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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
31-4.魔法の座学
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話の軌道修正を図る為か、昂った自身の気持ちを落ち着ける為か、ノアが咳払いを一つしてから話を戻す。
「とにかく君達の場合、このホースの太さ、流れる速さや量が非常に凄まじいものだって考えてくれればいい」
ホースの中を循環し続けるが再び指し示される。
「で、それをどう誤魔化すかって話なんだけど」
彼が再度生徒三人の顔色を窺った後。中を流れていた水の流れが突如止まった。
その『教材』はただ水を溜めた円環状のホースと化す。
「循環する魔力の動きを止めてしまうんだ。こんな風にね」
「それって危なかったりはしないのか?」
「もちろん。循環していようが循環していなかろうが魔力の量自体は変わらない。体への負担は皆無と言っていい」
真剣な面持ちでホースを観察し続けるエリアスの問いにノアは頷きを返した。
「さっき循環についてと魔力探知の仕組みについては話しただろう? 本来なら魔力は必要な時に必要な分だけ外に排出され、やがてそれを補うエネルギーが外部から注入されるけれど、結局は時間を掛けて一定量に戻る。ただしここでは簡略化の為にホース内の水の量も動きも常に一定だと仮定し、例外的な動きはないものとする」
再びホースの中の水は何の前触れもなく動き始める。
説明を挟みつつも魔法を行使する。何とも器用な立ち回りだ。
「つまり永遠と同じ量の水がホースの中をぐるぐると回っている……常に循環状態な訳だ」
水の流れに沿うように、ホースの上をなぞる人差し指。
『教材』は三人の視線を暫く縫い留めた後に停止して地面へ戻された。
「つまり魔力の動きを止めてしまうというのは言うなれば、このホースの代わりに同じ量の水を保有できるバケツを使おうっていう考え方だということだ」
手持無沙汰になったからだろうか。
ノアは枝を持ち直したかと思えば先程描かれた人型に顔を付け足し始める。
これまたやや味のある、緊張感の欠片もない笑顔だ。
「ただ、水を排出する際、ホースを使っていれば直接出口まで繋がってくれていれば楽だろう?」
話に区切りがついたのかと思ったがどうやらそうではないようだ。
枝を弄びながらも彼は変わらず説明を続ける。
「バケツだと水を掬って運ぶ手間……労力だね。魔力の循環を停めるということはそれが余分にかかってしまう。魔法を使う際、本来必要とされている魔力よりも多く消費しなければならないっていうデメリットは存在するかな」
「なるほど」
一体どの程度変化が現れるのだろうと考えながら、クリスティーナは相槌を打つ。
「けれどそれも気持ち多くなる程度のものだし、そもそもの魔力量が規格外なら本当に杞憂程度のデメリットだよ。少なくとも君は気にしなくても良さそうだ」
『君』が自分のことを示していることに気付いて顔を上げると藍色の瞳と目が合った。
先程まで落書きに勤しんでいたというのに、すぐさま相手の思考を汲み取って気を配る。彼の他者へ対する気遣いは的確だ。
「とにかく君達の場合、このホースの太さ、流れる速さや量が非常に凄まじいものだって考えてくれればいい」
ホースの中を循環し続けるが再び指し示される。
「で、それをどう誤魔化すかって話なんだけど」
彼が再度生徒三人の顔色を窺った後。中を流れていた水の流れが突如止まった。
その『教材』はただ水を溜めた円環状のホースと化す。
「循環する魔力の動きを止めてしまうんだ。こんな風にね」
「それって危なかったりはしないのか?」
「もちろん。循環していようが循環していなかろうが魔力の量自体は変わらない。体への負担は皆無と言っていい」
真剣な面持ちでホースを観察し続けるエリアスの問いにノアは頷きを返した。
「さっき循環についてと魔力探知の仕組みについては話しただろう? 本来なら魔力は必要な時に必要な分だけ外に排出され、やがてそれを補うエネルギーが外部から注入されるけれど、結局は時間を掛けて一定量に戻る。ただしここでは簡略化の為にホース内の水の量も動きも常に一定だと仮定し、例外的な動きはないものとする」
再びホースの中の水は何の前触れもなく動き始める。
説明を挟みつつも魔法を行使する。何とも器用な立ち回りだ。
「つまり永遠と同じ量の水がホースの中をぐるぐると回っている……常に循環状態な訳だ」
水の流れに沿うように、ホースの上をなぞる人差し指。
『教材』は三人の視線を暫く縫い留めた後に停止して地面へ戻された。
「つまり魔力の動きを止めてしまうというのは言うなれば、このホースの代わりに同じ量の水を保有できるバケツを使おうっていう考え方だということだ」
手持無沙汰になったからだろうか。
ノアは枝を持ち直したかと思えば先程描かれた人型に顔を付け足し始める。
これまたやや味のある、緊張感の欠片もない笑顔だ。
「ただ、水を排出する際、ホースを使っていれば直接出口まで繋がってくれていれば楽だろう?」
話に区切りがついたのかと思ったがどうやらそうではないようだ。
枝を弄びながらも彼は変わらず説明を続ける。
「バケツだと水を掬って運ぶ手間……労力だね。魔力の循環を停めるということはそれが余分にかかってしまう。魔法を使う際、本来必要とされている魔力よりも多く消費しなければならないっていうデメリットは存在するかな」
「なるほど」
一体どの程度変化が現れるのだろうと考えながら、クリスティーナは相槌を打つ。
「けれどそれも気持ち多くなる程度のものだし、そもそもの魔力量が規格外なら本当に杞憂程度のデメリットだよ。少なくとも君は気にしなくても良さそうだ」
『君』が自分のことを示していることに気付いて顔を上げると藍色の瞳と目が合った。
先程まで落書きに勤しんでいたというのに、すぐさま相手の思考を汲み取って気を配る。彼の他者へ対する気遣いは的確だ。
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