雨音ラプソディア

月影砂門

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第五番 〜光と風と氷の子守唄《アンジュ・ヴィーゲンリート》〜

終楽章〜暖かい陽射しの輪舞曲《ロンド》

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 アンチオラトリア・ナトリとの戦いを終え、黎の屋敷に帰ってきた。客人が泊まるための部屋に兄貴を寝かせ、俺たちもその部屋で待機した


 「素直じゃねぇよな」

 「真言にあんな願いを込めてるとは思わねぇよな」

 「敢えて光聖語で唱えたのかな」

 「あの刀の名は黄水晶・光涙こうるいつるぎというそうだ」


 砂歌さん曰く、黄水晶シトリンはまるで光と一体化したかのように黄金の光を放ち続け輝く宝石で、とても美しいそうだ。ちなみに十一月の誕生石でもある。兄貴の誕生日は十一月。そういう意味でも付けたんだろうか。よっぽどの願いを込めたんだろう。しかも名前は琥珀だし。ヘリオライトはオレンジ色の宝石で通称「太陽の石」だ。このヘリオライトにはどんな願いを込めたんだろう。今回の大真言のおかげでもっと知りたくなった


 「そうだね。わたしも兄さんの心をたくさん知りたい」

 「姫さん以上に分からねぇし」

 「シトリンは幸運の石なんだがな・・・」


 一気にシンとなった。ちなみに金運も高めるとの事だ。おかしいな。十一月生まれで誕生石のはずなのに、幸運も金運も人より無い。


 「ちなみに、勇気と知恵を与えてくれるぞ」

 「知恵なんてこれ以上琥珀に与えたらどうなるんだ?」

 「あとは周りを照らし、癒す効果も。自分を癒してはどうかと思うのだが」


 周りが癒されることで、自分も癒される的なことを考えるのが兄貴だ。ストレスが溜まりに溜まるとスイーツを食べまくるという性質はあるが。金平糖をアホほど食べるのはストレスが溜まっていたからなんだろうか。


 「黄色やオレンジの宝石、もう無くなってしまったな・・・オレンジ何とかとかイエロー何とかとしか付けられん」

 「もう武器いらねぇだろ。四つだろ?」


 おそらく砂歌さんが多いんだと思う。黎は楽器なので除く。兄貴が寝ているため、黎はハープを弾いていた。安眠を促す効果があります


 「兄さん、あの真言たくさん練習したのかな。まずあの動きとか。わたしは無理」

 「黎にあれをやれとは多分誰も言わねぇ」

 「バク転してる時すら怖いしな。真言使い補正が付与されているとはいえ」


 運動音痴な黎と実はあまり身体能力が高くない光紀にはできない芸当とのこと。黎に隠れているだけだ。うるさいと小突かれた


 「それにしても犀の真言は面白いな」

 「へへっ、砂歌さんに褒められた」

 「あれは誰にもできない芸当だと思うぜ、俺はな」


 短い詠唱で真言が使える兄貴に丁寧に教えてもらったセクステットの面々。ヴェーダさんは怖いので聞かなかった。黎や砂歌さんに限っては聞くのを忘れていたという事実


 「砂から水もーらいはもうわたし笑っちゃったわ」

 「僕も、笑い堪えたよ」

 「でも結局兄貴に頼っちまったな・・・」

 「俺に関しては作戦立てるの放棄したしな」


 今回のことは反省する点がたくさんある。油断した覚えはないが、必ず構えておく。何かあるのではと予測を立てておく。敵が弱いうちにとにかく叩くなどなど


 「情けなくなってきた・・・」

 「そうよね。琥珀さんが来る前にわたしが矢で打っていたらと思うと悔やまれるわ」

 「一気に近付いて膝の裏側とか切れたかもしれない」


 今考えれば様々な戦い方があった。そんな考えが及ばなかったといえばそれまでだが、命がかかった戦いでそんなことは言っていられない。兄貴に頼ってらんねぇと言って結局頼ることになるって言うダサさったらない


 「反省するのはいい事だ」

 「守るとか言ってたのに守られてやんの」

 「ヴェーダ」

 「すいません・・・」


 砂歌さんに睨まれヴェーダさんが黙った。この人すぐに煽ってくる。ただし間違ってはいない。腹は立つが
 

 「まず、琥珀がこんなに身体が弱いとか聞いてねぇぞ俺」

 「心臓も身体も強くないと言っていたと思うんですが。一昨日に」

 「まぁ・・・そうなんだがここまでとは思わねぇだろ。黎や姉貴より身体弱いとかどうなってんだよ」

 「身体が弱いではなく、体力がない。まず、身体が弱い人が毎日のように大学に行き、バイトをし、塾に行き、調べ物をし、作戦を立てるために徹夜。これで倒れていなかったんですから弱くないですよ」


 そういえば、過労で死ぬんじゃねぇかと思うほどの過密スケジュールでありながらくたばったのは一昨日。これまではちょくちょく休んでいたのかもしれないが。しかし微熱をこじらせていたという事実はある。それでも倒れなかったのだから丈夫っちゃ丈夫なのか


 「動き回ることになったら話は別。あの真言は足を使うことに意味があるんでしょうから。舞なのにエアとか使う訳には行かないでしょうしね」

 「確かにな。舞っていったら身体目いっぱい使ってるイメージだ」

 「兄さんとは思えないほど激しかったけど綺麗だったね」

 「わたしは燃え盛っているような感覚がした。神々しささえ感じたぞ」


 魂の舞とも言えたと思う。あのオーラのせいで余計に神々しく見えた。兄だとわかっているのにだ。汗さえキラキラ光ってたし


 「俺もちょっと舞練習してみようかな。炎の威力上がったりしねぇかな」

 「風情とか一切なさそうよね」

 「踊っている間にクラフトを込められるとは思えんな」


 恋と砂歌さんの言葉の剣で刺されまくった。風情とか全く分からないけどな。真言を考え、真言唱え、舞い、クラフトを込めるという四つを同時に行うのはちょっと大変だ。


 「まずあんな高難易度の真言なかなかできねぇぞ」

 「よっぽど努力したんだろうぜ。でもちょっとやり過ぎな」

 「本当にそうです。努力のし過ぎでもはや自分を虐めていると言っても過言ではありません」


 そんなに大変な真言だったのか。涼しい顔をしてやっていたから唱えてクラフト貯めたらなんとかなるものだと思っていた。相手が簡単にやっているとそう見えてしまうという錯覚なんだろう。ただし仲間から見ると心配になるというデメリットがある。


 「ところで今日はどこへ行ってきたんだ?」

 「カフェ行って、温泉入って、卓球して、おさしみを食べて、浜辺で少し遊んで、また温泉入った。楽しかったなぁ」

 「俺たちが創作おにぎりを食ってる間に刺身かよ」

 「なんていう温泉なんだ?海の近くに温泉なんてあったか?」

 「桐ノ家温泉っていうところだよ。すごく居心地が良くて」

 
 とにかく楽しかったらしい。ちなみに、卓球したのは黎ではなく恋と砂歌さんだ。いつ終わるのか分からない対決だったが、昼食の時間になったためお預けとのこと。隣の台の人とか驚いただろうな


 「穴場中の穴場らしいわよ。知る人ぞ知る観光スポット」

 「旅館には入らないけど、温泉街に二度見どころか三度見四度見するほどの美男子が度々訪れるんだって。どんな綺麗な人なのかな。見てみたいなあ」


 黎と寝ている兄貴以外が黙った。心当たりしかない。しかも天パで絶対にフード付きの服を着ていると来た。


 「いつ会えるのかな」

 「毎月第一、第四土曜日に会えると言っていたな」


 どんな人かとウキウキしている黎。すぐそばにいるだろとは誰も言えないな。兄貴が一人でブラブラ歩いてるのか。


 「まぁ、目立つよね・・・」

 「ん?あれ、今日日曜日だよね?」


 今週は三連休。何故か知らないが三連休。


 「会えるかな」

 「ど、どうなんだろうな・・・」


 そうか第四週目に入る。でも月曜日はレアらしいし。そういえば来週には六月。兄貴にとって最悪の月に入る。理由は一つ、髪がさらにフワフワになる


 「敵に絶対顔に傷はつけるなよと言われるタイプの男がいること忘れてるな」

 「顔は傷つけるなよ、はヤバいやつが高い値で売るための言葉だろ」


 あの暁が突っ込むのも疲れたらしい。


 「コイツ怒るとめっちゃ怖いし強いな」
 
 「あの時だけヴェーダさん越えられてるんじゃないですか?」

 「うーん・・・気に食わねぇが」

 「まぁヴェーダに並んでいるのだから、超えもするな」


 やっぱり兄貴並んでたのか。たった二ヶ月半だぞ。真言使いとしての素質が違ったんだろうか。あと虐めるほどの努力


 「あ、そうだ!温泉街行きたかったのに行けなかったのだよ!」

 「君たちがアンチとかを倒していればスイーツを食べられたというのに」

 「抹茶あんみつ食べたかった」


 温泉街にイケメンが出ると聞いただけで行ったわけではなかったのか。行きたかったがアンチのせいで帰らざるを得なかったのか。可哀想なことをしてしまった


 「抹茶の店なのか?」

 「じゃああそこか・・・」

 「え、大誠さん知ってるの?マイナーだって言ってたわよ」

 「その温泉街に、俺の叔父の店があるんだ。和菓子カフェ霧ノ堂」

 「あ、お土産もあるよ」


 旅館の土産屋で買ってきたらしい。じゃんと箱に入ったミニ饅頭十個入りの箱を人数分


 「いや、家のじゃねぇか」

 「黎が食べたいと」


 和菓子屋の息子にその店の土産を買ってくるとは。黎のチョイスすごいな。抹茶もちで中にはチョコクリームが入っているらしい。ヴェーダさんは食べられないな


 「ヴェーダと毎日のように試食させられる俺は琥珀に譲る」

 「別に譲ってもいいけどな、琥珀そんなに食べるのか?」

 「熱が冷めると暴食を始める。甘いもの限定。三十個しかもミニ饅頭。秒でなくなる。ただし、人が見ていたら食べない」


 自分が暴食しているところを人に見せたくないらしい。しかしそれを大誠さんは見ているという事実。親友には何を見せてもいいということなんだろうか。だとしたら少しズルい


 「んっ」

 
 パサッと兄貴が起きた。サッと起きるなと海景くんに怒られた。
 兄貴がグッと伸びをしながら深呼吸。スっとこちらを向いた。伸びをしているところを見られたのが恥ずかしかったのか、布団を頭まで被った


 「こ、琥珀さん。それは寝起きみんなやるんですよ」

 「そうだぜ兄ちゃん、意外と身体凝るからな」

 「なんとかの恩返しっていう話の中に出てくる鳳凰・・・だったか?」

 「え、孔雀じゃないのかい?」

 「鶴だよ」

 「鳳凰が機織りって何やってんだって話だ」

 「綺麗な羽織ができるんだろうなぁ・・・まぁその鶴みたいだな。見たら隠れる」


 砂歌さんが聞いたその恩返しの話は鳳凰が出てきたのか?吉兆の象徴を縛るって。しかし、そんなに恥ずかしがることじゃない


 「あ、お土産買ってきたのさ」

 「お土産?お、桐ノ家温泉じゃないか。温泉街には行ったの?スイーツ店とかカフェとか着物屋さんとか呉服屋さんとか和風雑貨屋とか色々あるよ」

 「あ、あの温泉街・・・そんなに魅力的な場所だったのね」

 「アンチなど放っておけば良かった」

 「お姉ちゃん!?」


 砂歌さんが大後悔だ。アンチ放っておけばというのだから、おそらく我慢していたんだろう。兄貴が紹介なんてするから


 「有名だったんですか?」

 「全然。行った人が出来れば人に教えたくないほどの居心地の良さ。あの景観は維持するべき。道を真っ直ぐ見ると夕陽が見える。その向こうには湖ってね」


 女子たちがどんどん浮かない顔になっていく。兄貴はようやく行ってないことを察した。聞いているだけで行きたくなる。観光名所として紹介しようものなら混雑してあの美しい景観が台無しになってしまうとのこと。


 「写真あるよ」


 ほら、と行った店や街の風景などの写真を見せてくれた。


 「これあんみつですか?」

 「そうそう。これは抹茶あんみつじゃないんだけどね。隣のは抹茶碗に入ってるけど抹茶オレ」

 「お、おいしそう」


 頑として自分を映さない。人が入ったらその世界が崩れてしまうというのが兄貴の考えらしい。


 「美しいものが好きなやつならではの考えな気がする。その場所そのものを愛する的な」

 「あ、食べていい?」

 「うん!」

 「大誠のお店のやつだけどね。好きなんだよ、これ」


 かなりストレス溜まってるな、これは。人目をはばからずスイーツを食べるとは。美味しいといいつつどんどん消えていく。


 「あとで運動しないと」


 もうちょっと太れよとヴェーダさんに言われてしまった。あまり食べすぎないでくださいよ、と海景くんから諭された。


 「こんだけ食べてるってことは・・・回復したか?」

 「うん。全快だよ」

 「ほんと?よかったー」

 「あまり心配をかけないでくれ」


 可愛い黎の笑顔と、美しい砂歌さんの微笑を向けられ、善処しますと笑って言った


 「兄貴、あの踊りながらやるやつ教えてくれよ」

 「いやお前には無理ってさっき言ったぞ」

 「同時にするとかそんな器用じゃねぇだろ」

 「あの舞に関していうと、身体に染み込ませたから無意識に近い」


 無意識であんな舞うのか。てかいつあんな練習するんだよ。という顔を全員がしていたのか、兄貴が苦笑した


 「練習場いっぱい使って、夜に練習してる。一回練習場崩壊してたの、あれ犯人僕」

 「お前だったのか!」

 「ケルブクライノートの大真言の練習中にやっちまったってわけ。次の日直ってたからまぁ、シャロンさまが直してくれたんだね。ありがたや」


 合掌。破壊したものの黙っていたのか、将来弁護士を名乗ろうかという男が。微熱の中やった結果そんなことになったらしい。コントロールが出来なかったとの事。これは供述ということでいいのか


 「舞なんてもう魂で踊るもんだよ。火を纏いながら無心で踊ってたらそれっぽくなる」

 「そ、そうなのか。よしやってみる」


 無心でやるなら考えなくていいってことだ。動き回りながらクラフトをためて発動すればいい。意外と簡単かもしれない。出来るわけねぇだろとヒソヒソと陰口が聞こえる。


 「治ったは治ったけど・・・眠い!寝る!」


 大誠さん意外がポカンとなった。風邪のあとは寝て食べて寝て食べてをとにかく繰り返す。饅頭を食べたからあとは寝る。そしてそのあと食べるために起きる。


 「ま、まぁおやすみ」

 「うん」


 俺たちは後ろ髪を引かれながらも部屋を出た。俺も眠くなってきた


 「あんな兄さん初めて見るのだけど・・・」

 「全快でも疲れてるんだな。明日はキラキラした琥珀が見れるぞ」


 そのあと俺たちはベラベラ色々喋りながら過ごした。

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