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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

34-3.隠された淀み

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 次の瞬間には不穏な色も鳴りを潜めていて、彼はクリスティーナへ優しく笑いかける。
 そして大きな手がクリスティーナの頭へ乗せられた。

「とにかく俺が言いたいのは、君は逸材なんだからもっと自信を持てばいいってこと。能力があれば結果は自ずとついてくるものさ」

 次の瞬間、頭に乗せられた手を目にも止まらぬ速さで掴む存在があった。

「ノア様、そろそろ戻りましょう」
「あいたたたっ! ちょっとリオさん? 力つよ……っ」

 敵意を剥き出したまま満面の笑みを浮かべるリオ。
 彼によって掴まれた腕はぎりぎりと音を立てそうな程の力を込められているようで、堪らずノアが悲鳴を上げる。

「ああ、ノアの首が……良い奴だったなぁ」

 その背後で何かを悟ったつもりでいるエリアスは遠い目でそれを眺めていた。

 しかし心配しているのがノア腕ではなく首だということを考えるに、不敬な言動に怒ったクリスティーナが癇癪を起すのだとでも思っているのだろう。
 彼の中にある、無駄に首を切り落としたがるクリスティーナの人物像が書き換わる日は来るのだろうか。大変心外である。

 騒がしさの戻った一行の様子に深くため息を吐き、空を仰ぐ。
 東の空からは夜が近づいていた。


***


「それじゃあ、また明日」

 結局宿の前まで三人を見送ったノアは別れを告げる。
 それに各々が短い返事を返して背中を見送っていると、脇道からにゅっと現れた太い腕に彼の体躯は絡めとられた。

「おう、ノアじゃねーか!」
「うわっ、びっくりしたぁ」

 日に焼けた浅黒い肌に鍛え上げられた体を持つ大男。

 彼はノアの背中を何度も強く叩きながら肩を組み、豪快に笑った。
 驚きつつも笑って見せるノアの反応を見るに、どうやら顔見知りのようだ。彼の顔は本当に広い。

「こっち来てるって話は聞いてたんだ。勿論飲んでくだろ? あいつらも待ってるんだ」
「えぇっ!? 明日も約束があるし、流石に今日は……」
「なーに連れねぇこと言ってんだ。ほら、こっちだこっち」
「ええぇ……」

 問答無用。半ば引きずられる様にして連れていかれるノアの情けない声が聞こえる。
 途中で遠ざかっていく彼と目が合い、どう反応したものかと考えさせられる。しかし困った様に笑いながらもひらひらと手を振って別れを告げる彼の姿を見て、クリスティーナはそのまま見送ることにした。

「嵐のような人ですね……」

 同じくその場で見送ったリオがぼやいた言葉には心の中で同意する。

「戻りましょう」
「そうですね」
「はい」

 一行は宿へ戻る。
 翌日に備えて早くに床に就いたが、強い疲労感からかすぐに眠りにつくことが出来た。

 しかし翌日。しっかりと休息を取った一行とは反対に夜通し飲まされ続けたという魔導師は真っ青な顔をしながら子供を三人引き連れてやってくる。
 その姿に、休め休めとは一体どの口が吐いたものだったのかとクリスティーナは思わず皮肉を一つ零したのだった。
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