上 下
110 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

35-1.冒険者ギルド

しおりを挟む
 訓練中、クリスティーナは小さくため息を吐く。
 結局フォルトゥナに滞在してから一週間が経過してしまっていた。

 魔晶石を壊すことはなくなったものの、それ以降の進捗は芳しくい。
 魔力の流れを辿ろうとしても途中で途切れてしまい、上手く循環の動きを把握することが出来ないのだ。

 リオも苦戦しているようで、互いに同じような工程を繰り返す日々が続いていた。
 ノアの声掛けで休憩を挟むが、訓練の指揮を執る彼の顔色は実践に励むクリスティーナ達のものより酷い。

「……大丈夫か?」

 一週間の内に何度も見たその様子に慣れ始めたエリアスは最早体調不良の原因を聞くという過程をすっ飛ばして声を掛ける。
 その言葉にノアは弱々しく首を振って答える。

「大丈夫じゃない……気持ち悪い……」
「お嬢様、お酒を嗜むようになってもこうはなってはいけませんよ」

 二日酔いに苦しむ魔導師を冷ややかな目で見降ろしながらリオが言った。

 イニティウム皇国での成人は十六から。望めばクリスティーナも酒を飲める年ではあるのだが、一度試した時の酒の度数が高く美味しさがわからなかった経験から、社交界の付き合い以外で進んで飲むことはしてこなかった。

 そしてこの旅が続く間は酒に溺れるような余裕もないだろうが。しかしあまりにも情けない年上の姿を見て、これから先もこんな惨めな姿を晒す大人にはなるまいと密かに誓ったのだった。

「断ればいいじゃない」
「うーん、それはそうなんだけどね……。普段は学校に籠りがちだから、こういう時くらいしか会えなくてさ。会いたいって言ってくれるのが嬉しくて無下にできないんだよねぇ」

 それで体調を崩していたら本末転倒ではないかと思うのだが、彼が頼みを断らない性格なのは毎度目にする道草の多さが物語っている。

「でも、魔晶石の方はクリスが安定して作れるようになったから俺が作る必要もなくなったしだいぶ楽になったよ」

 自分の魔力量やクリスティーナの作る魔晶石の質の高さを考えたノアは二日目から訓練の効率化を図った。
 クリスティーナが魔晶石を作り、リオがそれを消費して魔法を使用する。

 慣れが生じていること、そしてノアが言った様に魔晶石の生成の際に恵まれてか、クリスティーナは質の良い魔晶石を回転率高く作れるようになっていた。

 リオが一つの魔晶石を使い切る頃には魔晶石が三から四つ、調子のいい時は五つ程作れるようになった為、使い切った魔晶石よりも生成される魔晶石の数の方が上回るようになっている。
 お陰でタイムロスもなく各々が訓練に集中できる仕組みが確立したのだった。

 しかしこの効率化作業は決して二日酔いの飲んだくれの為のものではない。
 クリスティーナがため息を吐くと、今の空気に気まずさを感じたのかノアが素早く話題をすり変えた。

「あ、そういえば、冒険者に興味あるって話だったよね」

 突然の話題の転換に数秒反応が遅れる。
 しかし記憶を遡れば確かにその様な話をした覚えがある。

「ええ」
「なら、今日は少し早く切り上げて寄り道をしよう」

 ノアの提案にクリスティーナは瞬きをする。
 いつもよりも数時間早く訓練を切り上げた一行は彼の案内で街まで戻ることとなったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界陸軍活動記

ニボシサービス
ファンタジー
病弱だった青年が異世界に飛ばされ、そこで軍人として活躍するお話です

ヘーゼル坊ちゃんの言うとおり!

あさの
ファンタジー
「くっそー…こんなの給金に見合わん。ぜったい追加で請求してやるからな…」 俺は腹の底から叫んだ。 …心の中で。 王都からはるばる来た俺に与えられた仕事は、 「ヘーゼルくんに取り入り、彼の一挙手一投足を見つめなさい」 ---幼い子どもの監視役だった。 「庭のお花を見ていたんです。おかあさんが好きな野薔薇が咲いているから」 窓辺から庭を眺めてヘーゼルが言う。 不自由となった脚を車椅子に乗せて。 「観察? 監視の間違いではありませんか?」 あんな小さな子どもを監視だって? 「彼は唯一の生還者です。有力な情報を得られる可能性があるのは、もはや彼しかいない。貴方には期待していますよ、アレックス・コストナー」 村に蔓延する謎の病。 その唯一の回復者がヘーゼルだという。 病かなんだか知らないが、金を積まれるならやってやるさ。 楽勝の仕事だと拳を握った矢先、 「----魔女、ですか?」 俄に暗雲が立ち込める。 「ヘーゼル様は魔女を退けた英雄の血筋なんですよ」 魔女伝説? 時代錯誤も良いとこだ。 今は科学の時代だぞ。 「…本当にあったことなのです」 たった8歳だ。 生まれて8年しか生きていない子どもだぞ。 「神がいるのなら、悪魔も、魔女もいる。ねえ、先生。そう思いませんか?」 …だったら。 幼い子どもがあんな目をするか…? 「は…、か、隠し通路…?」 蔓延する原因不明の流行り病。 領地に伝わる魔女伝説。 子どもが隠している秘密。 その一端に触れたとき、少女の紅いくちびるが弧を描く。 「----可愛いでしょう? わたしのオモチャ」 俺の一攫千金の仕事はどうなる!? ※ 実際の本編のテンション及びセリフとは少々異なる場合があります。

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・

y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える! てってれてーてってれてーてててててー! やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪ 一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ この小説の主人公は神崎 悠斗くん 前世では色々可哀想な人生を歩んでね… まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪ 前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる 久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく 色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー 友情、熱血、愛はあるかわかりません! ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

処理中です...