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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

6-1.双子の姉

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「こんにちは。……ごめんなさいね、不注意だったわ」
「いいえ。こちらこそ」

 アリシア・レディング。クリスティーナの双子の姉に当たる彼女に対し、クリスティーナは社交の場で他人と接する時と同じ様に一礼する。
 母親譲りの銀髪は同じものをもらい受けた身だが、彼女達は二卵性双生児故に見目が瓜二つということはない。アリシアの瞳が父親譲りの翡翠色であるのに対し、クリスティーナは母親譲りの空色の瞳を持っていた。また、クリスティーナが冷たい雰囲気を与えるような釣り上がった目つきに対し、アリシアの下がった目尻は穏やかで優しげな雰囲気を与える。

 兄と義弟の優秀さもさることながら、アリシアの魔法の才能に関する噂は群を抜いて有名だ。
 魔法には火、水、風、氷、雷、土の六つの属性が基盤となり、属性には適正というものが存在する。適性の有無により、個人の使用できる魔法の種類が決まると言っても過言ではない。そして個人の魔法適正は平均で一から二種、三つ以上所持していれば十分優秀な人材であると言えるのが世の常識である。

 それにもかかわらずアリシアの魔法適性は六……つまり全ての属性の魔法適性を得ているのだ。魔法に置いてどのような分野であっても伸ばすことが出来る彼女は間違いなく類稀なる才能を持った存在と言えるだろう。

 また、社交的で人当たりの良い性格である彼女は人から好かれやすい上に、イニティウム皇国の皇太子とは婚約関係にある。アリシア個人に注目をするのであればまさにどこをとっても文句の付けようがない完璧な人間と言えるだろう。

 そこで彼女の輝かしい経歴を汚すことのできる存在として選ばれるのがクリスティーナである。
 クリスティーナの魔力量は常人離れしているものの、魔法適性は氷の一種のみ。また、社交界ではブーイングの嵐を巻き起こす問題児。

 そこに付け入ってアリシアの、ひいてはレディング家全体の評判を落とそうと裏で暗躍する輩や逆にアリシア達へ媚びを売るべく比較対象としてクリスティーナを引き合いに出す者達は揃ってクリスティーナの悪名を広めた。それによってクリスティーナの立場は現在のような形で確立されてしまったのであった。

「それでは、失礼します」

 クリスティーナは世間話一つすることなくその場から立ち去ることを選択する。
 しかしそれをアリシアが引き留めた。

「そういえば、クリス」
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