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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
33-1.魔晶石
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強張った笑顔のまま呆けている魔導師より先に動いたのはリオだった。
「クリス……様、お怪我は!?」
やや動揺してか主人の本名を呼びかけた従者はそれでも何とか自力で取り繕う。
失礼しますとクリスティーナの手を取り、観察をする。
「問題ないわ」
破裂に驚きはしたが、怪我には至っていないようだ。
自身の目でも主人の怪我の有無を確認してからリオは頷いて手を離した。
一方でエリアスも驚いて腰を浮かせていたが、怪我人がいないことを悟ると深く息を吐いて安堵する。
しかしリオは主人に怪我がなかったことに安心するよりも先にノアを睨みつけた。
「このような可能性は窺っていなかったと思いますが」
「あ、ああ……えーっと、ごめんね」
視線を受けて漸く我に返ったノアは軽い口調で謝罪をするが、リオの視線がより鋭くなったことを察すると軽く両手をあげて首を横に振ってみせた。
「待った待った、驚かせたのは悪かった……というか正直俺も驚いてるけど! 怪我の心配とかはないから! ほら、実際クリスも無傷だろう?」
従者は相変わらず冷ややかにノアを見つめてはいるが、一先ず彼の言い分は聞くつもりのようだ。
事実、彼の言う通り怪我は負っていないことも事実である以上、彼の話を聞く理由は充分にある。
「魔晶石は石に含まれた魔力の瞬間的な増減が著しいものになるとその不可に耐え切れなくなって破裂しちゃうんだ」
ノアはバツが悪そうに頬を掻く。
「この現象は本当に稀だから話してなかった……というか、俺も初めて見るから頭から抜けてたんだけど。君の魔力量を考えれば先に話すべきだったね。俺のミスだよ、ごめん」
クリスティーナは首を横に振る。
散々規格外だなんだと話された後だと、彼のことを一方的に責め立てることもできまい。
常識はずれなのはどちらかと言えばこちらの方なのだ。
「……いいえ」
「ただ、さっきも言ったけど怪我の心配とかはないからそこは安心して欲しい。君自身が今確認しただろうけど、魔晶石は破裂するとほぼ視認できない程度まで細かな粒子になって消えてしまう。石の破片で指を切ったりという心配もないよ」
「そう」
どうやらリオも納得したようだ。
様子を窺うクリスティーナの視線に頷きを返し、威圧的な視線をしまい込む。
「そうですか……。先に咎める形となってしまい申し訳ありませんでした」
「いいや、これは俺の落ち度だからね。君達が気を悪くするのも仕方がないさ」
堅苦しいのはやめてくれと苦笑しながらノアが両手を振る。
「けれど、そっか……。やっぱり君達はすごいね」
新しい石をクリスティーナに渡しながらしみじみと呟かれる言葉。
長い睫毛の下に揺らぐ藍色がどこか憂いを孕んでいるような気がして、何か声を掛けるべきかと躊躇われる。
しかし出会って間もない彼のことなど理解できるはずもなく。遅れて交わった視線の先で不思議そうに首を傾げる彼に何でもないと首を振った。
「クリス……様、お怪我は!?」
やや動揺してか主人の本名を呼びかけた従者はそれでも何とか自力で取り繕う。
失礼しますとクリスティーナの手を取り、観察をする。
「問題ないわ」
破裂に驚きはしたが、怪我には至っていないようだ。
自身の目でも主人の怪我の有無を確認してからリオは頷いて手を離した。
一方でエリアスも驚いて腰を浮かせていたが、怪我人がいないことを悟ると深く息を吐いて安堵する。
しかしリオは主人に怪我がなかったことに安心するよりも先にノアを睨みつけた。
「このような可能性は窺っていなかったと思いますが」
「あ、ああ……えーっと、ごめんね」
視線を受けて漸く我に返ったノアは軽い口調で謝罪をするが、リオの視線がより鋭くなったことを察すると軽く両手をあげて首を横に振ってみせた。
「待った待った、驚かせたのは悪かった……というか正直俺も驚いてるけど! 怪我の心配とかはないから! ほら、実際クリスも無傷だろう?」
従者は相変わらず冷ややかにノアを見つめてはいるが、一先ず彼の言い分は聞くつもりのようだ。
事実、彼の言う通り怪我は負っていないことも事実である以上、彼の話を聞く理由は充分にある。
「魔晶石は石に含まれた魔力の瞬間的な増減が著しいものになるとその不可に耐え切れなくなって破裂しちゃうんだ」
ノアはバツが悪そうに頬を掻く。
「この現象は本当に稀だから話してなかった……というか、俺も初めて見るから頭から抜けてたんだけど。君の魔力量を考えれば先に話すべきだったね。俺のミスだよ、ごめん」
クリスティーナは首を横に振る。
散々規格外だなんだと話された後だと、彼のことを一方的に責め立てることもできまい。
常識はずれなのはどちらかと言えばこちらの方なのだ。
「……いいえ」
「ただ、さっきも言ったけど怪我の心配とかはないからそこは安心して欲しい。君自身が今確認しただろうけど、魔晶石は破裂するとほぼ視認できない程度まで細かな粒子になって消えてしまう。石の破片で指を切ったりという心配もないよ」
「そう」
どうやらリオも納得したようだ。
様子を窺うクリスティーナの視線に頷きを返し、威圧的な視線をしまい込む。
「そうですか……。先に咎める形となってしまい申し訳ありませんでした」
「いいや、これは俺の落ち度だからね。君達が気を悪くするのも仕方がないさ」
堅苦しいのはやめてくれと苦笑しながらノアが両手を振る。
「けれど、そっか……。やっぱり君達はすごいね」
新しい石をクリスティーナに渡しながらしみじみと呟かれる言葉。
長い睫毛の下に揺らぐ藍色がどこか憂いを孕んでいるような気がして、何か声を掛けるべきかと躊躇われる。
しかし出会って間もない彼のことなど理解できるはずもなく。遅れて交わった視線の先で不思議そうに首を傾げる彼に何でもないと首を振った。
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