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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

29-2.過度な世話焼き

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「あ、そういえば昼食は食べた?」
「そういえば……」
「朝食は頂きましたが、昼食はまだでしたね」
「お、よかった。俺もなんだよね」

 クリスティーナの言葉にリオが口添えした。

「よかったら奢るよ。振り回しちゃったお詫びもしたいし。おすすめのとこあるから」

 路銀はセシルからたんまりもらっている為、食費には困っていない。
 しかし本人が詫びも兼ねたいというのであれば大人しく甘えておくべきだろうかとクリスティーナは考えた。

「お願いするわ」
「りょーかいしましたっ」

 わざとらしい敬語とやる気のなさそうな敬礼をして魔導師は微笑む。垂れ気味の目尻は彼の物腰の柔らかさを強調し、纏う空気の甘さを増加させる。
 長い睫毛に伏せられた藍色の瞳は気を許せば吸い込まれそうな程深く美しい。

 クリスティーナの美的感性は従者の整った顔面によって養われている為、至近距離から整った顔に覗き込まれた程度で動揺することはないが、なるほど。

 これは同年代の貴族令嬢達が挙って悲鳴を上げそうな美形だとクリスティーナは真顔で冷静に分析した。
 この顔に彼の人当たりの良さや滲み出る善良さに当てられれば確かに勘違いをしてしまうような少女は多そうである。

 彼のことを人たらしと形容したレミの言葉を思い返し、クリスティーナは再度納得した。

 少しふざけた様子の彼の言動に対する返しに困った挙句彼の顔面を冷静に観察していたクリスティーナは、相手を真顔で見つめる反応しかできなかったわけだが、それに気を悪くしたりする様子もなくノアは機嫌よさげに近くのパン屋へ近づいていく。

 しかしその直後にクリスティーナ達が見たのは、店の前でパン屋の主人らしき人物に声を掛けられたかと思えばちゃっかりと手伝いを任されているノアの姿であった。
 パンを買う為だけに一体どれだけの時間を費やすつもりなのだろうか。

「なんというか……愉快な方ですね」
「先に休んでおくわ」

 遠回しな皮肉を口にする従者は呆れている様だ。
 その心中に概ね同意しつつ、この様子ではこの先も様々な道草を食うことになりそうだと諦めたクリスティーナは道に配置されていたベンチへ足を運んだのだった。
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