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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

22-2.仮面の貴公子

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 イニティウム皇国から東南に位置する聖国サンクトゥス。
 その名を聞いて漸くクリスティーナはセシルの言わんとしていることを理解した。
 彼は西進を望んでいるのではなく東進を避けるべきだと言っているのだ。その理由は彼が聖国サンクトゥスの脅威を警戒しているからに他ならない。

「聡い君なら皆まで言わずともわかるね?」
「はい、恐らくは」

 ここ数日、自身を取り巻いていた出来事や兄から告げられた量の多い情報についていくのがやっとだったクリスティーナは聖国に関する懸念が完全に抜け落ちていたことに、自身の至らなさを痛感した。

 聖国は聖女を祀る国。神に愛されている国と言われる。
 その理由は長年聖女の力を授かったという少女がその国民から現れているから。

 聖女を名乗る少女は聖国の大神殿にて厳重に保護され、高貴で尊ぶべき存在であることから、祭事や祈祷の時や重い病や怪我に苛まれる人々の治療に当たる時以外は姿を見せることがないという。

 聖女が死すれば新たな聖女が生まれる。聖国の中で。
 そうして今まで聖国は聖女の生まれる、神に愛された国として自国の権威を国民や他国へ示してきた。それは現在も変わらない。

 しかし聖女は同時に複数存在することが出来ないという理があり、クリスティーナが聖女として生まれてしまった以上、聖国の主張は覆されることになる。
 今聖国に存在する聖女は偽物だということになるのだ。

 国の権威を支えていた存在が偽物だったという話が広まれば嫌でも聖国の権威は揺らぐことになるだろう。
 聖国が、自身の囲っている聖女が偽物であることを認知しているかしていないかは大した問題ではない。問題なのはどちらのケースであっても本物の聖女に当たるクリスティーナの存在は聖国にとって邪魔以外の何物でもないということだ。

 『本物の聖女』の存在に気付いた時、聖国がどのような動きに出るのか簡単に予測することはできないが、厄介事へ発展することは明らかであった。

「幸いにも聖国はイニティウムとそう離れていない国であるし、武力や魔法などの戦力の規模もこちらが上だ。怪しい動きが見られれば圧力をかけることも出来る」

 聖国がアリシアを聖女と認識した場合であればイニティウム側は皇族に保護されている彼女の安全を確保した上で強気に出ることもできるだろう。
 しかし表向き罪人として追放されているクリスティーナが聖女とバレてしまった場合には国が大手を振るって動くことは難しい。

「向こうからイニティウムへ圧力が掛けられた場合には国として対処できるが、クリスティーナ個人を守る為に動くのは難しい。万一聖国絡みで君が危機に陥ってもこちらが手を打てるとは限らないわけだ」
「だから私達自身も東側を警戒しておいて欲しいと、そういうことですね」
「流石出来の良い妹だ。話が早い」

 ぱちんと指を鳴らし片目を瞑って見せるセシルの様子は真面目な話の内容にはどこか不釣り合いである。
 彼はクリスティーナによって開かれたままの地図を反対側から覗き込み、聖国の位置を指で指し示した。

「他にも、海を跨いだ世界規模の障害が発生する可能性もあるにはあるのだけれど、この辺りは話せばキリがないからね。真っ先に大きな問題へ発展するとすれば聖国についてだろう。とりあえずはその辺りを肝に銘じておいてくれると助かるよ」

 さらっととんでもないことを言ってのけた兄を睨みつつも、クリスティーナは小さく頷いた。


***


「聖国を物理的に避けるに於いても、魔導師を探すことに於いてもフォルトゥナは都合がよさそうですね。とはいえ、国をいくつか跨ぐことになりますから到着にはまだ時間を要します。定期的に物資の調達を挟みつつ、焦らず向かいましょう」

 目的地が決まったところでリオは地図を丸めて革袋にしまい込む。
 話し込んでいる内に日は真上を通り過ぎたようで、集中力を欠かせるように空腹感が襲った。
 荷物を纏めたリオが袋から乾いたパンとフルーツを人数分取り分け、互いに交わす言葉も少なに食事を摂る。

 朝食兼昼食を終えた後、一行は傾く太陽を追うように馬車を走らせた。
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