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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

36-2.酔客とザルと下戸

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「よし、と。行けます」
「ううん……かたじけない……」
「ええ」

 エリアスがノアを連れて席を立ったのに続く形でクリスティーナも立ち上がる。
 更にリオも離席しようと腰を浮かすが、僅かに残っていた飲み残しを思い出してテーブルのジョッキに手を伸ばした。

 しかしそこで、ふらふらと覚束ない足取りながらも意識ははっきりとしていたノアが何かに気付いて声を上げた。

「待ってリオ、それ多分お酒――」

 その制止は間に合わず。ジョッキに口を付けたリオはその中のものを飲み切ってしまう。
 あ、と遅れて漏れた声が三つ重なった。

 コン、と優しくジョッキを置くリオ。
 謎の沈黙が四人の間に暫し訪れるが、やがてそれを破るかのように彼は深く息を吐く。

「あ、あー。もしかして苦手だったか? 水頼む?」

 機嫌を損ねたのかとエリアスが恐る恐る声を掛ける。
 しかしリオは返事をすることなく、代わりに片手を挙げた。

 一見提案を断っているかのような素振り。しかしクリスティーナは全てを悟った上でこめかみを押さえた。

 次の瞬間。
 突如リオの両膝がくの字に折れ曲がったかと思えば、彼は仰向けに倒れ込んだ。

「り、リオォォォ!?」
「え、嘘!?」

 リオはそのまま顔を真っ青にさせてぴくりとも動かない。

 彼は酒にめっぽう弱い。ブランデー入りの菓子で酔っ払う程だ。
 更に数々の冒険者が酔い潰れているところを見る限り、ここの酒の度数はそこそこ高いはずだ。
 彼には刺激の強すぎる代物だったのだろう。

「……リオ」

 ため息を吐いてからクリスティーナは倒れたリオの肩を揺らす。
 刹那、黒い睫毛に伏せられていた目が見開かれたかと思えば、勢いよく体が起き上がった。

「申し訳ありません、気が緩んでいたようです」
「リオ、体調は? てかお前酒弱すぎだろ」
「問題ありません。もう抜けたので」
「そんなことある?」

 先程まで一番酔いが回っていたノアだけが困惑している。恐らく本来なら数秒で酒が抜けるなんてこともあり得ないのだろう。十中八九不死身体質が関わっているのだろうが、それがどう関係しているのかまではクリスティーナにもわからない。

「問題ないわ。いつもこうだから」
「君の体どうなってるの」

 先程エリアスに向けた言葉がそっくりそのままノアから向けられる。当たり前の展開である。
 一行が比較的無事な様子の酒飲み達へ先に抜けることを伝えるとノアを引き抜かれそうになるが、優柔不断な本人の代わりにリオがきっかりと断りを入れて退散する。
 四人がギルドを後にした頃には日はすっかり沈んでいた。
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