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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
5-3.追憶
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「容姿が珍しい自覚はありますし、今更そんなに気にも留めていませんよ。だから俺のことは気にしないでください」
身長差からか、すぐに追いついた従者は主人のすぐ後ろに付き従う。
「……自意識過剰も他者に振り撒けば公害だわ」
「流石に言い過ぎでは?」
背後から投げられる従者の言葉にクリスティーナは冷ややかな返答を与える。
昔から自身の評価には点で無頓着であった従者だが、それは主人に巻き込まれる形で陰口を叩かれても健在であるようだ。
一方でクリスティーナも自身へ向けられた悪意ある言葉に動じることはない。
彼女について回る悪名は何も今に始まったことではないのだ。
横暴且つ我儘だという性格の話から始まりやれどこぞの令嬢を陥れただの、暗殺予告を下しただのといった物騒極まりない噂まで。
学院へ入学する前からそういった彼女の悪名は社交界へ飛び交っていたし、当事者が正面から否定することが必ずしも正しい選択とはなり得ないことを悟っていた。
それに、あながち間違いとは言い切れない要素が混ざっていることもある以上クリスティーナ側に一切非がないとも言い切れないのは事実である。現に噂されているグレンヴィル伯爵令嬢についても無関与という訳ではなく、クリスティーナが彼女に強く当たったのは紛れもない事実と言えよう。
……グレンヴィル伯爵令嬢が登校しない理由が本当にクリスティーナの言動によるものであるのかは定かでないが。
そして彼女の悪い噂が広まりやすい理由の一つとして家族の存在も挙げられることだろう。
レディング公爵家嫡男のセシルはフォーマメント魔法学院の卒業生であり、在学中、生徒会長の座についていた上に第三席という成績で卒業した歴史を持つ。また、レディング公爵領を含めた大陸最大規模の領地を統括するイニティウム皇国の皇太子とは親しき間柄であることも有名で、皇宮へ出入りする姿もよく目撃されるという。
またレディング家に養子として迎え入れられた義弟に当たるイアンも口数は少ないが温厚で知的、学院の中等部で主席の座に就く程の秀才さから将来性を期待されている人材だ。
身内に優秀な人間を持つということはそれだけ比較されやすく、身内に比べて劣っているということは非の打ち所がない者を批判するための材料として利用されやすいということだ。
クリスティーナの魔法の才は人並外れたものなのだが、他の家族に比べればそれも霞んで見えてしまう程度の物なのだろう。
そしてクリスティーナが最も引き合いに出される相手が――
「あら、クリス」
通路の角を曲がろうとしたクリスティーナは同じく反対から曲がろうとしていた女性と衝突しかけてしまう。
しかし幸いリオがクリスティーナの肩を軽く引いてくれたことによりぶつかることは避けられる。
クリスティーナと同じ銀色の髪を持つ彼女は翡翠色の瞳を細めて微笑んだ。
身長差からか、すぐに追いついた従者は主人のすぐ後ろに付き従う。
「……自意識過剰も他者に振り撒けば公害だわ」
「流石に言い過ぎでは?」
背後から投げられる従者の言葉にクリスティーナは冷ややかな返答を与える。
昔から自身の評価には点で無頓着であった従者だが、それは主人に巻き込まれる形で陰口を叩かれても健在であるようだ。
一方でクリスティーナも自身へ向けられた悪意ある言葉に動じることはない。
彼女について回る悪名は何も今に始まったことではないのだ。
横暴且つ我儘だという性格の話から始まりやれどこぞの令嬢を陥れただの、暗殺予告を下しただのといった物騒極まりない噂まで。
学院へ入学する前からそういった彼女の悪名は社交界へ飛び交っていたし、当事者が正面から否定することが必ずしも正しい選択とはなり得ないことを悟っていた。
それに、あながち間違いとは言い切れない要素が混ざっていることもある以上クリスティーナ側に一切非がないとも言い切れないのは事実である。現に噂されているグレンヴィル伯爵令嬢についても無関与という訳ではなく、クリスティーナが彼女に強く当たったのは紛れもない事実と言えよう。
……グレンヴィル伯爵令嬢が登校しない理由が本当にクリスティーナの言動によるものであるのかは定かでないが。
そして彼女の悪い噂が広まりやすい理由の一つとして家族の存在も挙げられることだろう。
レディング公爵家嫡男のセシルはフォーマメント魔法学院の卒業生であり、在学中、生徒会長の座についていた上に第三席という成績で卒業した歴史を持つ。また、レディング公爵領を含めた大陸最大規模の領地を統括するイニティウム皇国の皇太子とは親しき間柄であることも有名で、皇宮へ出入りする姿もよく目撃されるという。
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身内に優秀な人間を持つということはそれだけ比較されやすく、身内に比べて劣っているということは非の打ち所がない者を批判するための材料として利用されやすいということだ。
クリスティーナの魔法の才は人並外れたものなのだが、他の家族に比べればそれも霞んで見えてしまう程度の物なのだろう。
そしてクリスティーナが最も引き合いに出される相手が――
「あら、クリス」
通路の角を曲がろうとしたクリスティーナは同じく反対から曲がろうとしていた女性と衝突しかけてしまう。
しかし幸いリオがクリスティーナの肩を軽く引いてくれたことによりぶつかることは避けられる。
クリスティーナと同じ銀色の髪を持つ彼女は翡翠色の瞳を細めて微笑んだ。
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