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不思議な恋のお話
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あなたにおいて幸せな時は、どのような時ですか?
テストで満点を取った時?何かで1位を取った時?それともおいしい料理を食べているとき?人それぞれ幸せの定義はあると思う。
僕にとっての幸せは、今この瞬間である。
僕は今、人が行きかう駅前で待ち合わせをしていた。
オシャレな服を着ている人、学生服の人、休日だというのにスーツを着ている人など、様々な人が僕の目の前を通り過ぎる。
(ここにいる人誰よりも僕は今幸せである自信がある)
そんなことを考えながらチラッと腕時計に目を向けると、時刻は13時を少し過ぎていた。
幸せを噛み締めつつ、ある人を待っていた。
これから僕は、初めてできた彼女と初デートをするのだ。
僕の名前は、タカシ。大阪市内の高校に通う高校1年生だ。
容姿は、不細工ではない、それどころかむしろ整っている方だと自負している。
性格は少しシャイだが、他人とコミュニケーションが取れないというわけではない。
友達だって多い方だ。
そんな僕には中学3年生の頃から付き合っている彼女がいる。
彼女の名前は、ミサキ。超絶かわいいクラスのマドンナ的存在である。
付き合いたての中学生の頃は、受験や周りの目を気にして、デートにも誘うことが出来なかった。友達の延長という感じだ。
(本当の恋愛は高校生になってからだろ!放課後デートとか、一緒にテスト勉強とか!)
僕はそんなことを考え、彼女と同じ高校を目指して勉学に励んでいた。
そんな僕の努力もむなしく、残念ながら彼女とは別々の高校に進学した。
漫画の世界でよくある、テスト当日に高熱を出してしまったのだ。
おかげでテストはボロボロ。結果として僕だけ落ちてしまった。
しかし、不幸中の幸いというべきだろうか、僕の入学した高校とミサキの高校とは、道を挟んだ向かい側にあった。そのため同じ高校に入れなかったという悲しさは、正直わずかなものであった。
だが、どれだけ学校が近くにあるからといっても、お互い部活等があるため毎日会うことは出来ない。
会えない日が続いていたため僕のミサキゲージは空になってしまっていた。
(だめだ…、会いたい。そうだ!デートに誘っちゃおうかな)
僕は次の瞬間、ミサキをデートに誘おうための文面を考えるためにスマートフォンを握りしめていた。
しかし、スマートフォンに表示された画面は、全然変化していない。
そう、今までデートに誘ったことがないため、誘い方が分からないのである。
{彼女をデートに誘うにはどうすればいいの?}なんて恥ずかしいこと絶賛思春期真っ只中の高校生が友達に聞けるわけもなく、僕は悶々としながら一晩中考え、次の日ようやくミサキをデートに誘うことが出来たのだった。
そして本日、めでたく初デートに行くことになったのだ!
(幸せだなー。)
先ほどからずっと同じことを考えていると、向こうからミサキが走ってくる姿が見えた。
「ごめん。待った?」
息を切らせながらミサキは、申し訳なさそうに僕に話しかけてきた。
休日ということもあり、ミサキは白のワンピースを身にまとっていた。
初めて見る彼女の私服姿に見とれていると
「どーしたん?結構待ったかな?ほんまにごめんね。」
とミサキがもう一度僕に謝ってきた。
「え?いや…。別に待ってない!僕も今来たところ」
僕は、ありきたりな待ち合わせの際の返事を行った。
「私服初めて見たけど...、似合ってるね」
僕は前日の夜にネットで調べていた{初デートの時に彼女に伝えるべきセリフ}をここぞとばかりに披露していた。
「ありがと…。いこっか」
ミサキは照れたのか、少し顔を赤らめて先に歩き出してしまった。
僕もあわててミサキを追いかけた。
ようやく初デートの開始である!
僕は浮かれた気持ちを彼女に気づかれまいと必死に平常心を保ちつつ彼女の隣を歩いていた。
今日のデートプランは、まずお昼ご飯を食べた後に映画に行くという流れだ。
実はこの流れも僕が事前にリサーチしておいたのだ。
というわけで、僕たちはお昼ご飯を食べに近くのハンバーガー屋さんに入っていた。
普通のファーストフードではない。大阪初上陸のお店だった。
ちなみにこの情報は、同じクラスの女子が話していた情報である。
断じて盗み聞きではない...。勝手に聞こえてきたのだ!いや...本当に。
そんなことはさておき、僕は2人分のハンバーガーを購入し、席を取っていてくれたミサキのもとに急いで向かっていた。
新しく出来た店舗ということもあり、店内は、多くの人でにぎわっていた。
「いただきまーす!」
僕はそういうと大きな口を開けてハンバーガーにかぶりついた。
おいしすぎて、食べる手が止まらなかった。
僕は、口の周りにケチャップをつけながら食べ続けていた。
(全然もう一個いけるな。)
そんなことを考えながら、チラッとミサキの方を見ると
彼女はまっすぐこっちを見たまま、自分のハンバーガーには手を全く付けていなかった。
「どうしたん?具合悪い?」
僕は少し心配になり、ミサキに話しかけると。
「いや…。初デートやから緊張してて、あんまおなかすいてないねん。もし食べれるんやったら私のも食べていいよ!」
(緊張して食べれないとか、可愛すぎかよ!)
とかのんきなことを考えつつ、
「そう?じゃー、お言葉に甘えていただきます!」
というと、彼女の分のバーガーもペロリと平らげた。
「ふふふ。よく食べるねー!」
突然ミサキが僕に笑いかけたので、僕はドキッとしてしまい顔が赤くなってしまった。
僕は慌ててジュースを飲み、少し深呼吸したのちに彼女の方をチラッと確認した。
相変わらずミサキは僕の方を見てほほ笑んでいた。
僕はその笑顔が何よりも大好きだった。
それから僕たちは、お互いの学校生活や部活の話をした。
このようにお互いの話をしているだけですごく幸せで、あっという間に時間が過ぎていった。
1時間くらいが経ったとき、ふと僕は周りに目をやった。
すると、何人かの人がこっちを怪訝そうに見つめ、こそこそ話している。
席を探している人もこちらを見て、少しイラっとしたような表情をしていた。
「店内も混んできたし、そろそろ映画見にいこっか?」
僕は何とも言えない異様な雰囲気を感じ、ミサキに対して
そのように提案し、ハンバーガー店を後にした。
周りの人が怪訝そうな顔でこちらを見ていたのが少し気になったが、
そんなこともすぐに忘れ、僕たちは次なる目的地に向けて歩き出していた。
15分ほど歩いただろうか、僕たちは映画館の受付の前に立っていた。
実は、あらかじめ今日見る映画を決めていたのだ。今日見る映画は恋愛映画である。
僕はあまり興味がなかったのだが、ミサキがこの恋愛映画が見たいというのでこれに決めた。なんでも小説が原作で今、女子高生の間ですごく人気のある映画らしい。
「じゃあ、チケット買ってくるから、ミサキはそこらへんで座ってて」
僕はミサキにそのように伝えると、レジの列に並んだ。
「高校生2枚ください。」
僕は、ミサキと僕の分のチケットを購入し、ソファーで待つミサキのもとへと急いだ。
「はいこれ!チケット。あ!映画といえばポップコーンだよね!二人で食べようか?」
僕はミサキに提案した。
するとミサキはコクリとうなずき、ポップコーン売り場に向かって歩き出した。
僕も急いでミサキの後を追いかけた。
「何味がいい?」
ミサキが僕に聞いてきた。
「キャラメルとかどうかな?」
僕が答えると、ミサキもそれが欲しかったのか、満面の笑顔でこっちをみて頷いていた。
僕たちはポップコーンを買った後、少しソファーで休憩していた。
数分が経った後、ふと時計を見ると、映画の上映時間が近づいていた為、チケットを片手にスタッフの方のもとへと歩いていた。
「いらっしゃいませ。お客様2名様ですが、お連れの方はご一緒でしょうか?」
スタッフが僕に尋ねる。
「え?はい。」
僕が答えるとスタッフは少し困惑した表情になった。
「お連れ様が見えないのですが…」
スタッフの方が僕に言ってきた。
「いや…いますよ。何を言ってるんですか?」
僕は少しイラっとしながら答えた。
しかしまだスタッフは困惑した表情のまま僕の方を見ていた。
「もういいです。チケットちぎってここに置いときますね」
僕はそういうと勢いよく映画のチケットをちぎりスタッフに押し付けた。
そしてそのまま自分たちの映画が上映される部屋へと急いでいた。
「なんか、失礼なスタッフだったね」
僕がミサキに伝えると、ミサキは今にも泣きそうな顔で下を見ていた。
そんなミサキに僕は言葉をかけることが出来なかった。
少し気まずい空気の中、2時間の映画鑑賞が始まった。
「いい映画だった…」
2時間後、僕は目に涙を浮かべながら、ミサキに話しかけていた。
「そうやね。よかった。」
ミサキも少し目に涙を浮かべていた。
「あ…。私少しお手洗いに行ってくるね。」
ミサキは僕にそういうと、トイレに向かって走っていった。
帰ってくるまでソファーで待っておこうと思い、腰を掛けた時、
「あれ?タカシ?」
不意に後ろから自分の名前が呼ばれ、僕は振り返った。
そこには、中学の時の同級生の姿があった。
「あ…。久しぶり」
僕はそいつに向かって挨拶をした。
「お前、何してんだよ!久しぶりだなー」
彼は僕との再会を喜んでいるようだった。僕は少し違うのだけれど...。
「お前、もう大丈夫なのかよ?」
彼は、急に深刻そうに僕に尋ねてきた。
「なにが?」
僕には心当たりがなく、自然に聞き返していた。
「いや…。だから…」
そいつは何とも歯切れが悪そうな感じで、はっきりと言おうとしなかった。
「はっきり言ってくれないとわからないだろう?」
僕が少しイライラしながら、彼に伝えると。
「いやだからな、中学の時に付き合ってたミサキちゃんのことだよ。あの子が事故にあってからお前ずっと引きこもってたって聞いたからさ」
彼が僕に向かって言った言葉を、僕は理解できなかった。
(え?ミサキが事故。そんな話聞いてないぞ)
僕がそのような事を考えていると、
「まあ、元気そうでよかったよ。じゃーまた連絡してくれよな!今度遊びにいこうぜー」
彼はそういうと、僕の前から消えていった。
(ミサキが事故?じゃあ今のミサキは?)
僕の心の中ではずっと彼の言った言葉がぐるぐると回っていた。
「お待たせー!」
僕が動揺していると、ミサキがトイレから戻ってきた。
(ミサキはここにいるじゃないか。今日は僕とずっと一緒にいたんだ。)
そんなことを考えつつ
「なんか外、雨降りそうだし今日は早く帰ろうか?」
とミサキに提案し、二人でゆっくりと駅に向かって歩き出した。
少し歩いたとき、ポツポツと僕の顔に水が当たるのを感じた。
「雨降ってきちゃったね」
ミサキが僕に向かって言っていたが、僕は下を向いたまま黙々と駅に向かって歩き続けていた。
「ねぇ。なんかあったの?」
ミサキが僕に尋ねてきた。
雨はザーザーと音を立てて降り注いでいた。僕はそんな雨音で、ミサキの声が聞こえないふりをした。
そんな時だ、ふと交差点の電信柱の近くに花が置かれているのが目に入った。
「あのさ...。さっき中学の時の同級生にあってね...」
僕がそのように話し始めた時、ミサキはまっすぐ僕を見ていた。
僕はその視線に目を合わせないように話を続けた。
「そいつが言うには、ミサキは交通事故にあったっていうんだよ。おかしな話だよな!
だってここにいるんだもんな」
僕は無理に笑顔を作ってミサキの方を見た。笑い話にすればすべてがなかったことに出来るのではないか?僕はそんなことを心のどこかで思っていた。いや...望んでいた。
しかし、次にミサキの口から出た言葉は、僕の希望とは異なるものだった。
「なーんだ。気づかれちゃったか。そう私は2週間前、事故にあったの。まぁ予想できるとは思うけど...この場所で。そして...」
僕はその続きを聞きたくなかった。何を言われるのかは予想がついていたが、はっきりと彼女の口からは聞きたくなかった。
「私は、死んだの」
雨音でも隠し切れなかった。彼女の言葉は、僕の耳にちゃんと届いてしまった。
「今日もおかしいと思わなかった?」
彼女にそう言われ僕は今日のことを思い出した。
言われてみれば、おかしな点はあった。
例えば昼間に行ったハンバーガー屋さんでの周りの人の僕たちを見る目。他には、映画館のスタッフの態度。
僕の中ですべてがつながった。
そう、ミサキのことは周りの誰も見えてなかったのだ。
ハンバーガー屋さんでは、机を一人で使い、ひとりごとを話していたように見えており、映画館では一人で来ているのも関わらず、チケットを2枚購入し、スタッフに渡していたのだ。
「どうして…」
僕は今でも彼女の言っていることを理解できなかった。いや...脳では理解していたが、心がそれを拒絶していたのだ。
「あなたは私が死んでから、ふさぎ込んでしまった。家族とも話さない。学校にも行かない。部屋から出ない。そして、自分自身で記憶を消したの。私が死んだという記憶を」
ミサキは僕にそういうと、あの優しそうな笑顔で僕に微笑みかけてくれた。
「もうタカシに自分に嘘をついて生きていてほしくないの。私のせいで前に進めない姿は見たくないの。タカシには自分らしく生きてほしいの」
ミサキは、目にいっぱいの涙を浮かべながら僕に訴えかけてきた。
「こんなことを言うとずるいと思われるかもしれないけど、もっと一緒に生きたかった。いろんな経験もしたかった。いっぱいデートもしたかった。ごめんね、タカシ」
ミサキが僕にそう告げた瞬間、僕は声を出して泣いた。
降りしきる雨音に負けないくらいに泣いた。
恥ずかしさなどない、ただ自然に涙と声があふれてくるのだった。
「やっと泣いてくれたね。私が死んでからタカシは一回も泣かなかったんだよ。泣いてくれて嬉しい。出来ることなら、もう少しタカシとこうやって話していたい。でも...私はもう行かないといけない。お別れしないとだめなの」
ミサキは目に涙を浮かべながら僕を慰めるように優しく語りかけた。
「私、ずっとタカシの事見守ってる。だから幸せになって!次の恋をしてその子を私以上に愛してあげて。そして最後に約束して、{今よりも幸せになってね!}」
ミサキは僕に満面の笑みでそう告げてくれた。
それがミサキからの最後の言葉だった。
僕は次の瞬間、ミサキの姿が見えなくなっていた。
「ミサキ!ミサキーーー!」
僕は泣きながら叫んでいた。
「俯いててごめん、死んだお前に心配かけてごめん。俺前に進むよ。絶対幸せになるから」僕は降りしきる雨の中、大声を出して泣き続けていた。
それから1か月後、僕はあるところを訪ねていた。
「いらっしゃい。こっちよ」
女性は僕のことをやさしく向かい入れてくれた。
「こんにちは。遅くなってすみません」
僕はその女性に、あいさつとお詫びをし、仏壇の前に座っていた。
そうここはミサキの家である。
「ミサキに彼氏がいたなんてね」
お母さんはこちらを見ると優しく微笑んだ。
その顔が、最後のミサキの顔によく似ていたので胸が締め付けられそうになった。
「いや…。」
僕は、照れ臭そうに仏壇の方を向くと、そこには満面の笑みで映っているミサキの写真があった。
「ミサキ。遅くなってごめんな。あれからちゃんと学校にも行くようになってさ、友達も出来たんだ。あの妄想の頃の僕とは、おさらばしたんだ!新しい恋はまだだけど…それはゆっくり考えていくことにするよ。」
僕はミサキの写真に向かって語り掛けていた。
そして最後に、満面の笑みでこういった。
「今が前よりも幸せだよ!」
テストで満点を取った時?何かで1位を取った時?それともおいしい料理を食べているとき?人それぞれ幸せの定義はあると思う。
僕にとっての幸せは、今この瞬間である。
僕は今、人が行きかう駅前で待ち合わせをしていた。
オシャレな服を着ている人、学生服の人、休日だというのにスーツを着ている人など、様々な人が僕の目の前を通り過ぎる。
(ここにいる人誰よりも僕は今幸せである自信がある)
そんなことを考えながらチラッと腕時計に目を向けると、時刻は13時を少し過ぎていた。
幸せを噛み締めつつ、ある人を待っていた。
これから僕は、初めてできた彼女と初デートをするのだ。
僕の名前は、タカシ。大阪市内の高校に通う高校1年生だ。
容姿は、不細工ではない、それどころかむしろ整っている方だと自負している。
性格は少しシャイだが、他人とコミュニケーションが取れないというわけではない。
友達だって多い方だ。
そんな僕には中学3年生の頃から付き合っている彼女がいる。
彼女の名前は、ミサキ。超絶かわいいクラスのマドンナ的存在である。
付き合いたての中学生の頃は、受験や周りの目を気にして、デートにも誘うことが出来なかった。友達の延長という感じだ。
(本当の恋愛は高校生になってからだろ!放課後デートとか、一緒にテスト勉強とか!)
僕はそんなことを考え、彼女と同じ高校を目指して勉学に励んでいた。
そんな僕の努力もむなしく、残念ながら彼女とは別々の高校に進学した。
漫画の世界でよくある、テスト当日に高熱を出してしまったのだ。
おかげでテストはボロボロ。結果として僕だけ落ちてしまった。
しかし、不幸中の幸いというべきだろうか、僕の入学した高校とミサキの高校とは、道を挟んだ向かい側にあった。そのため同じ高校に入れなかったという悲しさは、正直わずかなものであった。
だが、どれだけ学校が近くにあるからといっても、お互い部活等があるため毎日会うことは出来ない。
会えない日が続いていたため僕のミサキゲージは空になってしまっていた。
(だめだ…、会いたい。そうだ!デートに誘っちゃおうかな)
僕は次の瞬間、ミサキをデートに誘おうための文面を考えるためにスマートフォンを握りしめていた。
しかし、スマートフォンに表示された画面は、全然変化していない。
そう、今までデートに誘ったことがないため、誘い方が分からないのである。
{彼女をデートに誘うにはどうすればいいの?}なんて恥ずかしいこと絶賛思春期真っ只中の高校生が友達に聞けるわけもなく、僕は悶々としながら一晩中考え、次の日ようやくミサキをデートに誘うことが出来たのだった。
そして本日、めでたく初デートに行くことになったのだ!
(幸せだなー。)
先ほどからずっと同じことを考えていると、向こうからミサキが走ってくる姿が見えた。
「ごめん。待った?」
息を切らせながらミサキは、申し訳なさそうに僕に話しかけてきた。
休日ということもあり、ミサキは白のワンピースを身にまとっていた。
初めて見る彼女の私服姿に見とれていると
「どーしたん?結構待ったかな?ほんまにごめんね。」
とミサキがもう一度僕に謝ってきた。
「え?いや…。別に待ってない!僕も今来たところ」
僕は、ありきたりな待ち合わせの際の返事を行った。
「私服初めて見たけど...、似合ってるね」
僕は前日の夜にネットで調べていた{初デートの時に彼女に伝えるべきセリフ}をここぞとばかりに披露していた。
「ありがと…。いこっか」
ミサキは照れたのか、少し顔を赤らめて先に歩き出してしまった。
僕もあわててミサキを追いかけた。
ようやく初デートの開始である!
僕は浮かれた気持ちを彼女に気づかれまいと必死に平常心を保ちつつ彼女の隣を歩いていた。
今日のデートプランは、まずお昼ご飯を食べた後に映画に行くという流れだ。
実はこの流れも僕が事前にリサーチしておいたのだ。
というわけで、僕たちはお昼ご飯を食べに近くのハンバーガー屋さんに入っていた。
普通のファーストフードではない。大阪初上陸のお店だった。
ちなみにこの情報は、同じクラスの女子が話していた情報である。
断じて盗み聞きではない...。勝手に聞こえてきたのだ!いや...本当に。
そんなことはさておき、僕は2人分のハンバーガーを購入し、席を取っていてくれたミサキのもとに急いで向かっていた。
新しく出来た店舗ということもあり、店内は、多くの人でにぎわっていた。
「いただきまーす!」
僕はそういうと大きな口を開けてハンバーガーにかぶりついた。
おいしすぎて、食べる手が止まらなかった。
僕は、口の周りにケチャップをつけながら食べ続けていた。
(全然もう一個いけるな。)
そんなことを考えながら、チラッとミサキの方を見ると
彼女はまっすぐこっちを見たまま、自分のハンバーガーには手を全く付けていなかった。
「どうしたん?具合悪い?」
僕は少し心配になり、ミサキに話しかけると。
「いや…。初デートやから緊張してて、あんまおなかすいてないねん。もし食べれるんやったら私のも食べていいよ!」
(緊張して食べれないとか、可愛すぎかよ!)
とかのんきなことを考えつつ、
「そう?じゃー、お言葉に甘えていただきます!」
というと、彼女の分のバーガーもペロリと平らげた。
「ふふふ。よく食べるねー!」
突然ミサキが僕に笑いかけたので、僕はドキッとしてしまい顔が赤くなってしまった。
僕は慌ててジュースを飲み、少し深呼吸したのちに彼女の方をチラッと確認した。
相変わらずミサキは僕の方を見てほほ笑んでいた。
僕はその笑顔が何よりも大好きだった。
それから僕たちは、お互いの学校生活や部活の話をした。
このようにお互いの話をしているだけですごく幸せで、あっという間に時間が過ぎていった。
1時間くらいが経ったとき、ふと僕は周りに目をやった。
すると、何人かの人がこっちを怪訝そうに見つめ、こそこそ話している。
席を探している人もこちらを見て、少しイラっとしたような表情をしていた。
「店内も混んできたし、そろそろ映画見にいこっか?」
僕は何とも言えない異様な雰囲気を感じ、ミサキに対して
そのように提案し、ハンバーガー店を後にした。
周りの人が怪訝そうな顔でこちらを見ていたのが少し気になったが、
そんなこともすぐに忘れ、僕たちは次なる目的地に向けて歩き出していた。
15分ほど歩いただろうか、僕たちは映画館の受付の前に立っていた。
実は、あらかじめ今日見る映画を決めていたのだ。今日見る映画は恋愛映画である。
僕はあまり興味がなかったのだが、ミサキがこの恋愛映画が見たいというのでこれに決めた。なんでも小説が原作で今、女子高生の間ですごく人気のある映画らしい。
「じゃあ、チケット買ってくるから、ミサキはそこらへんで座ってて」
僕はミサキにそのように伝えると、レジの列に並んだ。
「高校生2枚ください。」
僕は、ミサキと僕の分のチケットを購入し、ソファーで待つミサキのもとへと急いだ。
「はいこれ!チケット。あ!映画といえばポップコーンだよね!二人で食べようか?」
僕はミサキに提案した。
するとミサキはコクリとうなずき、ポップコーン売り場に向かって歩き出した。
僕も急いでミサキの後を追いかけた。
「何味がいい?」
ミサキが僕に聞いてきた。
「キャラメルとかどうかな?」
僕が答えると、ミサキもそれが欲しかったのか、満面の笑顔でこっちをみて頷いていた。
僕たちはポップコーンを買った後、少しソファーで休憩していた。
数分が経った後、ふと時計を見ると、映画の上映時間が近づいていた為、チケットを片手にスタッフの方のもとへと歩いていた。
「いらっしゃいませ。お客様2名様ですが、お連れの方はご一緒でしょうか?」
スタッフが僕に尋ねる。
「え?はい。」
僕が答えるとスタッフは少し困惑した表情になった。
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スタッフの方が僕に言ってきた。
「いや…いますよ。何を言ってるんですか?」
僕は少しイラっとしながら答えた。
しかしまだスタッフは困惑した表情のまま僕の方を見ていた。
「もういいです。チケットちぎってここに置いときますね」
僕はそういうと勢いよく映画のチケットをちぎりスタッフに押し付けた。
そしてそのまま自分たちの映画が上映される部屋へと急いでいた。
「なんか、失礼なスタッフだったね」
僕がミサキに伝えると、ミサキは今にも泣きそうな顔で下を見ていた。
そんなミサキに僕は言葉をかけることが出来なかった。
少し気まずい空気の中、2時間の映画鑑賞が始まった。
「いい映画だった…」
2時間後、僕は目に涙を浮かべながら、ミサキに話しかけていた。
「そうやね。よかった。」
ミサキも少し目に涙を浮かべていた。
「あ…。私少しお手洗いに行ってくるね。」
ミサキは僕にそういうと、トイレに向かって走っていった。
帰ってくるまでソファーで待っておこうと思い、腰を掛けた時、
「あれ?タカシ?」
不意に後ろから自分の名前が呼ばれ、僕は振り返った。
そこには、中学の時の同級生の姿があった。
「あ…。久しぶり」
僕はそいつに向かって挨拶をした。
「お前、何してんだよ!久しぶりだなー」
彼は僕との再会を喜んでいるようだった。僕は少し違うのだけれど...。
「お前、もう大丈夫なのかよ?」
彼は、急に深刻そうに僕に尋ねてきた。
「なにが?」
僕には心当たりがなく、自然に聞き返していた。
「いや…。だから…」
そいつは何とも歯切れが悪そうな感じで、はっきりと言おうとしなかった。
「はっきり言ってくれないとわからないだろう?」
僕が少しイライラしながら、彼に伝えると。
「いやだからな、中学の時に付き合ってたミサキちゃんのことだよ。あの子が事故にあってからお前ずっと引きこもってたって聞いたからさ」
彼が僕に向かって言った言葉を、僕は理解できなかった。
(え?ミサキが事故。そんな話聞いてないぞ)
僕がそのような事を考えていると、
「まあ、元気そうでよかったよ。じゃーまた連絡してくれよな!今度遊びにいこうぜー」
彼はそういうと、僕の前から消えていった。
(ミサキが事故?じゃあ今のミサキは?)
僕の心の中ではずっと彼の言った言葉がぐるぐると回っていた。
「お待たせー!」
僕が動揺していると、ミサキがトイレから戻ってきた。
(ミサキはここにいるじゃないか。今日は僕とずっと一緒にいたんだ。)
そんなことを考えつつ
「なんか外、雨降りそうだし今日は早く帰ろうか?」
とミサキに提案し、二人でゆっくりと駅に向かって歩き出した。
少し歩いたとき、ポツポツと僕の顔に水が当たるのを感じた。
「雨降ってきちゃったね」
ミサキが僕に向かって言っていたが、僕は下を向いたまま黙々と駅に向かって歩き続けていた。
「ねぇ。なんかあったの?」
ミサキが僕に尋ねてきた。
雨はザーザーと音を立てて降り注いでいた。僕はそんな雨音で、ミサキの声が聞こえないふりをした。
そんな時だ、ふと交差点の電信柱の近くに花が置かれているのが目に入った。
「あのさ...。さっき中学の時の同級生にあってね...」
僕がそのように話し始めた時、ミサキはまっすぐ僕を見ていた。
僕はその視線に目を合わせないように話を続けた。
「そいつが言うには、ミサキは交通事故にあったっていうんだよ。おかしな話だよな!
だってここにいるんだもんな」
僕は無理に笑顔を作ってミサキの方を見た。笑い話にすればすべてがなかったことに出来るのではないか?僕はそんなことを心のどこかで思っていた。いや...望んでいた。
しかし、次にミサキの口から出た言葉は、僕の希望とは異なるものだった。
「なーんだ。気づかれちゃったか。そう私は2週間前、事故にあったの。まぁ予想できるとは思うけど...この場所で。そして...」
僕はその続きを聞きたくなかった。何を言われるのかは予想がついていたが、はっきりと彼女の口からは聞きたくなかった。
「私は、死んだの」
雨音でも隠し切れなかった。彼女の言葉は、僕の耳にちゃんと届いてしまった。
「今日もおかしいと思わなかった?」
彼女にそう言われ僕は今日のことを思い出した。
言われてみれば、おかしな点はあった。
例えば昼間に行ったハンバーガー屋さんでの周りの人の僕たちを見る目。他には、映画館のスタッフの態度。
僕の中ですべてがつながった。
そう、ミサキのことは周りの誰も見えてなかったのだ。
ハンバーガー屋さんでは、机を一人で使い、ひとりごとを話していたように見えており、映画館では一人で来ているのも関わらず、チケットを2枚購入し、スタッフに渡していたのだ。
「どうして…」
僕は今でも彼女の言っていることを理解できなかった。いや...脳では理解していたが、心がそれを拒絶していたのだ。
「あなたは私が死んでから、ふさぎ込んでしまった。家族とも話さない。学校にも行かない。部屋から出ない。そして、自分自身で記憶を消したの。私が死んだという記憶を」
ミサキは僕にそういうと、あの優しそうな笑顔で僕に微笑みかけてくれた。
「もうタカシに自分に嘘をついて生きていてほしくないの。私のせいで前に進めない姿は見たくないの。タカシには自分らしく生きてほしいの」
ミサキは、目にいっぱいの涙を浮かべながら僕に訴えかけてきた。
「こんなことを言うとずるいと思われるかもしれないけど、もっと一緒に生きたかった。いろんな経験もしたかった。いっぱいデートもしたかった。ごめんね、タカシ」
ミサキが僕にそう告げた瞬間、僕は声を出して泣いた。
降りしきる雨音に負けないくらいに泣いた。
恥ずかしさなどない、ただ自然に涙と声があふれてくるのだった。
「やっと泣いてくれたね。私が死んでからタカシは一回も泣かなかったんだよ。泣いてくれて嬉しい。出来ることなら、もう少しタカシとこうやって話していたい。でも...私はもう行かないといけない。お別れしないとだめなの」
ミサキは目に涙を浮かべながら僕を慰めるように優しく語りかけた。
「私、ずっとタカシの事見守ってる。だから幸せになって!次の恋をしてその子を私以上に愛してあげて。そして最後に約束して、{今よりも幸せになってね!}」
ミサキは僕に満面の笑みでそう告げてくれた。
それがミサキからの最後の言葉だった。
僕は次の瞬間、ミサキの姿が見えなくなっていた。
「ミサキ!ミサキーーー!」
僕は泣きながら叫んでいた。
「俯いててごめん、死んだお前に心配かけてごめん。俺前に進むよ。絶対幸せになるから」僕は降りしきる雨の中、大声を出して泣き続けていた。
それから1か月後、僕はあるところを訪ねていた。
「いらっしゃい。こっちよ」
女性は僕のことをやさしく向かい入れてくれた。
「こんにちは。遅くなってすみません」
僕はその女性に、あいさつとお詫びをし、仏壇の前に座っていた。
そうここはミサキの家である。
「ミサキに彼氏がいたなんてね」
お母さんはこちらを見ると優しく微笑んだ。
その顔が、最後のミサキの顔によく似ていたので胸が締め付けられそうになった。
「いや…。」
僕は、照れ臭そうに仏壇の方を向くと、そこには満面の笑みで映っているミサキの写真があった。
「ミサキ。遅くなってごめんな。あれからちゃんと学校にも行くようになってさ、友達も出来たんだ。あの妄想の頃の僕とは、おさらばしたんだ!新しい恋はまだだけど…それはゆっくり考えていくことにするよ。」
僕はミサキの写真に向かって語り掛けていた。
そして最後に、満面の笑みでこういった。
「今が前よりも幸せだよ!」
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