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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

14-3.暗殺未遂容疑

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(そう考えると、私が聖女だという噂が広まる方が厄介だったかもしれないわね)

 誰が聖女であったとしても結果的に皇族はその身柄の保護へ動いただろうが、聖女に与えられる待遇を贔屓目に感じる者も少なからず現れるはずだ。皇族は常に周囲の視線を配慮した上で聖女に対して慎重に動かざる得なくなる。

 特に悪名高いクリスティーナのことを良く思っていない貴族は多い。不満や疑念を抱くものが現れてもおかしくはない。

 更にクリスティーナは他者から縛られることを面白く思う性格ではない。もしクリスティーナが保護される立場であったなら、常に好奇の目に晒されながら聖女としての責務に駆られて生活する毎日を送ることになっただろう。
 皇族に囲まれ、人の顔色を窺いながら時に国政にも関わらなければない暮らしなどまっぴらごめんである。

 それを考えれば今ある状況はクリスティーナにとって悪いものではないのかもしれない。
 果たしてリオがそこまで考えた上で二日前の場の空気を作り上げたのかはさておき……。

 フェリクスとアリシアの会話を聞き流しつつ自身の従者へ視線を寄越せば、視線に気付いた彼がにこりと微笑む。
 相変わらず彼の考えは読めそうにない。今までは彼の顔色を気にして窺うことなどなかったのだが。

「クリスティーナ嬢はどうだ? やはり自身の姉が長く家を離れるのは心寂しいだろうか」
「……いいえ」

 他所事を考えていたクリスティーナは突然振られた話に対しての初動を遅らせてしまう。
 驚きが表に出ないよう何とか取り繕い、微笑んで答えたところで給仕がアフタヌーンティーの一式をワゴンに乗せてやって来た。
 フェリクスは何か言いたげにクリスティーナへ目配せをしたかと思えばアリシアを一瞥する。

 顔色とその動作から彼の心情を察するに、給仕が近くにいる内は聖女という単語を出して欲しくはないらしい。噂が広まりつつあるとは言え、今のところはまだ聖女の存在について公言するつもりはないのだろう。
 クリスティーナは彼の望みに添って受け答えをしてやることにした。

「確かにお姉様とお会いする機会が減ることは寂しく思いますが……殿下とお姉様は既に未来をお約束されたご関係。いつかは姉離れしなければなりませんから」

 テーブルへ並べられる菓子、ティーカップへ注がれる琥珀色の紅茶へ視線を落とす。
 自分が手土産として用意したクッキーも皿に盛りつけられて茶請けとして出されたようだ。折角用意してくれたのだからというフェリクスの好意かもしれない。

「私はいつでも殿下とお姉様の幸福を願っています。ですから、その時期が多少早まろうとも心から祝福させていただくつもりですわ」

 婚約と絡めて誤魔化した返事の意図はこうだ。『私もお姉様が皇宮へ避難することに賛成です』。
 フェリクスが上手く意図を汲み取ってくれたのかはわからないが、彼はそうかと一つ頷いた。
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