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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
12-2.覚醒
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庭には家のものが大勢集まっていた。慌ただしく行き来する者、その光景を眺めているだけの者、噂をする者など様々であったがその中心には横たえられたのは三人の騎士姿があった。
その内二人の顔には布がかぶせられており、うつ伏せに寝かされたもう一人の傍では公爵家の主治医が使用人へ指示を出していた。その緊迫した様子から彼の容態も良いとは言えないだろうことは容易に想像がつく。
「……リンドバーグ卿」
息を呑んだ従者は珍しく驚きを顕わにする。
そしてクリスティーナ自身も驚いていた。背中を深く斬りつけられたらしく痛々しい傷を負って倒れているのは夕刻言葉を交わしたエリアスであったからだ。
最後に別れた時あんなにも健康であった人間がたった数時間の後に変り果てた姿になっていることに多少なりとも動揺を覚える。
「リオさん、こちらへ」
「はい」
アニーに声を掛けられたリオは彼女に連れられてエリアスの元へ向かった。
医療の知識もなければ手当の役に立てるようなことも思いつかなかったクリスティーナはその場に留まることにする。
「可哀想に。まだ若いのに」
「あれは……もう助からないだろう」
「特に肩の傷が深いらしい。話によると仮に一命を取り留めてももう剣は握れないだろうって話さ」
リオとアニーが医師の指示を受けて手伝っている姿を遠めに眺めていると、野次馬達の話声を拾った。
自分達は面白半分で見て話しているだけだなんて、随分なご身分である。
高貴な立場である自分のことは棚に上げながらクリスティーナは息を吐いた。
「そもそもリンドバーグ卿程の実力者が何故あそこまでの深手を?」
「現場で騎士同士が剣を交えた痕跡があったらしいから、決闘でもしてたんじゃないかってさ」
「俺達には良くしてくれてたけど、他の騎士とは上手くいってないって話だったからなぁ……。決闘の話が本当なら自業自得ってやつだが……あの死体見たか? ありゃあいくら剣が鋭くてもどうにかなるもんじゃないだろう」
話し込んでいる使用人達が見ている片方の死体を遠目に見てみるが、既に布で覆われてしまっている為 彼がどのような最期を遂げたのかを察することは難しそうだ。
しかし使用人たちの話から推測するにろくな状態ではなさそうである。
その内二人の顔には布がかぶせられており、うつ伏せに寝かされたもう一人の傍では公爵家の主治医が使用人へ指示を出していた。その緊迫した様子から彼の容態も良いとは言えないだろうことは容易に想像がつく。
「……リンドバーグ卿」
息を呑んだ従者は珍しく驚きを顕わにする。
そしてクリスティーナ自身も驚いていた。背中を深く斬りつけられたらしく痛々しい傷を負って倒れているのは夕刻言葉を交わしたエリアスであったからだ。
最後に別れた時あんなにも健康であった人間がたった数時間の後に変り果てた姿になっていることに多少なりとも動揺を覚える。
「リオさん、こちらへ」
「はい」
アニーに声を掛けられたリオは彼女に連れられてエリアスの元へ向かった。
医療の知識もなければ手当の役に立てるようなことも思いつかなかったクリスティーナはその場に留まることにする。
「可哀想に。まだ若いのに」
「あれは……もう助からないだろう」
「特に肩の傷が深いらしい。話によると仮に一命を取り留めてももう剣は握れないだろうって話さ」
リオとアニーが医師の指示を受けて手伝っている姿を遠めに眺めていると、野次馬達の話声を拾った。
自分達は面白半分で見て話しているだけだなんて、随分なご身分である。
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「そもそもリンドバーグ卿程の実力者が何故あそこまでの深手を?」
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話し込んでいる使用人達が見ている片方の死体を遠目に見てみるが、既に布で覆われてしまっている為 彼がどのような最期を遂げたのかを察することは難しそうだ。
しかし使用人たちの話から推測するにろくな状態ではなさそうである。
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