48 / 579
第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
17-1.判決
しおりを挟む
「クリスティーナ・レディング」
だだっ広い空間の真ん中に真っ直ぐ敷かれた赤の絨毯は玉座に腰を掛ける皇帝と皇太子の元まで導くように伸びている。
クリスティーナはその途中で足を止めて優雅に跪き、頭を下げながら声に耳を傾けた。
絨毯を挟むようにずらりと二列に控えるのは皇国騎士、その後ろに控えて遠巻きで事の顛末を見守るのは皇宮に伝える家臣や宮廷魔術師だ。更に後方では用意された椅子に腰を掛けたアリシアがその光景を眺めている。
クリスティーナの名を呼び、立ち上がったのは皇帝ではなく皇太子フェリクスの方だった。
彼は皇帝の正式な後継ぎとして発表をされてからというものの今まで皇帝が負担していた業務のいくつかを任されているとのことだったが、どうやら今回の件に関しての決定や進行も皇帝はフェリクスに委任したようだ。
「顔を上げろ」
命令に従い、顔を上げる。
クリスティーナの姿は階上に立つフェリクスの碧眼に射止められていた。
彼はその目を細めて淡々と告げる。
「貴女には己の醜い嫉妬からイニティウム皇国第一王子である私の婚約者、そして貴女の姉であるアリシア・レディングを陥れんとする日々の言動に対する疑念、及び目撃情報が寄せられている」
そういえばそのような噂もあっただろうか。クリスティーナはひそひそと小声で話す貴族たちの声を思い出していた。
しかしそれが一体、皇太子暗殺と何の関りがあるのというのだろう。
内心首を傾げながらフェリクスの様子を窺うクリスティーナは、すぐに彼に対して違和感を覚えた。
自身を見下ろす彼には怒りも疑念も浮かんでいない。――数日前と同じだ。
「更に昨日、貴女はアリシア嬢が口にする予定であった菓子に毒を盛った。この菓子は貴女が用意した物であり、犯行に至るまでの経緯も明白。また貴女が抱いた妬みによって日頃から彼女を陥れていたことを勘がみても、犯行の動機は明らかだ」
罪悪と哀れみと。
まるで彼が自らの意志でその言葉を注げていないかのような姿にクリスティーナの注意は引かれ、彼女の予想とは違う展開を繰り広げる宣告の内容があまり頭に入らない。
少なくとも彼は相変わらずクリスティーナを罪人だとは思っていないような様子だ。
「よって我が婚約者であるアリシア・レディング暗殺を企てた罪により、貴女、クリスティーナ・レディングを極刑に処す」
自分の名が呼ばれたところで漸くクリスティーナは我に返る。
(……何ですって?)
てっきり自分は皇太子暗殺未遂によって罰せられるのだとばかり思っていたクリスティーナは面を食らうことになる。
確かにあのクッキーを食べる可能性があったのはアリシアもだが、皇太子の身が危険に晒された件について一切不問のままアリシアに降りかかった危機にのみ触れることなど、本来であればあり得ないだろう。
あの場で一番重要視されるべき事案は間違いなく皇太子が毒入りのクッキーを口にする可能性があったということだ。
だだっ広い空間の真ん中に真っ直ぐ敷かれた赤の絨毯は玉座に腰を掛ける皇帝と皇太子の元まで導くように伸びている。
クリスティーナはその途中で足を止めて優雅に跪き、頭を下げながら声に耳を傾けた。
絨毯を挟むようにずらりと二列に控えるのは皇国騎士、その後ろに控えて遠巻きで事の顛末を見守るのは皇宮に伝える家臣や宮廷魔術師だ。更に後方では用意された椅子に腰を掛けたアリシアがその光景を眺めている。
クリスティーナの名を呼び、立ち上がったのは皇帝ではなく皇太子フェリクスの方だった。
彼は皇帝の正式な後継ぎとして発表をされてからというものの今まで皇帝が負担していた業務のいくつかを任されているとのことだったが、どうやら今回の件に関しての決定や進行も皇帝はフェリクスに委任したようだ。
「顔を上げろ」
命令に従い、顔を上げる。
クリスティーナの姿は階上に立つフェリクスの碧眼に射止められていた。
彼はその目を細めて淡々と告げる。
「貴女には己の醜い嫉妬からイニティウム皇国第一王子である私の婚約者、そして貴女の姉であるアリシア・レディングを陥れんとする日々の言動に対する疑念、及び目撃情報が寄せられている」
そういえばそのような噂もあっただろうか。クリスティーナはひそひそと小声で話す貴族たちの声を思い出していた。
しかしそれが一体、皇太子暗殺と何の関りがあるのというのだろう。
内心首を傾げながらフェリクスの様子を窺うクリスティーナは、すぐに彼に対して違和感を覚えた。
自身を見下ろす彼には怒りも疑念も浮かんでいない。――数日前と同じだ。
「更に昨日、貴女はアリシア嬢が口にする予定であった菓子に毒を盛った。この菓子は貴女が用意した物であり、犯行に至るまでの経緯も明白。また貴女が抱いた妬みによって日頃から彼女を陥れていたことを勘がみても、犯行の動機は明らかだ」
罪悪と哀れみと。
まるで彼が自らの意志でその言葉を注げていないかのような姿にクリスティーナの注意は引かれ、彼女の予想とは違う展開を繰り広げる宣告の内容があまり頭に入らない。
少なくとも彼は相変わらずクリスティーナを罪人だとは思っていないような様子だ。
「よって我が婚約者であるアリシア・レディング暗殺を企てた罪により、貴女、クリスティーナ・レディングを極刑に処す」
自分の名が呼ばれたところで漸くクリスティーナは我に返る。
(……何ですって?)
てっきり自分は皇太子暗殺未遂によって罰せられるのだとばかり思っていたクリスティーナは面を食らうことになる。
確かにあのクッキーを食べる可能性があったのはアリシアもだが、皇太子の身が危険に晒された件について一切不問のままアリシアに降りかかった危機にのみ触れることなど、本来であればあり得ないだろう。
あの場で一番重要視されるべき事案は間違いなく皇太子が毒入りのクッキーを口にする可能性があったということだ。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜
ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました
誠に申し訳ございません。
—————————————————
前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。
名前は山梨 花。
他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。
動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、
転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、
休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。
それは物心ついた時から生涯を終えるまで。
このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。
—————————————————
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。
ゴンべえ
ファンタジー
独身生活を謳歌していた井手口孝介は異世界の主神リュシーファの出来心で個人的に恥ずかしい死を遂げた。
全面的な非を認めて謝罪するリュシーファによって異世界転生したエルロンド(井手口孝介)は伯爵家の五男として生まれ変わる。
もちろん負い目を感じるリュシーファに様々な要求を通した上で。
貴族に転生した井手口孝介はエルロンドとして新たな人生を歩み、現代の知識を用いて異世界に様々な改革をもたらす!かもしれない。
思いつきで適当に書いてます。
不定期更新です。
破滅する悪役女帝(推し)の婚約者に転生しました。~闇堕ちフラグをへし折るため、生産魔法を極めて平穏に生きる!~
鈴木竜一
ファンタジー
「ようやくおまえの婚約者が決まったぞ。なんと公爵家令嬢だ」
両親からいきなりそう告げられた辺境領地を治める貧乏貴族の嫡男・アズベル。
公爵家令嬢との婚約により王家とかかわりが持てて貧乏を脱却できると浮かれる両親であったが、ロミーナという相手の名前を聞いた瞬間、アズベルに前世の記憶がよみがえる。
この世界は彼が前世でハマっていたゲームの世界であり、婚約者のロミーナはのちに【氷結女帝】と呼ばれるボスキャラとなり、人々から嫌われる「やられ役」だったのだ。おまけに、主人公に倒された後は婚約者である自分も消滅してしまう運命であることも……
しかし、そんな女帝ロミーナも幼い頃は大人しくて優しいヒロイン級の美少女であると判明する。彼女は常人離れした魔力量を有しているものの、それをうまく制御することができず、力を恐れた貴族たちは次々と婚約話を断り、最後に回ってきたのが辺境領主であるアズベルのウィドマーク家だったのだ。
さまざまな闇堕ちフラグを抱えるロミーナを救わなくてはと決意したアズベルは、自身が持つ生産魔法と前世の知識をフル活用して領地繁栄に奔走し、公爵令嬢である彼女に相応しい男となって幸せにしようと努力を重ねる。
次第に彼の生産魔法によって生みだされたアイテムは評判となり、いつしかロミーナの悪評よりもアズベルが生みだす画期的な魔道具の数々が人々の注目を集めていくように。
「えっ? 俺が革命児?」
推しキャラで婚約者のロミーナと辺境領地で静かに暮らすつもりが、いつしか王家や原作主人公からも頼られる存在に!?
前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
十和とわ
ファンタジー
悲運の王女アミレス・ヘル・フォーロイトは、必ず十五歳で死ぬ。
目が覚めたら──私は、そんなバッドエンド確定の、乙女ゲームの悪役王女に転生していた。
ヒロインを全ルートで殺そうとするわ、身内に捨てられ殺されるわ、何故かほぼ全ルートで死ぬわ、な殺伐としたキャラクター。
それがアミレスなのだが……もちろん私は死にたくないし、絶対に幸せになりたい。
だからやってみせるぞ、バッドエンド回避!死亡フラグを全て叩き折って、ハッピーエンドを迎えるんだ!
……ところで、皆の様子が明らかに変な気がするんだけど。気のせいだよね……?
登場人物もれなく全員倫理観が欠如してしまった世界で、無自覚に色んな人達の人生を狂わせた結果、老若男女人外問わず異常に愛されるようになった転生王女様が、自分なりの幸せを見つけるまでの物語です。
〇主人公が異常なので、恋愛面はとにかくま〜ったり進みます。
〇基本的には隔日更新です。
〇なろう・カクヨム・ベリーズカフェでも連載中です。
〇略称は「しぬしあ」です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる