成し遂げたらしい。

 今朝聞かされたリオの変化に刺激を受けたのもあるだろう。
 リオが先に魔力制御をものにすれば、フォルトゥナの長期滞在の理由はクリスティーナの都合のみになる。

 だでさえ聖女の護衛という二人だけでは荷が重い責務を背負っているのにも関わらず、その護衛対象が居場所を漏らし続ける状況且つ主人の都合のみで移動が出来ないという状況は彼らに更なる負担を強いることになっただろう。

 自身が守られるべき存在であることを自覚しているからこそ不必要に負担を増やす要因になりたくはないし、守られる立場に甘んじたくもない。そういった一種のプライドがクリスティーナの中にはあった。

 故に彼女が懸念していた状況を回避できそうだということに安堵しつつも、自身に課された課題を早く完遂させたいという欲もある。

 何よりそこに至るまでの過程は地味なものだったが求めていた結果を得られたという手ごたえは確かな物であり、同時に得られた達成感もその努力に見合うものだった。それに対してクリスティーナは悪くない感情を抱いていた。
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