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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
7-2.建国祭と茶会の誘い
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「……茶会、ですか」
そんな彼女の予想を裏切ったのはアリシアからの一つの誘いであった。
自室で本を開いていたクリスティーナの元へやってきたアリシアは淡く微笑んで肯定する。
「ええ。皇太子殿下が妹の貴女も一緒にどうかとお誘いくださったの」
「……祭事は殿下もお忙しいことでしょう。何もそのような時期にお誘いくださらなくとも」
現在催されているのは建国を記念する祭りなのだ。皇宮へは祝辞を持った他国の重要人物らが引っ切り無しに足を運んでいるはずだし、皇太子ともなれば皇帝陛下と共に彼らを出迎える役割が回ってきているはずである。
そんな彼にわざわざ時間を割いていただき茶会など恐れ多い……という名目の元、何とか茶会を回避したいクリスティーナであった。
兄の友人であり姉の婚約者である皇太子と顔を合わせるのも、こうして茶会へ呼ばれることも何も初めての出来事ではない。故に今更そこまで恐縮をする相手でもないというのが本音ではあったが、そんなことよりも折角の休暇に目上の人間と茶会などという楽しくもない行事に参加することが面倒であるということが問題であった。
以上のクリスティーナの心情を簡潔にまとめるとつまらなさそうだから行きたくない、である。
しかしどうやら姉は引き下がる気がないらしい。
「確かに殿下は現在多忙でいらっしゃるけれど、休息は取っているそうよ。だから業務が一段落するだろう時間にどうか……とおっしゃっていたわ。確かに長い間お話することは難しいかもしれないけれど、この時期に殿下がわざわざ時間を割いてくださると提案してくださったの」
つまり殿下のお心遣いを無駄にするつもりなのか、ということが言いたいのだろう。
確かに最近すっかりご無沙汰ではあったが婚約者の妹という立ち位置であれば本来はその程度の関係だろう。皇太子が婚約者の親族までわざわざ気に掛けて茶会に招待するということの方が珍しい話のはずだ。
「それにこれは毎年貴女が建国祭の期間を家だけで過ごしている貴女に対する気遣いでもあるのよ」
「それと茶会がどう関係するというのですか」
「貴女について殿下にお話をしたら、殿下は貴女の休暇に少しでも彩りを齎せることのできるようにと計画してくださったの」
何をどう考えたらそのような発想になるのか、大変良い迷惑である。皇太子とその婚約者に挟まれた茶会で一体誰の思い出が彩るというのだろう。精々皇太子を通じてコネの広がる可能性がある程度である。
そして丁重にお断りしたいのは山々だが、どうやらアリシアもクリスティーナがイエスと言うまでは引くつもりがない様だ。
クリスティーナは深々と吐き出してやりたくなったため息を何とか呑み込んだ。
「……わかりました。殿下のお心遣いに感謝致します」
「ふふ、楽しみにしているわね」
相変わらず冷たい色をした瞳を細めてアリシアはおっとりと笑う。
それに応えるように軽く頭を下げ、クリスティーナは離れていく彼女の後姿を見送った。
「…………リオ」
「はい、お嬢様」
姉の姿が見えなくなってから大きく息を吐いたクリスティーナは後ろに控えていた従者の名を呼ぶ。
どんよりとした重苦しい空気に満ちた自室で、彼女は渋々告げる。
「……祭りへ行くわ」
そんな彼女の予想を裏切ったのはアリシアからの一つの誘いであった。
自室で本を開いていたクリスティーナの元へやってきたアリシアは淡く微笑んで肯定する。
「ええ。皇太子殿下が妹の貴女も一緒にどうかとお誘いくださったの」
「……祭事は殿下もお忙しいことでしょう。何もそのような時期にお誘いくださらなくとも」
現在催されているのは建国を記念する祭りなのだ。皇宮へは祝辞を持った他国の重要人物らが引っ切り無しに足を運んでいるはずだし、皇太子ともなれば皇帝陛下と共に彼らを出迎える役割が回ってきているはずである。
そんな彼にわざわざ時間を割いていただき茶会など恐れ多い……という名目の元、何とか茶会を回避したいクリスティーナであった。
兄の友人であり姉の婚約者である皇太子と顔を合わせるのも、こうして茶会へ呼ばれることも何も初めての出来事ではない。故に今更そこまで恐縮をする相手でもないというのが本音ではあったが、そんなことよりも折角の休暇に目上の人間と茶会などという楽しくもない行事に参加することが面倒であるということが問題であった。
以上のクリスティーナの心情を簡潔にまとめるとつまらなさそうだから行きたくない、である。
しかしどうやら姉は引き下がる気がないらしい。
「確かに殿下は現在多忙でいらっしゃるけれど、休息は取っているそうよ。だから業務が一段落するだろう時間にどうか……とおっしゃっていたわ。確かに長い間お話することは難しいかもしれないけれど、この時期に殿下がわざわざ時間を割いてくださると提案してくださったの」
つまり殿下のお心遣いを無駄にするつもりなのか、ということが言いたいのだろう。
確かに最近すっかりご無沙汰ではあったが婚約者の妹という立ち位置であれば本来はその程度の関係だろう。皇太子が婚約者の親族までわざわざ気に掛けて茶会に招待するということの方が珍しい話のはずだ。
「それにこれは毎年貴女が建国祭の期間を家だけで過ごしている貴女に対する気遣いでもあるのよ」
「それと茶会がどう関係するというのですか」
「貴女について殿下にお話をしたら、殿下は貴女の休暇に少しでも彩りを齎せることのできるようにと計画してくださったの」
何をどう考えたらそのような発想になるのか、大変良い迷惑である。皇太子とその婚約者に挟まれた茶会で一体誰の思い出が彩るというのだろう。精々皇太子を通じてコネの広がる可能性がある程度である。
そして丁重にお断りしたいのは山々だが、どうやらアリシアもクリスティーナがイエスと言うまでは引くつもりがない様だ。
クリスティーナは深々と吐き出してやりたくなったため息を何とか呑み込んだ。
「……わかりました。殿下のお心遣いに感謝致します」
「ふふ、楽しみにしているわね」
相変わらず冷たい色をした瞳を細めてアリシアはおっとりと笑う。
それに応えるように軽く頭を下げ、クリスティーナは離れていく彼女の後姿を見送った。
「…………リオ」
「はい、お嬢様」
姉の姿が見えなくなってから大きく息を吐いたクリスティーナは後ろに控えていた従者の名を呼ぶ。
どんよりとした重苦しい空気に満ちた自室で、彼女は渋々告げる。
「……祭りへ行くわ」
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