27 / 579
第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
11-3.迫る窮地
しおりを挟む
結論から言うと、エリアスは依頼主の正体を聞くことが出来なかった。
騎士が依頼主を打ち明けようとした次の瞬間――
ぴしゃり。
エリアスは唐突に鮮血を浴びる。
「……は?」
何が起こったのか理解できずに暫し呆けるエリアスの目の前で騎士が地面に突っ伏して絶命する。その頭は鼻の頂点から上を横一直線に切り離され、べちゃりと不快感を伴う音と共に地面へ滑り落ちた。
一瞬の出来事に脳内処理が追い付かず思考停止を許してしまったエリアスはしかし、未だ且つて感じたことのない程の危機感から無理矢理意識を現実へ引き戻した。
「っ、は……!」
同時に酸素供給が再開し、状況を認識し始める。
(突っ立ってる場合じゃねーだろ……! 何秒経った? もう一人は……!)
滲む汗をよそにもう一人の安否を確認する。
這いつくばっていた騎士も遅れて状況を理解したのか、悲鳴を上げて体を起こす。
生存していることに安堵しながらエリアスは周囲へ視線を巡らせる。
(目の前に立っていたのにも拘らず動きが見えなかった。ってことは十中八九魔法……遠距離か、少なくとも中距離か。剣では分が悪い)
気配に気付くことが出来なかったということは自分より格上の存在である可能性がある。むやみに応戦すべきではない。
まずは撤退し、敵の出方を窺う。追撃がある様ならば合流し戦力を底上げした上で迎撃、追いかけてくる様子がないのならすぐに報告し指示を仰ぐ……。
それがこの短時間に出したエリアスの結論であった。
しかし事態は更に悪化する。
生存している騎士へ指示を出そうとしたエリアスは背後から忍び寄る尋常ではない重圧感に体を震わせる。
もう何年と感じたことのなかった、緊張ともまた違った感情をエリアスは思い出されることになる。
恐怖。
圧倒的な力を前にした時に感じる、何をしても意味がないのではと思えるほどの無力感。
口の中はからからに乾き、柄に添えられた手は小刻みに震え、それを自覚すると同時に再び思考が白く塗りつぶされそうになるがそれでも彼の体は背後に迫る危機に対して咄嗟に動いていた。
エリアスは剣を抜きながら振り返った。
自身の正面に来るように剣を構えると同時、突風が吹き、髪を後方へ巻き込んだかと思えば彼の両の頬に亀裂が入る。
否、それだけではない。
まるでエリアスを中心に世界を上下に断裂させたかのように道を形成している両脇の壁に亀裂が入り、周囲のものが全て上下真っ二つに切り裂かれる。
どうやらエリアスが振り返ったと同時に再度魔法が放たれたようであり、咄嗟に垂直に構えた剣が地面と平行に放たれたそれを切り裂いて事なきを得た様だ。背後にいた騎士も無事である。
しかしそれは単なる偶然に過ぎない。
彼は攻撃が見えていたわけでもなければ自分が狙われていることを理解していたわけでもない。
長年洗練された基本動作が自然と現れていただけ。相手は確実に自分より格上である。
「っ、逃げろ! 応援を呼べ!」
「ひっ……!」
自分を殺そうとしていた相手が信用できるかといえば答えは否だが、互いに背を向けて逃げれば今度は間違いなく首を刎ねられることだろう。全滅してしまえば騎士団へ危険な存在を知らせることもできなくなる。
果たしてどれだけ時間を稼げるかはわからないが、もう一人より腕が立つ以上この場に残るべきは自分であろう。エリアスの言葉に我に返ったらしい騎士はどうにか立ち上がったようだ。その場を離れていく気配を感じる。
騎士が依頼主を打ち明けようとした次の瞬間――
ぴしゃり。
エリアスは唐突に鮮血を浴びる。
「……は?」
何が起こったのか理解できずに暫し呆けるエリアスの目の前で騎士が地面に突っ伏して絶命する。その頭は鼻の頂点から上を横一直線に切り離され、べちゃりと不快感を伴う音と共に地面へ滑り落ちた。
一瞬の出来事に脳内処理が追い付かず思考停止を許してしまったエリアスはしかし、未だ且つて感じたことのない程の危機感から無理矢理意識を現実へ引き戻した。
「っ、は……!」
同時に酸素供給が再開し、状況を認識し始める。
(突っ立ってる場合じゃねーだろ……! 何秒経った? もう一人は……!)
滲む汗をよそにもう一人の安否を確認する。
這いつくばっていた騎士も遅れて状況を理解したのか、悲鳴を上げて体を起こす。
生存していることに安堵しながらエリアスは周囲へ視線を巡らせる。
(目の前に立っていたのにも拘らず動きが見えなかった。ってことは十中八九魔法……遠距離か、少なくとも中距離か。剣では分が悪い)
気配に気付くことが出来なかったということは自分より格上の存在である可能性がある。むやみに応戦すべきではない。
まずは撤退し、敵の出方を窺う。追撃がある様ならば合流し戦力を底上げした上で迎撃、追いかけてくる様子がないのならすぐに報告し指示を仰ぐ……。
それがこの短時間に出したエリアスの結論であった。
しかし事態は更に悪化する。
生存している騎士へ指示を出そうとしたエリアスは背後から忍び寄る尋常ではない重圧感に体を震わせる。
もう何年と感じたことのなかった、緊張ともまた違った感情をエリアスは思い出されることになる。
恐怖。
圧倒的な力を前にした時に感じる、何をしても意味がないのではと思えるほどの無力感。
口の中はからからに乾き、柄に添えられた手は小刻みに震え、それを自覚すると同時に再び思考が白く塗りつぶされそうになるがそれでも彼の体は背後に迫る危機に対して咄嗟に動いていた。
エリアスは剣を抜きながら振り返った。
自身の正面に来るように剣を構えると同時、突風が吹き、髪を後方へ巻き込んだかと思えば彼の両の頬に亀裂が入る。
否、それだけではない。
まるでエリアスを中心に世界を上下に断裂させたかのように道を形成している両脇の壁に亀裂が入り、周囲のものが全て上下真っ二つに切り裂かれる。
どうやらエリアスが振り返ったと同時に再度魔法が放たれたようであり、咄嗟に垂直に構えた剣が地面と平行に放たれたそれを切り裂いて事なきを得た様だ。背後にいた騎士も無事である。
しかしそれは単なる偶然に過ぎない。
彼は攻撃が見えていたわけでもなければ自分が狙われていることを理解していたわけでもない。
長年洗練された基本動作が自然と現れていただけ。相手は確実に自分より格上である。
「っ、逃げろ! 応援を呼べ!」
「ひっ……!」
自分を殺そうとしていた相手が信用できるかといえば答えは否だが、互いに背を向けて逃げれば今度は間違いなく首を刎ねられることだろう。全滅してしまえば騎士団へ危険な存在を知らせることもできなくなる。
果たしてどれだけ時間を稼げるかはわからないが、もう一人より腕が立つ以上この場に残るべきは自分であろう。エリアスの言葉に我に返ったらしい騎士はどうにか立ち上がったようだ。その場を離れていく気配を感じる。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?
渡邊 香梨
ファンタジー
コミックシーモア電子コミック大賞2025ノミネート! 11/30まで投票宜しくお願いします……!m(_ _)m
――小説3巻&コミックス1巻大好評発売中!――【旧題:聖女の姉ですが、国外逃亡します!~妹のお守りをするくらいなら、腹黒宰相サマと駆け落ちします!~】
12.20/05.02 ファンタジー小説ランキング1位有難うございます!
双子の妹ばかりを優先させる家族から離れて大学へ進学、待望の一人暮らしを始めた女子大生・十河怜菜(そがわ れいな)は、ある日突然、異世界へと召喚された。
召喚させたのは、双子の妹である舞菜(まな)で、召喚された先は、乙女ゲーム「蘇芳戦記」の中の世界。
国同士を繋ぐ「転移扉」を守護する「聖女」として、舞菜は召喚されたものの、守護魔力はともかく、聖女として国内貴族や各国上層部と、社交が出来るようなスキルも知識もなく、また、それを会得するための努力をするつもりもなかったために、日本にいた頃の様に、自分の代理(スペア)として、怜菜を同じ世界へと召喚させたのだ。
妹のお守りは、もうごめん――。
全てにおいて妹優先だった生活から、ようやく抜け出せたのに、再び妹のお守りなどと、冗談じゃない。
「宰相閣下、私と駆け落ちしましょう」
内心で激怒していた怜菜は、日本同様に、ここでも、妹の軛(くびき)から逃れるための算段を立て始めた――。
※ R15(キスよりちょっとだけ先)が入る章には☆を入れました。
【近況ボードに書籍化についてや、参考資料等掲載中です。宜しければそちらもご参照下さいませ】
【完結】すっぽんじゃなくて太陽の女神です
土広真丘
ファンタジー
三千年の歴史を誇る神千皇国の皇帝家に生まれた日香。
皇帝家は神の末裔であり、一部の者は先祖返りを起こして神の力に目覚める。
月の女神として覚醒した双子の姉・月香と比較され、未覚醒の日香は無能のすっぽんと揶揄されている。
しかし実は、日香は初代皇帝以来の三千年振りとなる太陽の女神だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?
初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。
俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。
神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。
希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。
そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。
俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。
予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・
だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・
いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。
神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです
かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。
そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。
とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする?
パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。
そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。
目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。
とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる