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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
35-3.冒険者ギルド
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「勿論可能だよ。依頼するだけなら登録も不要だ。ただし依頼が受注された際は前金と達成後の報酬を用意する必要がある。それと……」
ノアは酔っ払いの集う空間を親指で指しながら片目を閉じる。
「ギルドはここの様に酒場と併設されてることが結構ある。情報の売買やコミュニケーションを取る場としては打って付けだ。場合によってはギルドを通さず交渉をすることもできる」
「交渉、ですか。金銭が絡むのであればギルドを通した方が確実な気はしますね」
「そうだね。つまり個人間で交渉するメリットは金銭以外で取引が出来ることだ」
どういうことか、とリオが視線を投げかける。
それに対し、ノアは視線を泳がせて考える素振りを見せた。
「そうだなー。例えば双方に戦力を欲していて且つ目的地が同じだった場合とか。二人組と三人組がいたとして、それぞれAという国からBという国までの移動を目的としているが、道中は強い魔物が多くてもう少し手練れが欲しい……という場合、利害が完全に一致しているだろう」
「なるほど。双方に利益になる場合であれば金銭を介さず戦力を得られる可能性がある、ということですね」
「そういうこと」
「しかし……利害が完全に一致している人物を探すというのは、聊か骨が折れそうですね」
なるほど、と頷きはしたものの未だ腑に落ちないリオが呟く。
「まー現実問題、全く同じってのは難しいよね。だから妥協や交渉次第、あとはいかに巧みに口説き落とせるかいったところかな」
「なるほど。参考になりました」
ありがとうございますと頭を下げるリオに対しノアは軽く手を振って答える。
「さて、それじゃあお暇……ゲフッ」
退出しようと踵を返したノアは素早い動きで首を捕らえられ、呻き声を上げた。
「おー、ノア!」
がっしりとした腕が彼を引き寄せるように肩を組む。
彼を襲ったのは訓練初日の夜に見かけた大男だ。
「今日は随分早いじゃねーの! 依頼か?」
「知人を案内してただけだよ、ほら」
大男は顔を紅潮させ、組んでいない方の手には空になったジョッキが握られている。
酔っ払った男はノアに示された方――つまりクリスティーナ達の方へ視線を寄越し、豪快に笑った。
「おーおー、新入りか? まあゆっくりしていきな! おーい、野郎ども、ルーキーだルーキー!」
「あ、ちょっとちょっと!」
大男が酒場へ向かって叫ぶと、集っていた酒飲み達がわっと沸き立つ。
気が付けば人に囲まれ、四人揃って成す術もなくテーブルへ連れられていた。
近づく酔っ払いをノアが嗜めたり、さりげなくリオが間に割って入ったりとしてくれている為何か起こっているわけではない者の、場の雰囲気と勢いについていけずクリスティーナは瞬きをしながら呆けてしまう。
勿論このような酒場など足を運んだのは初めてだし、ここまで品のない酔い方をする者に囲まれるのも初めてだ。
不快感などよりも新鮮味の方が強く、同時に現実味があまり湧かない。
故に周囲の喧騒を暫し眺めていると先程の大男がクリスティーナの正面へ音を立てて座る。
「嬢ちゃんは何飲む? 酒はいける口かい?」
「……私?」
「あんた意外に嬢ちゃんがどこにいるよ」
声を掛けられ動揺し、思わず聞き返してしまう。
すると大男はこれまた狼の遠吠えの如く大きく笑った。
しかしクリスティーナには彼の笑いのツボはよくわからず、面食らったまま固まってしまう。
ただでさえこのコミュニケーション能力の低さは敵を作り続けてきたのだ。それに加えて全く未知数の性格の相手に遭遇したことが重なれば、口を開くことを躊躇われる理由としては充分であった。
何と返したものかと考えるものの一向に答えが出ないでいると、他のテーブルから声が飛ぶ。
「ちょっとアンタ! ここにもいるでしょーがよォ!!」
叫んだのは鍛え上げられた腕をタンクトップから覗かせた赤髪の女性。歳は三十程だろうか。
そんな彼女に対して大男は負けじと大声を上げる。
「うるせぇ! おめーは嬢ちゃんじゃなくてババアだろうが!」
「ああん!? なんだこのクソゴリラ!」
大男の声にドッと笑いが上がる。
どちらも子供でも分かるような直接的な罵倒を繰り広げているのにもかかわらず、険悪な雰囲気はない。
周囲も、本人たちですらも声を荒げながらも愉快そうに笑っているのだ。
人を傷つけない罵倒が飛び交っているこの空間は異質だった。
ノアは酔っ払いの集う空間を親指で指しながら片目を閉じる。
「ギルドはここの様に酒場と併設されてることが結構ある。情報の売買やコミュニケーションを取る場としては打って付けだ。場合によってはギルドを通さず交渉をすることもできる」
「交渉、ですか。金銭が絡むのであればギルドを通した方が確実な気はしますね」
「そうだね。つまり個人間で交渉するメリットは金銭以外で取引が出来ることだ」
どういうことか、とリオが視線を投げかける。
それに対し、ノアは視線を泳がせて考える素振りを見せた。
「そうだなー。例えば双方に戦力を欲していて且つ目的地が同じだった場合とか。二人組と三人組がいたとして、それぞれAという国からBという国までの移動を目的としているが、道中は強い魔物が多くてもう少し手練れが欲しい……という場合、利害が完全に一致しているだろう」
「なるほど。双方に利益になる場合であれば金銭を介さず戦力を得られる可能性がある、ということですね」
「そういうこと」
「しかし……利害が完全に一致している人物を探すというのは、聊か骨が折れそうですね」
なるほど、と頷きはしたものの未だ腑に落ちないリオが呟く。
「まー現実問題、全く同じってのは難しいよね。だから妥協や交渉次第、あとはいかに巧みに口説き落とせるかいったところかな」
「なるほど。参考になりました」
ありがとうございますと頭を下げるリオに対しノアは軽く手を振って答える。
「さて、それじゃあお暇……ゲフッ」
退出しようと踵を返したノアは素早い動きで首を捕らえられ、呻き声を上げた。
「おー、ノア!」
がっしりとした腕が彼を引き寄せるように肩を組む。
彼を襲ったのは訓練初日の夜に見かけた大男だ。
「今日は随分早いじゃねーの! 依頼か?」
「知人を案内してただけだよ、ほら」
大男は顔を紅潮させ、組んでいない方の手には空になったジョッキが握られている。
酔っ払った男はノアに示された方――つまりクリスティーナ達の方へ視線を寄越し、豪快に笑った。
「おーおー、新入りか? まあゆっくりしていきな! おーい、野郎ども、ルーキーだルーキー!」
「あ、ちょっとちょっと!」
大男が酒場へ向かって叫ぶと、集っていた酒飲み達がわっと沸き立つ。
気が付けば人に囲まれ、四人揃って成す術もなくテーブルへ連れられていた。
近づく酔っ払いをノアが嗜めたり、さりげなくリオが間に割って入ったりとしてくれている為何か起こっているわけではない者の、場の雰囲気と勢いについていけずクリスティーナは瞬きをしながら呆けてしまう。
勿論このような酒場など足を運んだのは初めてだし、ここまで品のない酔い方をする者に囲まれるのも初めてだ。
不快感などよりも新鮮味の方が強く、同時に現実味があまり湧かない。
故に周囲の喧騒を暫し眺めていると先程の大男がクリスティーナの正面へ音を立てて座る。
「嬢ちゃんは何飲む? 酒はいける口かい?」
「……私?」
「あんた意外に嬢ちゃんがどこにいるよ」
声を掛けられ動揺し、思わず聞き返してしまう。
すると大男はこれまた狼の遠吠えの如く大きく笑った。
しかしクリスティーナには彼の笑いのツボはよくわからず、面食らったまま固まってしまう。
ただでさえこのコミュニケーション能力の低さは敵を作り続けてきたのだ。それに加えて全く未知数の性格の相手に遭遇したことが重なれば、口を開くことを躊躇われる理由としては充分であった。
何と返したものかと考えるものの一向に答えが出ないでいると、他のテーブルから声が飛ぶ。
「ちょっとアンタ! ここにもいるでしょーがよォ!!」
叫んだのは鍛え上げられた腕をタンクトップから覗かせた赤髪の女性。歳は三十程だろうか。
そんな彼女に対して大男は負けじと大声を上げる。
「うるせぇ! おめーは嬢ちゃんじゃなくてババアだろうが!」
「ああん!? なんだこのクソゴリラ!」
大男の声にドッと笑いが上がる。
どちらも子供でも分かるような直接的な罵倒を繰り広げているのにもかかわらず、険悪な雰囲気はない。
周囲も、本人たちですらも声を荒げながらも愉快そうに笑っているのだ。
人を傷つけない罵倒が飛び交っているこの空間は異質だった。
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