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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

14-2.暗殺未遂容疑

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「箝口令を敷いたとセシルの奴は言っていたが君が聖女の力に目覚めたという噂は密かに広まっているよ、アリシア」

 堅苦しい挨拶や世間話に片を付けたところでフェリクスが話題を切り替えた。
 その言葉にアリシアは眉を下げて視線を落とす。

「まあ、そうなのですか。それは困りましたわね……」

 クリスティーナはアリシアと共に庭園へ案内される際すれ違った皇宮の使用人たちの態度を思い出す。
 アリシアの顔を見てひそひそと話す人々、敬仰の視線を向ける者達……確かにフェリクスの言う通り噂は当の本人を置いて歩き回っている様だ。

 実のところ、クリスティーナは魔物の襲撃事件がレディング領で起きた直後なのにも拘わらずその地を統括する家の令嬢を招き入れて茶会を開く皇太子に対し余程頭の中がお花畑なのだろうかと不満を抱いていたのだが……。
 もしかしたらアリシアが聖女であるという話を耳にしてから、彼の茶会の目的は茶を嗜むことから別のものへと変化していたのかもしれないと思い直す。

 聖女とは間違いなく世界で随一の才を持つ特別な存在だ。
 人間の頂点に立つ程の能力を有する聖女の存在は時に伝説に刻まれ、時に戦火の中心に立たされる程。聖女という存在が誇る価値は無限大である。

 それが自国の民から生まれたとすればその事実確認は真っ先に行わなければならないし、今後国としての立ち回りを問われるのは皇族である。

 聖女はその数々の能力の強力さは勿論、存在そのものが人々の光だ。
時に聖女の存在を巡って戦争が起こった時代もあるようだが、聖女の能力を欲して攻め入った国の殆どが敗北を味わってきた。故に現在では聖女という強力な後ろ盾がある国に攻め入ろうとする国はめったに現れないだろうし、仮に争いが起きたとしても聖女の力を借りることで戦を優位に勧めることが出来るのだ。

 これらのことから、聖女がいる国はその間安寧と繁栄を手に入れることが出来ると言われている。

 しかし聖女の存在が明らかになることで考えられるデメリットもいくつかある。
 例えば聖女が影からその身を狙われる可能性や、聖女を自国へ迎え入れる為に誘拐を企てるなど。事例はそう多くないが暗躍する国々の手に墜ちた聖女が命を落とした時代もあったという。
 アリシアの「困った」という発言はこれらの可能性を危惧してのことだろう。

「今、レディング公は家を離れているから正式な決定は後回しになるだろうが、君を皇宮へ迎え入れるのはどうかと考えていてね。君の意見を聞かせてもらえればと思ったのだが」
「まあ殿下、ありがたいお言葉ですわ」

 幸いにもアリシアは皇太子の婚約者だ。彼女の身に危険が及ぶことを避けて暫く皇宮に居座ったとしても詳細を知らない国民達から不満の声が上がる可能性も低い。
 ……噂が大きく広まるのは時間の問題である気がするが。
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