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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

36-1.酔客とザルと下戸

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 こういう場は何もいいことばかりではない。
 そのような漠然とした知識や認識は持っていたものの、いざ目の当たりにするとその考えは更に根強くなった。

 酒に酔った冒険者達は飲み物の区別すらつかなくなったようで、時折ジュースに混ざって酒類が回ってくるようになる。
 しかも押しが強い。酒が回れば回る程、面倒な絡み方も増える。

「だからぁー、これはジュースらないってば!」

 ドン、とジョッキが勢いよくテーブルへぶつけられる。十、二十とテーブルを埋め尽くすように置かれたジョッキが小刻みに揺れた。

 クリスティーナが酒を押し付けられる度に口の付けられていないソフトドリンクとすり替えていたノアは代わりに酔いが回ってしまったらしく、顔を真っ赤にしながら酒を回してくる冒険者たちへ呂律の回らない文句を零した。

 他にも床に倒れて酔い潰れる者がいたり、依頼から戻ったらしい冒険者が新しく参戦したりと混沌さは極まるばかりだ。

「そろそろ出ますか」

 クリスティーナの右側を陣取っているリオはクリスティーナ以上に冷ややかな目で酔っ払いたちの騒動を見ている。彼の顔色は普段通り。態度も変わりない。

 断るのが上手い上に周囲の動向をよく見ている彼は、酒を押し付けられそうな空気を感じる度にその場を離れるといった華麗な回避行動をとっており、何だかんだで一滴も酒を飲んでいないようだ。

 一方のエリアスは勧められた分だけ飲んでいるようだが、こちらはこちらで顔色一つ変わっていない。それどころか彼よりも体格の良い男達がテーブルに突っ伏し始めているという始末だ。

「あの人の体どうなってるんですか」
「さあ……」

 クリスティーナの視線の先に気付いたのか、つられるように見たリオがやや引いている。エリアスの体の構造が周りと比べておかしいことは確かかもしれないが、不死身にだけは言われたくないことだろう。
 リオの視線に気付いたエリアスは酒飲み達に囲まれた別テーブルからこちらへ戻ってくる。

「何か言った?」
「いえ、何でも」
「そっか」

 表情一つ変えず吐かれる嘘をエリアスは素直に信じてしまう。

「そろそろ出ようかという話をしていたところです」
「あー、ちょっと激しくなってきたもんなぁ」

 これがちょっとで片付けられるものではないことは流石のクリスティーナにもわかったが無粋に口を挟むのはやめておくことにした。
 元々騎士団という男所帯の付き合いになれている彼はこのような付き合いにも慣れているのかもしれない。

「ってかそれ、大丈夫か?」
「だいじょうぶー、れはないよれ……」
「あーあーあ」
「……出ましょう。彼も運んで頂戴」

 エリアスにノアを運ぶよう指示を出す。
 ここに教師役を放っておいたことで次の日の訓練が中止になるなんてことはごめんである。

「そういえば、リオは酒飲めるんだな。全然変わらないというか」
「貴方にだけは言われたくないのですが……。まあ、今日は飲んでいないので」

 エリアスはノアの腕を自身の肩へ回して支えてやりながらしげしげとリオの顔を眺める。

「あ、なるほど。ってことは飲むと酔いはするのか」
「どうでしょう。どちらであったとしても仕事中には飲みませんが」
「ちゃんと許可は貰ったからな!」

 行動に支障を来さない程度ならばという条件付きだが、事実ではあるのでエリアスの弁明に肯定するように頷いておいてやる。

 酒の場で進められるものを全て断るのも場が白けてしまう恐れがあったし、一切息抜きがない護衛というのも過酷だろうと考えたのだ。更にクリスティーナはリオが酒を飲まないことも知っていたので万一騎士が使い物にならなくとも彼が対処してくれるだろうと予想していた。

 結果、飲んだ量はおかしかったが本人は至って通常運転のようなので問題もないだろう。
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