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第三番 〜光の交響曲《リヒトシンフォニー》〜
第七楽章〜参謀の助奏《オブリガート》
しおりを挟む渋っている琥珀と焔たちは、再び沈黙した。その沈黙を破ったのは
「海景さま」
「葵?」
「絶音は効果ありませんか?」
葵からの提案に、全員がおぉーと声を上げ拍手までする始末だった。絶音となっていれば、流石に砂歌でも声は聞こえないだろうという的確な提案だ
「はい、お姉ちゃん絶音になっていたら不審に思うと思うのだよ」
「それも確かに」
全員が再びどうするという風にそれぞれに目線をウロウロさせる。
「僕が砂歌さまが僕たちの会話を聞いているか見ましょうか?」
「そんなことができるの?」
「僕これでもテノーリディアなもので。医療系真言と錬金真言と空間系真言アイが使えます」
アイとは特殊な瞳のことであり、世界中どこであろうと見ることが出来る。千里眼よりも広い範囲を見ることが出来る。さらに、アイが使えれば見えている範囲ならば真言の効果を飛ばせるというものだ
「便利だね」
「マジで何でもありなんだな」
「空間系だからニュアンス的に考えると、火の真言なら火を瞬間移動させられるって感じかな?」
「そうです。僕はまぁ錬金術で鳥飛ばしたりできるくらいです」
琥珀は、海景の言葉にじっと考え始めた。顔を上げると今度はじっと海景を見つめた。考え始めた時の目に変わり、対人恐怖症である海景は、信用している琥珀相手でも流石に怖くなった
「あ、ごめん、悪意はないんだ」
「え、あ、はい」
海景が少しだけ怯えていることに気づき、琥珀は普段の穏やかさを取り戻し微笑んだ。海景はホッとしたように頷いた
「考えると怖くなるって言われるんだよ」
「あぁ、怖いぞ」
「頭の中除きたくなるレベルで怖いな」
高速で回転しているとしか思えないほど怖い顔で考え始める。焔たちは、家族からしても怖いのだからよっぽどだとしか思えなかった。
「砂歌さまは、アジトまで聴覚では詮索できないそうだ。おそらく海景くんの目でも詮索は不可能だろう」
「そうだと思います」
琥珀のなかで策を練っているのであろうと察し、焔たちは話すまで待った。
「・・・その錬金真言で・・・オンブルが出たり戻ったりするあの謎の穴に鳥は入れられないかい?」
「なるほど」
「砂歌さまは仰った。あの穴の先で兄と会うことになるんだ。それが先になるだけだって」
その言葉に寄るならば、穴を辿れば組織に侵入できるのではというのが琥珀の考察だ。その穴に錬金真言で作られた鳥を飛ばしアジトを突き止める。
「それから、今日オンブルたちは増え続けたと聞いている」
「うん、ものすごく増えた」
「ジェードは近くにいたはずだ。どこかで見ていなければオンブルが減ったことなんて気づけない。いくら操作できるって言ったって、数が減ったことまで察することなんて出来ないだろ」
オンブルやグリムが減った分だけ増やすという戦略を取るのであれば、勢力が増す前にその策に講じればよかった。クインテットが未熟なうちに、今回のように大勢で攻めればいい。砂歌とヴェーダは最近ようやくパルティータと戦い始めた。最大戦力が加わる前にその作戦を実行していれば上手く行けば戦力を減らすことくらいはできた。琥珀は、自分の推測をブツブツと独り言のように呟く。これも琥珀が考えている時の癖だ。大誠はそれをよく知っている
独り言はまだ止まらない。
本格的に光が動くことは、クインテットが揃った時点で予測できた。
「あぁ、ヤバい。目が回ってきた。誰か糖質をくれ」
「母ちゃんが持ってきたフルーツが」
「よし、点滴で栄養足りてないんだな」
「あれ、冷蔵庫にジュース入ってんぞ」
「喉が渇いた時は飲むといい」というメッセージ付きだった。砂歌は、琥珀が眠っている間に手搾りのジュースを作っていたのだ。しっかり濾された甘めのオレンジジュースだった。さらに、手作りの焼きプリンまで置いてある
「全貯金叩いてケーキ買わないとな」
早く治せという思いを込めたジュースとプリンだ。プリンの隣にはゼリーもある。傷ついた腹に負担をかけないものばかりだ。栄養の偏りがないようにスムージーまである
「どうみても昨日作ったとしか思えませんが。砂歌さん、病室で作ってたんですね」
心からの気遣いに、琥珀は何故か複雑な気分になった
「どうした?」
「本読んじゃったからさ・・・あれ読んじゃうと・・・うわぁ、ダメだわ。泣きそう」
「そんなにヤバい内容なのかよ」
「うぅーん、さて、さっきの推測の続きをしようかな」
さっさと話題を逸らし、心の篭った焼きプリンを食べた。
「確かに、砂歌さまの話は気になります。しかし今は・・・アンチたちを倒すための戦略を練るべきです」
誰より気になるであろう光紀やヴェーダが優先したことは、国の闇を知ることではなく、一刻も早く砂歌や黎が戦いで心を痛めないようにするために戦略を練ること。そして戦略を練るのは、砂歌が参謀に選んだ琥珀だ。砂歌が最終判断を下し、琥珀が黎も含むパルティータとヴェーダを動かす。今回で琥珀が死ぬことは許されなかった。琥珀自身が許さなかった。瀕死の状態で父親と出会ったとしても、琥珀は父にいつか来ると告げて踵を返し、現に戻ってきたのだ。死ぬつもりはもとよりなかったのだ
「死ぬ気はなかったんだな」
「ないさ。夢に光が差さなかったらライフルで打ち抜いてた」
穏やかな琥珀らしくない物騒な言葉だが、それだけ責任を持っていたのだ。自分の言葉にも役目にも責任を持っていた。
「琥珀兄さん」
「なんだい、黎ちゃん」
「わたしも物凄くお姉ちゃんのこと気になるけれど・・・何より先に戦略を練ることを優先しよう!」
「ラプソディアの君に言われたら、そうせざるを得ないな」
琥珀は穏やかな笑みを浮かべると、すぐに思考フル回転モードに切り替えた。
「どこからだっけ」
「クインテットが揃った時点で作戦を実行するべきだってとこらへん」
「あぁそうだ」
大誠が気を利かせて琥珀の独り言を書記していたのだ。あとでこれを全て砂歌に見せるためだ。このあとは点字になったパソコンで清書するだけだ。焔たちは、大誠の機転にも驚いた。
「うんと、なぜアンチを二人や十人体制にしなかったか、だね」
琥珀が初めてアンチと戦った一昨日。アンチは突然十人で攻めてきた。オンブルはそう多くはなかった。一昨日に関しては砂歌がいたという部分が大きかっただろう。砂歌を相手にするならば、アンチを増やして攻める。それは賢明な判断ではあった。現に、パルティータを一人戦闘不能まで追い込んでいる。それを考えれば最適解ではあった。さらに昨日は、ひとつの軍レベルの人型オンブルとグリムを率いてアンチ二人が行進してきた。使えなかった焔が目覚めたことで、さらに戦力が増した。使えるようになることを考えていなかったのか、これまで焔は眼中にもなかったのだろう。焔を狙わなかったことは愚策でしかない。初期の頃のパルティータを狙わなかったことも愚策。どこかで油断していたのだろうと推測した。アンチと対等に戦えるほどまでパルティータが強くなったとしてもが頭の中にあったとしか思えないほどガバガバだった。
「でも、ミヤマは俺が使えないことを知ってたぜ」
「ホントか?」
「あぁ。目の前で言われたし」
「本格的にジェードは先に討っておくべきだよ」
琥珀のその言葉を書いていた大誠は、そこが重要だという印を付けた。本当にジェードがオンブルたちを生成しているのであれば、真っ先に討つべき敵はジェードだ。ジェードを相手にするならば、出来れば砂歌がいない間にすることが理想だ
「アンチのなかで焔が真言を使えないことを知っていた存在は、ジェードしか有り得ない」
「え?」
「考えてみろ、焔」
焔は脳をフル回転させて考える。自分が真言を使う事ができないことを、ジェードしか知らなかった理由
「これまでのアンチとの戦いをお復習いするぞ」
焔のために思考を一旦止める。黎以外が置いていかれている焔を睨み付けた
「焔が一番最初に見たアンチ」
黎と暁の元仲間であるテノーリディア紫季と、アルトディアのフェルマータ。二度目は名も知らぬ焔が砂歌の言葉のままに刺したソプラディア。そしてジェード。まともに出会したアンチは、初期の頃はこの四人だ。あとは黎や暁にとっては敵にもならないようなソプラディアとオンブルやグリムのセットだ。そして本格的になり始めたのは、オラトリアハーマと交戦した一昨日。ドーマやほかのアンチたちも相手をしている。ただのクインテットでしかなかった琥珀が撃ち抜いている。そして、ミヤマというアンチオラトリアと、アグシというアルトディアと、異常な数のオンブルとグリム。
「はい、このなかで焔が使えないことを知っていたのは誰?」
「・・・ジェードだな」
「そう。初期の頃なんてアンチとほとんど戦っていなかったし、真言なんてみんな差はなかった。でも、ジェードだけは僕たちの会話を聞いていたよね」
早く真言を使えるようになってくれるとと砂歌が呟いたことを、ジェードは聞いていた。そこでジェードは知った。焔という赤色の男は真言を使えないこと。裏でジェードが情報を教えていなければ、焔は真言が使えないからと油断することもなかった。
「厄介なのは、情報を漏洩することなんかじゃないけどさ。誤った情報を流したってことでジェードを消してくれたら楽なんだけどね」
しかし、レクイム教団からジェードを消すことは組織には不可能。つまり、この時点でパルティータが倒さなくてはジェードはオンブルやグリムを増やし続けることになる。負の魂をオンブルやグリムにすることが出来る真言なのであれば、これまで人の恨みを変えてきた存在もジェードなのだ。レクイム教団は、どうあってもジェードを消すことが出来ない
「オンブルやグリムを増やし続ける理由はひとつ」
「ひとつ?」
「フィンスターニスを目覚めさせたいんだろうね」
砂歌など恐るるに足りない相手だと、ミヤマが言い切った闇そのものだ。それを目覚めさせるためには、負のエネルギーを蓄え続けなくてはならない。そのために人の心を利用してきたのだ
「許せねぇな」
「なんて奴らだよ」
「ただ・・・問題は砂歌さまの反応だ」
「お姉ちゃんの?」
焔たちは、フィンスターニスを前にすれば敵ではないと言い放たれた砂歌の反応を思い出した。冷静だった。フィンスターニスとはという問いに即答した
「砂歌さまは・・・一度交戦しているんじゃないかな」
「マジか・・・じゃあ、封印したのは・・砂歌さん?」
「封印じゃないとおも・・・」
その時琥珀がなにかに気がついたのか目を見開いた。慌てて凭れていた身体を起こした
「痛ぅっ」
慌てて起き上がったことで、全身に電流が走ったかのような激痛が襲った。
「取るから、どれだ?」
全て古代文や知らない文字ばかりだったため、大誠や光紀やヴェーダには選別できない。黎と暁も加わったが、どう頑張っても読めない。
「ネイビーに金色の表紙」
「あ、これだな」
「ありがとう」
これを読めた琥珀を信じられないと言わんばかりの瞳で見つめた。高速でページをめくっていく。大誠曰く、これでも読んでいる。活字が苦手な焔からすれば、意味がわからない特技だ。
「・・・」
見つかったらしいページを穴が空くほど読んでいた。文字をしっかり追っていくにつれ、琥珀の表情に焦りが見え始めた
「・・・フィンスターニスは・・・セレナディアだ・・・」
琥珀の呟きは、焔たちにとっては脅しでしかなかった。
「セレナディアは、シンフォディアに封印される直前に2950年後に蘇ると指定している」
シンフォディアはそれを告げられ、未来で世界を救う者たちの平和と幸せを願って眠りについた。端折った部分に恐ろしい事実が隠れていた
「そしてその2950年後・・・今から150年前だ」
「お姉ちゃん、生まれた年じゃ・・・」
「だとしたら砂歌さんは・・・」
「え、お前が隠したかったのはそこか?」
「あぁ、それは違う」
奇しくも砂歌が生まれた年に指定していた。そしてフィンスターニスは、その通りに生まれたことが別の本に記されていた
「フィンスター王国の王族で150年前に生まれた子、読んでみ」
「・・・フィ、ンスター・・・ニス」
王国の名も含まれた闇の希望として生まれたような子どもが生まれていた。砂歌と同い年だった
「砂歌さまと同い年ではないですか」
「・・・そうだね」
少し間を空けて頷いた。暗に違うと言っているようなものだった
「三年前、世界が真っ黒に染った」
疑問を吹き飛ばす衝撃的な言葉が投げられた。黎が雨を晴らしたことでその空は元の夜色に戻っている
「砂歌さまは言っていたね。三年前、オンブルやグリムがアンチの暴走により固まって霊魂になり、空を覆い隠したって」
「言っていたね」
世界の空を覆い隠すほどのオンブルやグリム。それの清掃作業に砂歌は借り出され苦労したということも言っていた。琥珀はそれを記憶していた。というよりも、これまで約一ヶ月間の会話の内容は記憶してあった
「あれ、フィンスターニスの栄養になっていたはずだ。そして、やり過ぎて暴走した存在も」
「ジェード・・・」
その場にいる全員。ホムンクルスたちまで顔を真っ青にしていた。琥珀は顔をさっと上げると
「・・・すぐにでもジェードを討つべきだ」
焔たちもその言葉に同意する。ジェードをこれ以上野放しにしておくわけにはいかない。
「今回かなりオンブルたちを消費したから、ジェードは今のところ量産できないだろう。アンチ自体をオンブルにすることは出来ないみたいだから。次、オンブル戦かアンチ戦が勃発した時は・・・ジェードを意地でも見つけだして討つ。異論は」
全員が異論はないと頷いた。人の恨みや未練を操るものであって、アンチという恨みを持つ実体は操ることが出来ない。しかし、どうあろうとどこかで恨みは生まれているし、無念も生まれている。オンブルやグリムを完全に断つには、浄化も確かに必要だ。しかし浄化をするという負荷を黎や砂歌にばかり掛けてはいられない。黎や砂歌がオンブルやグリムの恨みに同調して心を傷めるだけでしかない。
「スピリト国という国は、さっき言ったように魂操作真言の使い手。これまでのオンブルたちも彼らが量産していたのだろう。2950年間負のエネルギーを蓄えていたんだ。セレナディアの闇は強い。しかし砂歌さまはそれを満身創痍まで追い込んでいることになる。しかし、砂歌さまは満身創痍ではなかったなんてこと、あると思うか?」
どんなに最強と謳われる氷の女王であろうと、闇そのものを相手にして無傷であったはずがない。フィンスターニスはあくまで闇そのもの。闇に氷の女王が追い込めたことがもはや奇跡だ。その奇跡が今度も起こるという保証はどこにもなかった。
「さてヴェーダ、質問だ。砂歌さまは全盛期、どんな戦い方をしていたんだい?」
「少なくとも、最低限の動きではなかったな・・・」
「ではヴェーダ、二つ目の質問。砂歌さまは、銀河を操る真言をいつから使ってなかった?」
ヴェーダは、琥珀の問いに目を見開いた。少なくとも戦い方は最低限の動きではなかった。そして、銀河を操る真言は王になってからは使っていない。だとすれば腑に落ちない。それだけの戦いがあったのであれば、ヴェーダやクルスが忘れるはずがないのだ。
「何も無かったとその戦いの記憶を俺たちから消した・・・」
「多分だけど。そうでなければ、まずヴェーダがフィンスターニスを知らないはずないよね?」
「確かにそうだ。同じ時代を生きてきたのに、フィンスターニスの記憶はない。壮絶な戦いがあった覚えもない」
砂歌とフィンスターニスが戦ったのであれば、誰もそのことを知らないはずがなかった。世界中の全ての人がその戦争を知らず、書物にさえ乗っていなかった。シンフォディアとセレナディアの物語はファディアが記したものであることは、表紙を見れば明らかだ。残すものがその戦いの際はいなかった。満身創痍の状態で、人類のその間の記憶を消すことができるほどのクラフトを持つ存在は限られている
「砂歌しかいねぇじゃねぇか」
「そうだね。君たちは・・・もしも、フィンスターニスが目を覚ましたとして、また砂歌さまが戦ったとして、その二人の戦いを自分たちの中でなかったことにしたいか?砂歌さまが怪我をしていることさえ知らずに、アンチと戦いたいか?」
琥珀の言葉に、黎は泣きそうになりながらも首を横に振り、光紀と暁とヴェーダは拳を握って拒んだ。恋と犀、大誠と海景は嫌だとしっかり呟いた
「だったら、選ぶ道はひとつ。ジェードを倒してオンブルやグリムを倒し、最悪蘇ったとしても弱体化で抑えるだけでも違うはず」
「じゃあ、砂歌が銀河を操る真言や氷の薔薇の真言を全盛期ほど使えるようになってるってことは・・・」
「万全ではなくても、傷は癒えているんじゃないかな。もしくは、クラフトが完全に戻ったかだ」
「・・・よし、みんな!ジェードを倒そう!わたしは、お姉ちゃんに痛い思いして欲しくないよ!」
もちろんだと全員が頷く。数日間の痛みは琥珀の比ではなかっただろう。黎は強い口調でその思いはさせたくないと叫んだ。これまでは怪我をした真言使いを含める患者を治療してきた海景も頷いた。
「海景くん、力を貸してくれないかな」
「無論です。砂歌さんには、恩がありますから。大きすぎるほどの恩がある。砂歌さんがこれまで僕にくれた恩と比べれば、力を貸すくらい安いものです」
「ありがとう」
「琥珀兄さん、ありがとう」
琥珀はポカンとした表情で黎を見る。怪我をしている中で、ラプソディアの真実を突き止め、オンブルやグリムを量産している存在も憶測ではなく確実に突き止め、フィンスターニスが完全体で復活しないための方法を現在満身創痍の身体で懸命に考え尽くした。本当はこうして起きて話すことさえ苦痛であるはずだ。それでもこれからのことを参謀として優先した。自分が休むことではなく、黎の負担が和らぎ、ただでさえ重いものを華奢な肩で背負う砂歌が苦しまないことを考えた
「僕、クインテットでトローネなんだよ?優先しないわけないでしょ」
「なぁ琥珀」
「なに、ヴェーダ」
様々な感情が綯い交ぜになった表情をするヴェーダに、琥珀は微笑みかける
「大誠から聞いた。参謀なんてできる自信なんてないって言ってたって」
砂歌からトローネの証を貰い、稀代の軍師の素質があると言われ、参謀として任命されながら、どこかで砂歌の期待に添える参謀になれる自信がなかった。
「俺もあのときは、無理するなって言ったけどさ・・・自信もっていいと思う」
大誠の励ましのような言葉に琥珀は肩の荷を下ろすようにフッと息を吐いた
「紛れもなくお前は参謀だ」
「まず、これまでの見てて相応しくないなんて思う奴いねぇと思うぞ」
これまでのアンチ戦で、琥珀は指揮力を発揮していた。その指揮力でほぼ無傷で勝利を収めた。琥珀が講義に出席して不在であった際、焔たちは指令の重要さを思い知った。
「琥珀兄さんはオブリガートだね」
「オブリガート?」
「ソロに加えて奏でられる、伴奏以外の楽器パートのことだよ。古い意味ではね、楽曲に不可欠な声部パートなんだよ」
黎が言いたいのは、琥珀はパルティータにおいて必要不可欠な存在であるということ。人の性格や人柄などを音楽用語で例えることのある黎は、にこりと微笑みながら言った
「ありがとう」
「っ、琥珀さん!」
「え、なに?」
「熱、熱!九度八分です!紫苑、熱冷まし!」
病室が慌ただしくなり、さらに体温を聞いた焔たちも慌てだした。熱いなぁと思いつつも気のせいにしていた琥珀も、さすがに頭が鈍痛で悲鳴をあげているのを感じて意識が朦朧とし始めた
「あ、戦略・・・」
「明日にしよう。今日は休んで」
「うーん、そうする・・・頭が死にそう」
海景は点滴を打ち、熱冷ましのためのセットを全て用意し、しっかり横たえた。とうとう目が虚ろになった琥珀は気を失うように眠った。
「気を失うようにってこのことか」
「ようにってか失ってるよな」
熱が急激に上がり、顔は上気し紅潮し、脈拍は標準より早くなり、呼吸も荒かった。我慢していたことに焔たちは呆れた
「おやすみ兄貴、ゆっくり休めよ」
「わたしたち帰るね。海景くん、琥珀兄さんお願いね」
「もちろんです」
焔たちは、琥珀におやすみと告げ、病室を後にした
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