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64 早朝トレーニング
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「はっ、はっ、はっ、はっ、」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
まだ朝日が昇り切らぬ早朝
薄っすらと朝もやが掛かる街道を
二人の少女が呼吸を荒くしながら走る
前を走るヴァレラに対し
後ろを追うセルヴィが少し遅れ始める
「はぁ、はぁ、ヴァレラ、さん、少し、待って、くださいっ」
「その限界のキツさが一番大事なのよ
一緒に朝トレしたいって言ったのはあんたでしょ
頑張りなさい!ほら、あと少し!
この先の公園まで着いたら一旦休憩よ」
「は、はいぃ!」
早くに目が覚めてしまった為
何か飲み物を食堂に取りに行こうとした際
偶然宿の廊下で出かけようとするヴァレラと出くわし
事情を聴いた所、本来の日課である
早朝のトレーニングをしに行くのだと聞き
セルヴィが同行を申し出たのだった
そして何とかヴァレラの後を追いすがり
公園に到着すると、まだ日の出前という事もあり
他に人の姿は無かった
二人は噴水の前に腰掛けると
ヴァレラが腰に付けた装具から水筒を取り出す
「はい、水分補給はしっかりね
ただし飲むときは小さく1口1口小分けに
してゆっくりとね、飲み過ぎは駄目よ」
「わかりましたっ、頂きます!
ふぅ...んむ」
受け取ると1度呼吸を整えてから口に含む
乾いた喉に流れる水はどうしてこれほど美味しいのだろう
ついつい一気に飲み干したく衝動を抑えつつ
言われた通り小さくゆっくりと数度のみ込む
「ぷふぅ、ありがとうございます!」
受け取った水筒を両手で返すと
ヴァレラも口に運び、喉を小さく数回動かした
「ぷはぁ!ランニングの後の水は最高ね
しかしこんなに水が美味しいなんて
料理も美味しいしこの時代も悪くないわね」
その水筒の中身は早朝、朝食の料理を作っていた女将に頼んで
宿の炊事場の井戸から分けて貰った物だった
「昔の水はおいしくなかったのですか?
おいしくない水って言うのも不思議ですが、」
「そうねー、手軽に何時でも何処でも
蛇口一つ捻れば手に入る様になった
代償とでもいうのかしらね」
「むむむ、都合の良い話は中々無いという事ですかね...」
「そゆこと、しかしあんた、意外と体力あるのね
正直驚いたわ」
「そんな事は、実際ついていくのがやっとで...
ヴァレラさんの方は全然余裕見たいですし、」
「んーでも8割くらいは出してたから
アカデミーに入ったばかりの頃の私なら
ついていけなかったペースね
あんたは十分普通より体力はある方だと思うわよ」
「そうなんでしょうか?
ずっと工房で色々お使いや
力仕事をさせて頂いたからかもしれませんっ!
兄さん方には感謝ですねっ」
(もう振り返って泣くだけの自分じゃないのです
沢山の事を教えてくれた、生かしてくれた
彼らの意思為にも、私は強くなります!)
「うん、良い顔してるね、昨日とは見違えた様ね
やっぱり昨日、あいつと何かあったんじゃないの?」
ニヤニヤ
「だ、だからそういう事は何も無いって
言ったじゃないですかっ!」
「そういう事ってなぁに?」
「はぅっ...」
再び昨夜廊下で見かけた時と同様
茹でだこの様に顔を真っ赤に染めるセルヴィ
「ごめんごめん、冗談よ、
さて、休憩もこの辺にして体が冷めない内に
次は筋力トレーニングねっ
まずは腕立て・腹筋・背筋×50を3セットよ!
ゆっくりでもいいからまずは
やり切る事を目標にね」
「は、はいっ!」
—————————
「大丈夫なのか
彼女らだけで行かせて」
宿自室の窓から外を見ながら、ゼロスが
背後のテーブルに腰掛けるプロメに問う
「西地区以外の地域であれば
そこまで治安が悪い訳でもないし
ヴァレラちゃんが一緒だから大丈夫よ
最初は冷凍睡眠から不完全覚醒した状態に
不意打ちを受けて囚われてしまった様だけど
今の万全の状態の彼女であれば
あなた以外にこの都市に
彼女をどうこう出来る人間は早々居ないでしょ」
「しかし...」
「過保護過ぎよ、仲間ならあなたも少しは信用してあげなさい
それとも、ここに来た初日の失敗をまだ引きずってるの?」
「...分からない」
「もう、あなたがそんなのでどうするのよ
まぁそういう事を素直に出せる様になった事は良い事だけどね
それに昨夜は随分と気を緩め居た様じゃない?」
常にゼロスとのデータリンクを共有しているプロメには当然
彼のバイタルや脳波など、昨夜の情報も筒抜けである
「すまない、50秒程完全に無防備になって居た」
「責めてるんじゃないわ、寧ろ良い事よ
感情抑制が施されてると言っても
心が消えてしまった訳じゃないもの、安息も必要よ
私には出来ない事だから、彼女にはとても感謝ね」
「そうか」
「それに圧縮された記憶領域の
シナプス活動が活発になっているわ
何か自分でも自覚出来てる事があるんじゃないかしら?」
「ああ、昔の事を思い出した
思い出した、と言うよりも元々記憶していた事を
夢に見た、とでも言う表現が適切だろうか...
不思議な感覚だ
昨夜程では無いが、時折同じ様に過去が頭を過る事がある」
「それは良い事ね、圧縮された記憶に対して
外部刺激により脳が適応を始めている証拠よ」
「ふむ、」
「噂をすれば帰ってきた見たいよ」
窓から正面通りを見下ろすと、
額に汗を浮かべた肌着姿の二人が談笑しながら
こちらへと戻ってきていた
———————
「ただいまー!」
ヴァレラ達が宿正面の扉を開けると、
正面の受付は無人となっており
代わりに横の食堂奥、厨房の方から
「お帰りなさい、後少しで朝食の用意が整いますので
もう少しだけお待ちくださいー」
と女将の声が響く
「私達はシャワー浴びて来るから
ゆっくりでいいよ」
ヴァレラがその場で声を少し大きくして答える
そのまま食堂とは反対方向のシャワー室へ目を向ける
「うぅ、朝の水は冷たそうなのです...」
都市の水道設備の類が配備されていない
この宿では二階の水タンクに水を貯え
一階のシャワールームにて栓をひねると
重力の力でシャワーとして水が出る仕組みだったが
備えつけられたボイラーの魔具を動かすには当然
魔力が必要であり、それを行使できないセルヴィは
水を温める事が出来ず、そのままで使わねばならなかった
「あー、そういえばあんたは魔法が使えないんだっけ?
不便な物ね」
「はい...稀に同じ様な方は居る見たいなのですが
ヴァレラさんの時代にはそういう人は居なかったのですか?」
「うぅん...居たのかもしれないけど、私は知らないわ
この世界には魔力を溜めておく魔力バッテリー見たいな物は無いの?」
「少しの間、魔力を留めておく鉱石とかはありますけど
それでも15分とか30分で徐々に放出されてしまうので
そういう技術はまだ確立されてないんです...」
「ふーん、なら一緒に入る?
ここのシャワー室結構広いし
二人でも余裕あるでしょ、私がボイラー動かすから」
「え?で、でもっ」
「あら?女同士でも恥ずかしいって奴?
あたしが軍隊での集団生活に慣れ過ぎちゃってたかな
嫌なら無理にとは言わないけれど」
折角の好意を無下にするのも申し訳ないと共に
暖かいシャワーへの魅力も正直あったという事で
「...いえ、ご好意に甘えさせてもらいますっ!」
「オッケー、じゃあ着替え持ってまたここでね」
一旦お互い自室へと戻り、替えの衣類を持ち
共にシャワールームへ
ヴァレラがシャワーのハンドル横にある
ドアノブ状の魔力供給弁へと手を添えると
淡く赤い色を放ち、魔具の起動・動作中を示す
1度触れれば5分程度は暖められたお湯が出続ける事を
既に先日入った際に確認している
そして横のハンドルを軽く捻ると
頭上のタライ状の大きなノズルから温められた湯が
勢い良く注がれ、室内に一気に湯気が立ち込める
「あっつ!」
片手ほど距離を空けていたが、跳ねた湯が足元にかかり
1歩後ずさるヴァレラ
「流し込む魔力が多すぎたみたいですね、
すぐに制御系が適切温度に変換してくれるはずです」
「もう、この時代の魔導機械は容量が小さ過ぎんのよね
力加減が難しいわ」
「やっぱりヴァレラさんの持ってる魔力量って
この時代の人達の平均より大分大きいみたいですね
ヴァレラさんの時代って皆それ位が普通だったのですか?
冷凍睡眠装置とか、遺跡に有った装置の魔力回路を見ると
凄い大容量な魔力を流す事が前提に作られてたみたいなので」
「一応魔導適性、多分この時代で言ってる
魔力、と同じ概念だと思うけど
それが高かったから、あたしはアカデミーに入れた訳で
平均よりは高いと思う、けれど
そこまで特別って訳でもないと思うわよ」
「うーん、千年近くの間に人々の魔力は
弱くなってしまったのでしょうか?」
「さぁ?魔導技師でも無いから私には分からないわねぇ
それより温度も丁度良くなったみたいよ
さっさと浴びちゃいましょう」
ヴァレラは1度手だけシャワーに潜らせ温度を確認すると
胴に巻いていたタオルを外し、湯の降り注ぐエリアに
1歩足を踏み入れる
ノズルの放水幅は非常に広く、一人で入れば
大柄な体格の男性でも体全体を優に包む程であり
女性二人なら、肩を並べて入れな十分双方に届く範囲であった
セルヴィも続き、肩を並べる様にお互い頭から湯を浴びる
「あー、汗かいた後のシャワーは良いわねー」
「はいー、久しぶり暖かいシャワー
気持ちいいのです、
しかし...」
(お、思ったより大きいのですっ
服の上からだと同じくらいかと思っていましたが...
腰回りなんかもしっかり大人の...)
「ん?どしたの?」
「な、何でもないのですっ!
凄い鍛えてて私とは全然違うなってっ」
セルヴィは慌てて目を反らす
咄嗟に付いた言い訳も間違いではなかった
先の傭兵3人組のリーダーの様に女性離れする程ではないが
腹筋は薄っすらと割れ目が付き、腿や腕等も細さを残しつつ
しっかりと鍛えられた筋肉が綺麗に腕の表面を覆っている
傭兵の女性リーダーが剛であるならヴァレラは柔という印象である
「そうねー、一応15歳からずっと体は鍛えてるからね
でもあんたも結構体力はあるじゃない
なのに全然ゴリゴリになってなくて羨ましいわ」
ぷに
「はぅ!」
ヴァレラがおもむろにセルヴィの脇腹に手を伸ばす
「き、気持ちいい」
「や、やめてくださいっ」
「良いじゃないの減るもんじゃないんだしー」
「減りますっ!」
「それに揉んだ方が大きくなるって言うし、ね?」
「な、何がですかっ!?そして何で両手を
わきわきさせてるんですかっ」
「分からないなら実践してあげるわ!」
アッー!
宿1階奥で黄色い悲鳴にも似た少女たちの騒がしい声が木霊する
程なくして、タオルを首に掛けながら
薄っすらの湯気を発する少女が二人食堂に入ると
既にそこには朝食が容易され
ゼロスとプロメが席に着いていた
「ふぅー気持ちよかったー」
「はぅ、気持ちよかったですが、疲れました...」
ヴァレラと共に涙目のセルヴィも席に着く
「お疲れ様、朝のトレーニングは良い調子だった様ね」
「まぁね、道もしっかり整備されてて走り易かったし
空気も綺麗で風も気持ちよかったわ
頂きます」
ヴァレラがプロメに返事をしながら、朝食を手を付ける
「じゃあ私も早速、頂きます!」
「...頂きます」
セルヴィもそれに続き、ゼロスも二人を待ってくれていたのだろう
同じ様に短く真似して言うと食事を開始する
皆が食事を始め、数分した頃だった
宿の受付方向から扉の開閉音と共に一人の女性の声が届く
「すみません、どなたかいらっしゃいますか、」
「はい~只今」
厨房から女将がエプロン姿のまま
食堂を抜け受付へと小走りで向かう
すると程なくして女将が食堂に戻って来ると
食事中の皆のテーブルの前に立ち静かに話す
「あのぅ...ギルドの方がお見えになって
あなた方にお会いしたいそうなのですが
如何されますか?」
皆が女将の背後、食堂入り口から受付の方に視線を向けると
そこにはギルドの事務服を着た
セルヴィの試験官を担当した女性職員が控えていた
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
まだ朝日が昇り切らぬ早朝
薄っすらと朝もやが掛かる街道を
二人の少女が呼吸を荒くしながら走る
前を走るヴァレラに対し
後ろを追うセルヴィが少し遅れ始める
「はぁ、はぁ、ヴァレラ、さん、少し、待って、くださいっ」
「その限界のキツさが一番大事なのよ
一緒に朝トレしたいって言ったのはあんたでしょ
頑張りなさい!ほら、あと少し!
この先の公園まで着いたら一旦休憩よ」
「は、はいぃ!」
早くに目が覚めてしまった為
何か飲み物を食堂に取りに行こうとした際
偶然宿の廊下で出かけようとするヴァレラと出くわし
事情を聴いた所、本来の日課である
早朝のトレーニングをしに行くのだと聞き
セルヴィが同行を申し出たのだった
そして何とかヴァレラの後を追いすがり
公園に到着すると、まだ日の出前という事もあり
他に人の姿は無かった
二人は噴水の前に腰掛けると
ヴァレラが腰に付けた装具から水筒を取り出す
「はい、水分補給はしっかりね
ただし飲むときは小さく1口1口小分けに
してゆっくりとね、飲み過ぎは駄目よ」
「わかりましたっ、頂きます!
ふぅ...んむ」
受け取ると1度呼吸を整えてから口に含む
乾いた喉に流れる水はどうしてこれほど美味しいのだろう
ついつい一気に飲み干したく衝動を抑えつつ
言われた通り小さくゆっくりと数度のみ込む
「ぷふぅ、ありがとうございます!」
受け取った水筒を両手で返すと
ヴァレラも口に運び、喉を小さく数回動かした
「ぷはぁ!ランニングの後の水は最高ね
しかしこんなに水が美味しいなんて
料理も美味しいしこの時代も悪くないわね」
その水筒の中身は早朝、朝食の料理を作っていた女将に頼んで
宿の炊事場の井戸から分けて貰った物だった
「昔の水はおいしくなかったのですか?
おいしくない水って言うのも不思議ですが、」
「そうねー、手軽に何時でも何処でも
蛇口一つ捻れば手に入る様になった
代償とでもいうのかしらね」
「むむむ、都合の良い話は中々無いという事ですかね...」
「そゆこと、しかしあんた、意外と体力あるのね
正直驚いたわ」
「そんな事は、実際ついていくのがやっとで...
ヴァレラさんの方は全然余裕見たいですし、」
「んーでも8割くらいは出してたから
アカデミーに入ったばかりの頃の私なら
ついていけなかったペースね
あんたは十分普通より体力はある方だと思うわよ」
「そうなんでしょうか?
ずっと工房で色々お使いや
力仕事をさせて頂いたからかもしれませんっ!
兄さん方には感謝ですねっ」
(もう振り返って泣くだけの自分じゃないのです
沢山の事を教えてくれた、生かしてくれた
彼らの意思為にも、私は強くなります!)
「うん、良い顔してるね、昨日とは見違えた様ね
やっぱり昨日、あいつと何かあったんじゃないの?」
ニヤニヤ
「だ、だからそういう事は何も無いって
言ったじゃないですかっ!」
「そういう事ってなぁに?」
「はぅっ...」
再び昨夜廊下で見かけた時と同様
茹でだこの様に顔を真っ赤に染めるセルヴィ
「ごめんごめん、冗談よ、
さて、休憩もこの辺にして体が冷めない内に
次は筋力トレーニングねっ
まずは腕立て・腹筋・背筋×50を3セットよ!
ゆっくりでもいいからまずは
やり切る事を目標にね」
「は、はいっ!」
—————————
「大丈夫なのか
彼女らだけで行かせて」
宿自室の窓から外を見ながら、ゼロスが
背後のテーブルに腰掛けるプロメに問う
「西地区以外の地域であれば
そこまで治安が悪い訳でもないし
ヴァレラちゃんが一緒だから大丈夫よ
最初は冷凍睡眠から不完全覚醒した状態に
不意打ちを受けて囚われてしまった様だけど
今の万全の状態の彼女であれば
あなた以外にこの都市に
彼女をどうこう出来る人間は早々居ないでしょ」
「しかし...」
「過保護過ぎよ、仲間ならあなたも少しは信用してあげなさい
それとも、ここに来た初日の失敗をまだ引きずってるの?」
「...分からない」
「もう、あなたがそんなのでどうするのよ
まぁそういう事を素直に出せる様になった事は良い事だけどね
それに昨夜は随分と気を緩め居た様じゃない?」
常にゼロスとのデータリンクを共有しているプロメには当然
彼のバイタルや脳波など、昨夜の情報も筒抜けである
「すまない、50秒程完全に無防備になって居た」
「責めてるんじゃないわ、寧ろ良い事よ
感情抑制が施されてると言っても
心が消えてしまった訳じゃないもの、安息も必要よ
私には出来ない事だから、彼女にはとても感謝ね」
「そうか」
「それに圧縮された記憶領域の
シナプス活動が活発になっているわ
何か自分でも自覚出来てる事があるんじゃないかしら?」
「ああ、昔の事を思い出した
思い出した、と言うよりも元々記憶していた事を
夢に見た、とでも言う表現が適切だろうか...
不思議な感覚だ
昨夜程では無いが、時折同じ様に過去が頭を過る事がある」
「それは良い事ね、圧縮された記憶に対して
外部刺激により脳が適応を始めている証拠よ」
「ふむ、」
「噂をすれば帰ってきた見たいよ」
窓から正面通りを見下ろすと、
額に汗を浮かべた肌着姿の二人が談笑しながら
こちらへと戻ってきていた
———————
「ただいまー!」
ヴァレラ達が宿正面の扉を開けると、
正面の受付は無人となっており
代わりに横の食堂奥、厨房の方から
「お帰りなさい、後少しで朝食の用意が整いますので
もう少しだけお待ちくださいー」
と女将の声が響く
「私達はシャワー浴びて来るから
ゆっくりでいいよ」
ヴァレラがその場で声を少し大きくして答える
そのまま食堂とは反対方向のシャワー室へ目を向ける
「うぅ、朝の水は冷たそうなのです...」
都市の水道設備の類が配備されていない
この宿では二階の水タンクに水を貯え
一階のシャワールームにて栓をひねると
重力の力でシャワーとして水が出る仕組みだったが
備えつけられたボイラーの魔具を動かすには当然
魔力が必要であり、それを行使できないセルヴィは
水を温める事が出来ず、そのままで使わねばならなかった
「あー、そういえばあんたは魔法が使えないんだっけ?
不便な物ね」
「はい...稀に同じ様な方は居る見たいなのですが
ヴァレラさんの時代にはそういう人は居なかったのですか?」
「うぅん...居たのかもしれないけど、私は知らないわ
この世界には魔力を溜めておく魔力バッテリー見たいな物は無いの?」
「少しの間、魔力を留めておく鉱石とかはありますけど
それでも15分とか30分で徐々に放出されてしまうので
そういう技術はまだ確立されてないんです...」
「ふーん、なら一緒に入る?
ここのシャワー室結構広いし
二人でも余裕あるでしょ、私がボイラー動かすから」
「え?で、でもっ」
「あら?女同士でも恥ずかしいって奴?
あたしが軍隊での集団生活に慣れ過ぎちゃってたかな
嫌なら無理にとは言わないけれど」
折角の好意を無下にするのも申し訳ないと共に
暖かいシャワーへの魅力も正直あったという事で
「...いえ、ご好意に甘えさせてもらいますっ!」
「オッケー、じゃあ着替え持ってまたここでね」
一旦お互い自室へと戻り、替えの衣類を持ち
共にシャワールームへ
ヴァレラがシャワーのハンドル横にある
ドアノブ状の魔力供給弁へと手を添えると
淡く赤い色を放ち、魔具の起動・動作中を示す
1度触れれば5分程度は暖められたお湯が出続ける事を
既に先日入った際に確認している
そして横のハンドルを軽く捻ると
頭上のタライ状の大きなノズルから温められた湯が
勢い良く注がれ、室内に一気に湯気が立ち込める
「あっつ!」
片手ほど距離を空けていたが、跳ねた湯が足元にかかり
1歩後ずさるヴァレラ
「流し込む魔力が多すぎたみたいですね、
すぐに制御系が適切温度に変換してくれるはずです」
「もう、この時代の魔導機械は容量が小さ過ぎんのよね
力加減が難しいわ」
「やっぱりヴァレラさんの持ってる魔力量って
この時代の人達の平均より大分大きいみたいですね
ヴァレラさんの時代って皆それ位が普通だったのですか?
冷凍睡眠装置とか、遺跡に有った装置の魔力回路を見ると
凄い大容量な魔力を流す事が前提に作られてたみたいなので」
「一応魔導適性、多分この時代で言ってる
魔力、と同じ概念だと思うけど
それが高かったから、あたしはアカデミーに入れた訳で
平均よりは高いと思う、けれど
そこまで特別って訳でもないと思うわよ」
「うーん、千年近くの間に人々の魔力は
弱くなってしまったのでしょうか?」
「さぁ?魔導技師でも無いから私には分からないわねぇ
それより温度も丁度良くなったみたいよ
さっさと浴びちゃいましょう」
ヴァレラは1度手だけシャワーに潜らせ温度を確認すると
胴に巻いていたタオルを外し、湯の降り注ぐエリアに
1歩足を踏み入れる
ノズルの放水幅は非常に広く、一人で入れば
大柄な体格の男性でも体全体を優に包む程であり
女性二人なら、肩を並べて入れな十分双方に届く範囲であった
セルヴィも続き、肩を並べる様にお互い頭から湯を浴びる
「あー、汗かいた後のシャワーは良いわねー」
「はいー、久しぶり暖かいシャワー
気持ちいいのです、
しかし...」
(お、思ったより大きいのですっ
服の上からだと同じくらいかと思っていましたが...
腰回りなんかもしっかり大人の...)
「ん?どしたの?」
「な、何でもないのですっ!
凄い鍛えてて私とは全然違うなってっ」
セルヴィは慌てて目を反らす
咄嗟に付いた言い訳も間違いではなかった
先の傭兵3人組のリーダーの様に女性離れする程ではないが
腹筋は薄っすらと割れ目が付き、腿や腕等も細さを残しつつ
しっかりと鍛えられた筋肉が綺麗に腕の表面を覆っている
傭兵の女性リーダーが剛であるならヴァレラは柔という印象である
「そうねー、一応15歳からずっと体は鍛えてるからね
でもあんたも結構体力はあるじゃない
なのに全然ゴリゴリになってなくて羨ましいわ」
ぷに
「はぅ!」
ヴァレラがおもむろにセルヴィの脇腹に手を伸ばす
「き、気持ちいい」
「や、やめてくださいっ」
「良いじゃないの減るもんじゃないんだしー」
「減りますっ!」
「それに揉んだ方が大きくなるって言うし、ね?」
「な、何がですかっ!?そして何で両手を
わきわきさせてるんですかっ」
「分からないなら実践してあげるわ!」
アッー!
宿1階奥で黄色い悲鳴にも似た少女たちの騒がしい声が木霊する
程なくして、タオルを首に掛けながら
薄っすらの湯気を発する少女が二人食堂に入ると
既にそこには朝食が容易され
ゼロスとプロメが席に着いていた
「ふぅー気持ちよかったー」
「はぅ、気持ちよかったですが、疲れました...」
ヴァレラと共に涙目のセルヴィも席に着く
「お疲れ様、朝のトレーニングは良い調子だった様ね」
「まぁね、道もしっかり整備されてて走り易かったし
空気も綺麗で風も気持ちよかったわ
頂きます」
ヴァレラがプロメに返事をしながら、朝食を手を付ける
「じゃあ私も早速、頂きます!」
「...頂きます」
セルヴィもそれに続き、ゼロスも二人を待ってくれていたのだろう
同じ様に短く真似して言うと食事を開始する
皆が食事を始め、数分した頃だった
宿の受付方向から扉の開閉音と共に一人の女性の声が届く
「すみません、どなたかいらっしゃいますか、」
「はい~只今」
厨房から女将がエプロン姿のまま
食堂を抜け受付へと小走りで向かう
すると程なくして女将が食堂に戻って来ると
食事中の皆のテーブルの前に立ち静かに話す
「あのぅ...ギルドの方がお見えになって
あなた方にお会いしたいそうなのですが
如何されますか?」
皆が女将の背後、食堂入り口から受付の方に視線を向けると
そこにはギルドの事務服を着た
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機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
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