63 / 579
第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
epilogue-2.賽は投げられた
しおりを挟む
「しかし君の協力のお陰でクリスは旅に出た」
「あまりに無理矢理な提案ではあったがな」
フェリクスは事前にセシルからクリスティーナの正体を聞かされていた。
茶会の前にレディング公爵領で起きたことも、聖女を狙った犯行である可能性を危惧していたセシルの考えも、暗殺未遂が発生した時点で把握をしていた。
その為フェリクスが自身の暗殺の容疑者としてクリスティーナを疑うという考えははなからなかったし、それよりもいかに聖女である彼女の命を刈り取らないよう動くべきかという選択に迫られていた訳だ。
幸い、犯人はすぐに特定できた。皇宮の騒ぎに乗じて逃亡した使用人が一人いたからだ。
しかしセシルはその調査を進めると同時に真犯人の存在は秘匿するようフェリクスへ指示を出していた。実の妹に冤罪をかけようと言い出したのだ。
そして初めこそそれに反対したものの、フェリクスは結局それに従う決断をした。
「……彼女には、私が愚かな権力者に見えたことだろう」
我ながら随分と横暴に事を運ばせたものだと苦笑せざる得ない。
一刻を争う中、手段を選ぶことが出来なかったのは口惜しいことだ。
「それだけではないな。この先、国民の目には私が無能な皇太子として映ることだろう」
「惜しくなったかい? 自身の名声が」
「惜しくはないと言えば嘘になるな」
揶揄うように喉の奥で笑う友。
その言葉に肯定する一方で、フェリクスの決意は固まっていた。
「私の使命はこの国の繁栄を色褪せさせないこと。国を守ることだ」
フェリクスは目を閉じる。
瞼の裏に浮かぶのは街を行き交う人々と使用人、友人など自分と関わりのある人々の笑顔。
先人が残した平和という宝物。
それらが穢される未来を避けられるというのであれば保身を二の次にする覚悟くらい、皇太子となり国を背負う運命を定められた日から出来ているというものだ。
「その為ならば嫌われ者も喜んで引き受けよう。その末に玉座を降りることになろうとも構わない」
「流石は僕の友だ。君のような友を持てたことを誇りに思うよ」
セシルは満足そうに深く頷いた。
信頼を置く相手からの称賛は嬉しいものだ。フェリクスも笑みを返した。
「どのように転ぼうと、僕達に待つのはきっと茨の道だ」
セシルの言葉にフェリクスは無言で肯定をする。
この意志が少しでも揺らいだその時、自分達は自ら選んだ道に傷つけられることになる。
「賽は投げられた。先のことは彼女達に掛かっている」
セシルの瞳がフェリクスの後方にある窓へ向けられる。
彼の瞳と同じ色を持つ広々とした空。
皇宮を見下ろす陽の光、どこまでも続く空。
その下を一羽の鳥が羽ばたいていった。
「あまりに無理矢理な提案ではあったがな」
フェリクスは事前にセシルからクリスティーナの正体を聞かされていた。
茶会の前にレディング公爵領で起きたことも、聖女を狙った犯行である可能性を危惧していたセシルの考えも、暗殺未遂が発生した時点で把握をしていた。
その為フェリクスが自身の暗殺の容疑者としてクリスティーナを疑うという考えははなからなかったし、それよりもいかに聖女である彼女の命を刈り取らないよう動くべきかという選択に迫られていた訳だ。
幸い、犯人はすぐに特定できた。皇宮の騒ぎに乗じて逃亡した使用人が一人いたからだ。
しかしセシルはその調査を進めると同時に真犯人の存在は秘匿するようフェリクスへ指示を出していた。実の妹に冤罪をかけようと言い出したのだ。
そして初めこそそれに反対したものの、フェリクスは結局それに従う決断をした。
「……彼女には、私が愚かな権力者に見えたことだろう」
我ながら随分と横暴に事を運ばせたものだと苦笑せざる得ない。
一刻を争う中、手段を選ぶことが出来なかったのは口惜しいことだ。
「それだけではないな。この先、国民の目には私が無能な皇太子として映ることだろう」
「惜しくなったかい? 自身の名声が」
「惜しくはないと言えば嘘になるな」
揶揄うように喉の奥で笑う友。
その言葉に肯定する一方で、フェリクスの決意は固まっていた。
「私の使命はこの国の繁栄を色褪せさせないこと。国を守ることだ」
フェリクスは目を閉じる。
瞼の裏に浮かぶのは街を行き交う人々と使用人、友人など自分と関わりのある人々の笑顔。
先人が残した平和という宝物。
それらが穢される未来を避けられるというのであれば保身を二の次にする覚悟くらい、皇太子となり国を背負う運命を定められた日から出来ているというものだ。
「その為ならば嫌われ者も喜んで引き受けよう。その末に玉座を降りることになろうとも構わない」
「流石は僕の友だ。君のような友を持てたことを誇りに思うよ」
セシルは満足そうに深く頷いた。
信頼を置く相手からの称賛は嬉しいものだ。フェリクスも笑みを返した。
「どのように転ぼうと、僕達に待つのはきっと茨の道だ」
セシルの言葉にフェリクスは無言で肯定をする。
この意志が少しでも揺らいだその時、自分達は自ら選んだ道に傷つけられることになる。
「賽は投げられた。先のことは彼女達に掛かっている」
セシルの瞳がフェリクスの後方にある窓へ向けられる。
彼の瞳と同じ色を持つ広々とした空。
皇宮を見下ろす陽の光、どこまでも続く空。
その下を一羽の鳥が羽ばたいていった。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
悪役令嬢ですが最強ですよ??
鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。
で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw
ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。
だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw
主人公最強系の話です。
苦手な方はバックで!
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
若返った! 追放底辺魔術師おじさん〜ついでに最強の魔術の力と可愛い姉妹奴隷も手に入れたので今度は後悔なく生きてゆく〜
シトラス=ライス
ファンタジー
パーティーを追放された、右足が不自由なおじさん魔術師トーガ。
彼は失意の中、ダンジョンで事故に遭い、死の危機に瀕していた。
もはやこれまでと自害を覚悟した彼は、旅人からもらった短剣で自らの腹を裂き、惨めな生涯にピリオドを……打ってはいなかった!?
目覚めると体が異様に軽く、何が起こっているのかと泉へ自分の姿を映してみると……「俺、若返ってる!?」
まるで10代のような若返った体と容姿!
魔法の要である魔力経路も何故か再構築・最適化!
おかげで以前とは比較にならないほどの、圧倒的な魔術の力を手にしていた!
しかも長年、治療不可だった右足さえも自由を取り戻しているっ!!
急に若返った理由は不明。しかしトーガは現世でもう一度、人生をやり直す機会を得た。
だったら、もう二度と後悔をするような人生を送りたくはない。
かつてのように腐らず、まっすぐと、ここからは本気で生きてゆく! 仲間たちと共に!
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。
あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。
貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。
…あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる