上 下
40 / 579
第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

14-4.暗殺未遂容疑

しおりを挟む
 お茶の用意を終えた給仕を下がらせ、その場から離れる姿を見送りながら彼はテーブルに置かれたクッキーへと視線を落とした。

「クリスティーナ嬢、急な誘いに応じてくれた上にこのような手土産まで用意してくれたこと、感謝しよう」
「いいえ。こちらこそわざわざお気遣いいただき、この様な場をご用意くださりありがとうございます。洋菓子屋へ立ち寄る途中、建国祭を見て回ったのですが普段よりも活気に満ちた街の景色は新鮮でございました」
「休暇を楽しめていないのではというアリシアの心配はどうやら杞憂だったようだな。君もきちんと羽を伸ばせているようで安心したよ」

 貴方様のせいで重要な休日が一日潰れたのですが、などとは口が裂けても言えまい。彼は恐らく良心でクリスティーナを招いてくれたのだ。
 祭りへ参加しておいたことによって休日を謳歌している自分の姿を誤魔化すことの出来たクリスティーナはほっと胸を撫で下ろしつつ愛想笑いを続ける。

「さて、冷めてしまわないうちに頂いてしまおうか」
「はい、殿下」

 三人がそれぞれティーカップに手を伸ばした時、それは起きた。
 庭園から程よく離れた建物へ続く廊下から使用人たちのざわめきが広がる。
 思わず手を止めたクリスティーナとアリシアはそちらへ視線を移し、フェリクスは腰を浮かせて騎士を呼びつける。

「何事だ」
「わかりません。確認して参ります」

 皇太子から離れた騎士は騒ぎの出所を把握しようと建物へ向かうが、それと同時に彼の進行方向から庭園へ転がり出る別の騎士がいた。
 彼は慌てた様子でフェリクスの前まで辿り着いて跪くと声を高らかに上げる。

「皇太子殿下、今すぐ皇宮へお戻りください」
「何があった。簡潔に話せ」
「はっ、皇宮の毒見役がたった今失神を起こし倒れました。こちらに運ばれたものに遅効性の毒が混入している可能性があります」
「なっ……」

 その場の空気が凍り付く。誰もが顔を強張らせてテーブルに乗せられた洋菓子やティーポットを警戒の眼差しで見つめていた。
 フェリクスはアリシアやクリスティーナがティーカップに口を付けていないことを確認しつつこめかみを押さえた。

「貴方様の命を狙った者の犯行である可能性、また体内に毒物が入り込んでいる可能性がございますのですぐに身の安全の確保と容態の確認を……」
「まだ誰も口を付けていない。犯人の特定は進んでいるのか」
「それが……毒見用の残りを鑑定したところ毒物はそちらのクッキーに混入していたとのことで……」

 騎士は皿に盛られたクッキーを指さす。それはクリスティーナが手土産として皇太子へ献上したものだ。
 その場にいた全員が一斉にクリスティーナを見た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

アブストラクト・シンキング 人間編

時富まいむ(プロフ必読
ファンタジー
訳ありでここに連載している小説をカクヨムに移転、以降の更新をそちらで行います。 一月末まで公開しております 侵食した世界に隠された真実を子供たちは受け入れるのか、それとも・・・

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・

y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える! てってれてーてってれてーてててててー! やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪ 一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ この小説の主人公は神崎 悠斗くん 前世では色々可哀想な人生を歩んでね… まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪ 前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる 久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく 色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー 友情、熱血、愛はあるかわかりません! ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

処理中です...