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59 特殊型アデス
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鉱山内から低い呻き声が轟く、そして
ザッ...ズズズズ...ザッ...
おぼつかない足取りで奥の暗闇から
一人の男らしき人影が姿を現す
「ドカっ!!」
それは先程村の入り口で農作業をしていた小太りの男だった
鉱山まで案内して来た宿の老亭主が叫び、駆け寄ろうとすると
「近付くな‼」
先頭に立ったゼロスが左手を真横に上げ、静止を掛ける
突如止められた老亭主は一体何事かと狼狽える
う゛あ゛...があ゛...う゛
徐々に声の主が外の光の届く範囲まで
1歩1歩ゆっくりと片足を引きずりながら近付いて来た
「ドカ、お前怪我をしとるのか...?」
老亭主がゼロスの背後から声をかけるが
反応は無い
徐々に日の光が足元からどう、肩程まで照らすと
所々衣服には自分の物か、それとも他の者の物か
血痕が至る所に付着し、袖などから露出した皮膚は
青紫色に変色し、血管が腕中に浮かび上がっている
そしていよいよ暗がりからその顔が照らされると
「ひっ...」
思わずセルヴィが怯む
何故ならその顔はもはや別人
人間の形相では無かったのだ
「ドカ、いったいどうしたんじゃ!!」
変わらず答えは無い
顎は外れたかのように大きく開き
中からは舌と涎が垂れ下がっている
見開かれている目は白い部分を無くしまるで
魔物の様に充血し真っ赤に染まっている
ギリッ...
無表情のままゼロスが僅かに奥歯に力を籠める
その場でそれに気付いたのはプロメとヴァレラだけであった
そして男との距離が10mに迫ろうとした時
おもむろにゼロスが右腕を男に翳す
「い、いったい何をっ...」
老亭主が何か言いかけた直後
バゥッ!!
ゼロスの右手が光ったかと思うと
その先の男の頭部は顎から下だけを無くし消滅した
消失面から血ではなく煙を上げている
ドサッ...
男は糸の切れた人形の様にその場に倒れ込む
「ド、ドカァ!! 一体何をっどうしてですじゃ!?」
ゼロスは背を向けたまま、何も答えず
ゆっくりとその手を降ろす
「ゼ、ゼロスさん一体何を?!」
駆け出そうとする老人を抑えつつ
同じく混乱しているセルヴィが続けて問う
その眉は八の字に下がり
突然の行動に理解を示せずに居る事が分かる
「もう手遅れだった」
ゼロスが短く答える
「手遅れって何がでsっ」
聞き返そうとしたその時だった
う゛お゛お゛あ゛ぁえ゛う゛!!
再び鉱山内から呻き声が轟く
それも今度は明らかに複数の物だった
「セルヴィ、亭主を連れて村まで避難してくれ
そして屋内に退避しているんだ、村の者にもそう伝えてほしい
もし行方不明になった者を見ても絶対に奴等に触れるな」
「えっ、えとっ」
突然の指示に困惑する
「行くんだっ!!」
「は、はいっ!」
普段決して声を荒げたりする事の無い彼の怒声に
一瞬体をビクリと震わせ竦むが
状況は理解出来ないが、彼への信頼から
先ずはその通り行動を開始する
「おじいさん、今は言う通りに一旦避難しましょう!」
「ドカぁ...何故じゃ...どうしてなんじゃ...」
老亭主は訳も分からぬまま突然身内を失った事に
茫然自失となっている為
セルヴィはその腕を掴み無理やり
半ば引きずる様に後方へと連れて行く
そしてゼロス・プロメ・ヴァレラの三人がその場に残される
「まさか本当にアデスだったとはね
それも最悪な事に特殊型のブレイン級ね」
「ブレイン級?」
ヴァレラがプロメに問う
「珍しい固体で、本体自体の戦闘力は殆ど無い種類のアデスよ
ただその特性が厄介で、地中から都市等人間の集まる地点へ侵入し
地表一体にアデス粒子を放出する、これは人間の五感では感じとる事が出来ないの
そしてその粒子の中に居続けた人間は脳髄を犯され、数日で発症する
発症した人間は正常な判断力を失い他者を襲い始める
そしてその身体は異常な変異を遂げ、心臓が止まろうとも人を遅い続ける」
「うげ...何それ、まるでゾンビ映画じゃない、悪夢だわ...」
ヴァレラが苦い顔をしながら軽く舌を出して言う
「そうね、同じような物ね
既に発症した者に襲われた者は、外傷等により瞬時に発症するわ
更に性質が悪いのは、粒子感染した感染者はある一定数まで
感染者を増やすまで潜伏しながら行動する習性があるのよ
だから事が明るみに成った時点では
もう止められない程のパンデミックに達している事が多く
私達の時代でもいくつもの都市が、何十億という人がこいつにやられたわ
最悪だけど、この規模ならまだ十分対処出来る事は不幸中の幸いね」
「何なのよそれ...まるで何か意思の元作られた生物兵器じゃない...
アデスって一体何なのよ、本当に魔物なの?」
「アデスに関しては長年、様々な調査や研究がされてきたのだけど
それが他次元から来た自然発生した生命体なのか
又は他次元文明による生体兵器なのか、様々な説が提唱されたわ
しかしそのどれも具体的な証拠は無く憶測の域を出なかった
結局私達もアデスが何なのか良くわかってないと言うのが正直な所よ」
「ふーん...それだけあんたらでも余裕が無かった程の相手って事ね
んで、感染した人間はもうどうにもならないの?」
「無理ね、少なくともブレイン級に感染させられた者を
元に戻せた事例は1件も存在しない
そもそもが一体何を媒介にどの様なメカニズムで
人体を変異させているのかすら掴めていないのよ...
それにこれは被害を拡大させてしまう最大の要因でもあったのだけど
感染した人間はその後も...」
「そこまでだ」
プロメが最後まで言い終える前にゼロスが会話を遮ると
鉱山内から先程の男と同様の状態の数十人の者達が這い出てくる
それも何日も前からずっと擦っていた為か
足の靴は無くなり、肉が削げ、骨まで露出している者も居る
「プロメ、リアクターエネルギー供給開始
撃ち漏らしを頼む、一体でも漏らせば村は終わりだ」
「了解」
ゼロスは背のクサナギに手を伸ばし
プロメは手を正面に掲げ荷電粒子砲発射の用意にかかる
そんな二人を前に、ヴァレラが自分も加勢するかどうするか
悩んでいると、ふと一つの疑問が脳裏を過ぎる
「ん...?最初の粒子感染した固体って
潜伏して行動するって言ってなかった?
既に村に潜伏している可能性は…」
「可能性はある、だが現状この群れが優先だ」
「何でそんな大事な事を今言うのよっ!!
私に言えば、任せればいいじゃない!」
「だが君を巻き込むわけには行かない
戦闘の心得のある君であれば
俺達の背後に居る方が安全だろう」
「はぁ!?ふざけないで!今更何言ってんのよ!」
ヴァレラはゼロスが自分をこの場に残したのが
戦力として期待されたからではなく
戦闘の余波を最低限回避出来る事でここに居る事が
自分を守る上で最も安全性が高いとの判断による物だった事に
無性に腹が立った
それと同時に自分を使えばより安全性を高める事が出来たにも関わらず
多少とは言え自分などより長く連れ添ったであろう彼女《セルヴィ》を
危険性を承知の上で尚、自分を使わない上での選択肢から決断した事に
非常にやきもきする
「だが...」
背の剣の柄を握り締めたままゼロスが答える
「だがじゃないっ!
ああもうっ!私があっちの護衛に行くから
アンタ達はこっちは絶対なんとかしなさいよっ!
これで貸し一つ返すからね!」
「...すまない、助かる」
「ふん!」
ふて腐れた様に顔を背けその場から振り返ると
外套をなびかせながら高台の岩場まで一気に翔け
何を思ったかそのまま飛び出したかと思うと
腰につけた重火器の両脇から補助バーニアらしき噴進の炎が上がり
一気に村の方へと滑空する様に降下していく
どうやらあの重火器は空中機動用のスラスターを兼ねている様だった
そしてクサナギを引き抜いたゼロスが一気に感染者群へと突貫する
ザッ...ズズズズ...ザッ...
おぼつかない足取りで奥の暗闇から
一人の男らしき人影が姿を現す
「ドカっ!!」
それは先程村の入り口で農作業をしていた小太りの男だった
鉱山まで案内して来た宿の老亭主が叫び、駆け寄ろうとすると
「近付くな‼」
先頭に立ったゼロスが左手を真横に上げ、静止を掛ける
突如止められた老亭主は一体何事かと狼狽える
う゛あ゛...があ゛...う゛
徐々に声の主が外の光の届く範囲まで
1歩1歩ゆっくりと片足を引きずりながら近付いて来た
「ドカ、お前怪我をしとるのか...?」
老亭主がゼロスの背後から声をかけるが
反応は無い
徐々に日の光が足元からどう、肩程まで照らすと
所々衣服には自分の物か、それとも他の者の物か
血痕が至る所に付着し、袖などから露出した皮膚は
青紫色に変色し、血管が腕中に浮かび上がっている
そしていよいよ暗がりからその顔が照らされると
「ひっ...」
思わずセルヴィが怯む
何故ならその顔はもはや別人
人間の形相では無かったのだ
「ドカ、いったいどうしたんじゃ!!」
変わらず答えは無い
顎は外れたかのように大きく開き
中からは舌と涎が垂れ下がっている
見開かれている目は白い部分を無くしまるで
魔物の様に充血し真っ赤に染まっている
ギリッ...
無表情のままゼロスが僅かに奥歯に力を籠める
その場でそれに気付いたのはプロメとヴァレラだけであった
そして男との距離が10mに迫ろうとした時
おもむろにゼロスが右腕を男に翳す
「い、いったい何をっ...」
老亭主が何か言いかけた直後
バゥッ!!
ゼロスの右手が光ったかと思うと
その先の男の頭部は顎から下だけを無くし消滅した
消失面から血ではなく煙を上げている
ドサッ...
男は糸の切れた人形の様にその場に倒れ込む
「ド、ドカァ!! 一体何をっどうしてですじゃ!?」
ゼロスは背を向けたまま、何も答えず
ゆっくりとその手を降ろす
「ゼ、ゼロスさん一体何を?!」
駆け出そうとする老人を抑えつつ
同じく混乱しているセルヴィが続けて問う
その眉は八の字に下がり
突然の行動に理解を示せずに居る事が分かる
「もう手遅れだった」
ゼロスが短く答える
「手遅れって何がでsっ」
聞き返そうとしたその時だった
う゛お゛お゛あ゛ぁえ゛う゛!!
再び鉱山内から呻き声が轟く
それも今度は明らかに複数の物だった
「セルヴィ、亭主を連れて村まで避難してくれ
そして屋内に退避しているんだ、村の者にもそう伝えてほしい
もし行方不明になった者を見ても絶対に奴等に触れるな」
「えっ、えとっ」
突然の指示に困惑する
「行くんだっ!!」
「は、はいっ!」
普段決して声を荒げたりする事の無い彼の怒声に
一瞬体をビクリと震わせ竦むが
状況は理解出来ないが、彼への信頼から
先ずはその通り行動を開始する
「おじいさん、今は言う通りに一旦避難しましょう!」
「ドカぁ...何故じゃ...どうしてなんじゃ...」
老亭主は訳も分からぬまま突然身内を失った事に
茫然自失となっている為
セルヴィはその腕を掴み無理やり
半ば引きずる様に後方へと連れて行く
そしてゼロス・プロメ・ヴァレラの三人がその場に残される
「まさか本当にアデスだったとはね
それも最悪な事に特殊型のブレイン級ね」
「ブレイン級?」
ヴァレラがプロメに問う
「珍しい固体で、本体自体の戦闘力は殆ど無い種類のアデスよ
ただその特性が厄介で、地中から都市等人間の集まる地点へ侵入し
地表一体にアデス粒子を放出する、これは人間の五感では感じとる事が出来ないの
そしてその粒子の中に居続けた人間は脳髄を犯され、数日で発症する
発症した人間は正常な判断力を失い他者を襲い始める
そしてその身体は異常な変異を遂げ、心臓が止まろうとも人を遅い続ける」
「うげ...何それ、まるでゾンビ映画じゃない、悪夢だわ...」
ヴァレラが苦い顔をしながら軽く舌を出して言う
「そうね、同じような物ね
既に発症した者に襲われた者は、外傷等により瞬時に発症するわ
更に性質が悪いのは、粒子感染した感染者はある一定数まで
感染者を増やすまで潜伏しながら行動する習性があるのよ
だから事が明るみに成った時点では
もう止められない程のパンデミックに達している事が多く
私達の時代でもいくつもの都市が、何十億という人がこいつにやられたわ
最悪だけど、この規模ならまだ十分対処出来る事は不幸中の幸いね」
「何なのよそれ...まるで何か意思の元作られた生物兵器じゃない...
アデスって一体何なのよ、本当に魔物なの?」
「アデスに関しては長年、様々な調査や研究がされてきたのだけど
それが他次元から来た自然発生した生命体なのか
又は他次元文明による生体兵器なのか、様々な説が提唱されたわ
しかしそのどれも具体的な証拠は無く憶測の域を出なかった
結局私達もアデスが何なのか良くわかってないと言うのが正直な所よ」
「ふーん...それだけあんたらでも余裕が無かった程の相手って事ね
んで、感染した人間はもうどうにもならないの?」
「無理ね、少なくともブレイン級に感染させられた者を
元に戻せた事例は1件も存在しない
そもそもが一体何を媒介にどの様なメカニズムで
人体を変異させているのかすら掴めていないのよ...
それにこれは被害を拡大させてしまう最大の要因でもあったのだけど
感染した人間はその後も...」
「そこまでだ」
プロメが最後まで言い終える前にゼロスが会話を遮ると
鉱山内から先程の男と同様の状態の数十人の者達が這い出てくる
それも何日も前からずっと擦っていた為か
足の靴は無くなり、肉が削げ、骨まで露出している者も居る
「プロメ、リアクターエネルギー供給開始
撃ち漏らしを頼む、一体でも漏らせば村は終わりだ」
「了解」
ゼロスは背のクサナギに手を伸ばし
プロメは手を正面に掲げ荷電粒子砲発射の用意にかかる
そんな二人を前に、ヴァレラが自分も加勢するかどうするか
悩んでいると、ふと一つの疑問が脳裏を過ぎる
「ん...?最初の粒子感染した固体って
潜伏して行動するって言ってなかった?
既に村に潜伏している可能性は…」
「可能性はある、だが現状この群れが優先だ」
「何でそんな大事な事を今言うのよっ!!
私に言えば、任せればいいじゃない!」
「だが君を巻き込むわけには行かない
戦闘の心得のある君であれば
俺達の背後に居る方が安全だろう」
「はぁ!?ふざけないで!今更何言ってんのよ!」
ヴァレラはゼロスが自分をこの場に残したのが
戦力として期待されたからではなく
戦闘の余波を最低限回避出来る事でここに居る事が
自分を守る上で最も安全性が高いとの判断による物だった事に
無性に腹が立った
それと同時に自分を使えばより安全性を高める事が出来たにも関わらず
多少とは言え自分などより長く連れ添ったであろう彼女《セルヴィ》を
危険性を承知の上で尚、自分を使わない上での選択肢から決断した事に
非常にやきもきする
「だが...」
背の剣の柄を握り締めたままゼロスが答える
「だがじゃないっ!
ああもうっ!私があっちの護衛に行くから
アンタ達はこっちは絶対なんとかしなさいよっ!
これで貸し一つ返すからね!」
「...すまない、助かる」
「ふん!」
ふて腐れた様に顔を背けその場から振り返ると
外套をなびかせながら高台の岩場まで一気に翔け
何を思ったかそのまま飛び出したかと思うと
腰につけた重火器の両脇から補助バーニアらしき噴進の炎が上がり
一気に村の方へと滑空する様に降下していく
どうやらあの重火器は空中機動用のスラスターを兼ねている様だった
そしてクサナギを引き抜いたゼロスが一気に感染者群へと突貫する
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