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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
31-3.魔法の座学
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クリスティーナはノアの説明に耳を傾けながら水を流さなくなったホースを暫く眺めていたが、ふともう一つ用意されていた円環状のホースへ視線を落とす。
これらのホースは謂わば授業の為に用意された『教材』である。こちらも何か意図されて用意されたものだろう。
今までの話の流れから何の為に用意されたものであるのかは何となく想像できていたが、そんなクリスティーナの思考を汲み取ったかのようにノアは頷きながら二つ目の『教材』を持ち上げる。
「これは保有魔力の循環を想像しやすくする為に用意した単純化モデルだ。魔力が消費されない間はこんな風に魔力が回り続けていると考えて欲しい」
彼は塞がっていた両手の一つを空ける為に一つ目のホースを地面に置く。
そして空いた片手で一度指を鳴らしてみせる。
同時に円環を成すホースの重みが増し、その内側から水が発生した。小さな気泡の混ざるそれは更に、クリスティーナ達から見て時計回りにぐるぐると循環をする。
「どの地点から観測したとしても循環している魔力の動きや量は常に一定だ。だから例え全体の魔力量が直接的に把握できなくてもある地点の魔力の流れ方さえ分かれば全体の魔力保有量も大体予測できるって寸法ってわけだ」
相変わらず穏やか且つ聞きやすい口調で説明を続ける彼は、三人の生徒が付いて来られているか様子を窺うことも忘れない。
リオとエリアス、それぞれの反応が理解できているものであることを確認した彼は次いでクリスティーナの顔を見て小首を傾げる。
それは彼女の表情が話の内容を理解できていないもののように見えたというよりも、物言いたげな顔が自分へ向けられていたことをすかさず感じ取ったからのようだ。
一方でクリスティーナもとある考え事が先行し、不躾な視線を送ってしまっていた自覚があった。故に首を横に振りながら小さく謝罪をしたのだが、本人は謝罪される謂れに思い当たるものがなかったらしく目を丸くして笑われてしまった。
「魔力の循環している威力を微弱な空気の震えとして触覚と視覚で感じ取っている感じかな。こればっかりは実際に見につけられるまでイメージしにくいと思うけど……」
大丈夫そうかな、と言葉で改めて確認をとった後に説明が再開される。
「君達の様に超遠距離から感じる魔力っているのは本当に例外だけど、例えるならそうだな……。本来微弱な空気の振動のように感じるはずのものが超遠距離から地鳴りと激しい揺れを伴ってやってきた、みたいな」
「…………それが本当なら確かに大騒ぎね」
ノアの例えにクリスティーナは苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。
一歩進む度に揺れる地面や大きな地鳴り。想像したその図は大怪獣の猛進……言葉通り大災害さながらの事象だ。
その発生源が自分達だというのだから、ことの深刻さに拍車がかかる。
当事者その二であるリオも同じ様な顔をしていた。
「いや、割と本気の話だからね!? 俺なんて気付いた時マジで汗びっしょりでさぁ」
今までのんびりとしていた教師の口調がやや強くなったところから鑑みるにも、話を大仰にしている訳ではなさそうだ。
エリアスまで主人と同僚に対してやや引き気味な視線を送り始めている始末だ。
やはり早急に問題解決へ移った方がよさそうである。
これらのホースは謂わば授業の為に用意された『教材』である。こちらも何か意図されて用意されたものだろう。
今までの話の流れから何の為に用意されたものであるのかは何となく想像できていたが、そんなクリスティーナの思考を汲み取ったかのようにノアは頷きながら二つ目の『教材』を持ち上げる。
「これは保有魔力の循環を想像しやすくする為に用意した単純化モデルだ。魔力が消費されない間はこんな風に魔力が回り続けていると考えて欲しい」
彼は塞がっていた両手の一つを空ける為に一つ目のホースを地面に置く。
そして空いた片手で一度指を鳴らしてみせる。
同時に円環を成すホースの重みが増し、その内側から水が発生した。小さな気泡の混ざるそれは更に、クリスティーナ達から見て時計回りにぐるぐると循環をする。
「どの地点から観測したとしても循環している魔力の動きや量は常に一定だ。だから例え全体の魔力量が直接的に把握できなくてもある地点の魔力の流れ方さえ分かれば全体の魔力保有量も大体予測できるって寸法ってわけだ」
相変わらず穏やか且つ聞きやすい口調で説明を続ける彼は、三人の生徒が付いて来られているか様子を窺うことも忘れない。
リオとエリアス、それぞれの反応が理解できているものであることを確認した彼は次いでクリスティーナの顔を見て小首を傾げる。
それは彼女の表情が話の内容を理解できていないもののように見えたというよりも、物言いたげな顔が自分へ向けられていたことをすかさず感じ取ったからのようだ。
一方でクリスティーナもとある考え事が先行し、不躾な視線を送ってしまっていた自覚があった。故に首を横に振りながら小さく謝罪をしたのだが、本人は謝罪される謂れに思い当たるものがなかったらしく目を丸くして笑われてしまった。
「魔力の循環している威力を微弱な空気の震えとして触覚と視覚で感じ取っている感じかな。こればっかりは実際に見につけられるまでイメージしにくいと思うけど……」
大丈夫そうかな、と言葉で改めて確認をとった後に説明が再開される。
「君達の様に超遠距離から感じる魔力っているのは本当に例外だけど、例えるならそうだな……。本来微弱な空気の振動のように感じるはずのものが超遠距離から地鳴りと激しい揺れを伴ってやってきた、みたいな」
「…………それが本当なら確かに大騒ぎね」
ノアの例えにクリスティーナは苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。
一歩進む度に揺れる地面や大きな地鳴り。想像したその図は大怪獣の猛進……言葉通り大災害さながらの事象だ。
その発生源が自分達だというのだから、ことの深刻さに拍車がかかる。
当事者その二であるリオも同じ様な顔をしていた。
「いや、割と本気の話だからね!? 俺なんて気付いた時マジで汗びっしょりでさぁ」
今までのんびりとしていた教師の口調がやや強くなったところから鑑みるにも、話を大仰にしている訳ではなさそうだ。
エリアスまで主人と同僚に対してやや引き気味な視線を送り始めている始末だ。
やはり早急に問題解決へ移った方がよさそうである。
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