初恋の人

凛子

文字の大きさ
上 下
5 / 8

五話

しおりを挟む
それから一年半の月日が流れ、クリスマスが近付く十二月。
結愛に康史からメールが届いた。

『今年は大晦日にそっちに帰るよ』

結愛はそのメールをぼんやり眺めていた。

――今年はいないんだ。パパも康ちゃんも。

毎年クリスマスは康史と一緒に過ごしていた。
恒例の、高岡家と伊藤家合同のクリスマスパーティーに、今年は康史は参加できないということだろう。
昨年は、ちょうど今頃に春樹が亡くなった為、さすがにクリスマスどころではなかったが、今年は集まりたいね、と美智子と話していたところだった。

今まで考えないようにしてきたことが、結愛の脳裏を過った。

康史が結愛に話さないだけであって、勿論今までにも康史にそういう相手がいたであろうことはわかっていた。わかってはいたけれど、結愛から直接康史に聞くことはなかった。
聞くのが怖かった――。

康史は、結愛が幼い頃から抱いていた恋心に気付いているだろうか。もしそれを打ち明けたとしたら、一体どうなってしまうのだろうか。

案の定、その年の暮れに帰ってきた康史が、彼女らしき人を連れているのを見かけた。
いつかこんな日が訪れることはわかっていた。何も不思議なことではなく、当然のことだろう。実家に連れてきたということは、恐らくそういうことなのだろう、と結愛は理解した。

康史からは定期的にメールが届いたが、今まで頻繁に送っていた結愛からのメールは控えるようにした。結愛なりの配慮のつもりだった。
しばらくすると、康史からのメールはぱったり途絶えた。
これが答えなのだろう、と結愛は感じ取った。
結愛が高校二年の冬のことだった。

三年に進級すると、結愛は受験勉強に明け暮れた。
康史からは時々様子窺いの連絡があり、実家に戻った時は必ず顔を見せてくれていたが、康史の顔を見る度に彼女のことが頭を掠め、複雑な気持ちになった。

そうこうしているうちに、結愛は大学生になった。
そして結愛が二回生になるこの春に、康史はやっと東京へ戻ってくることになった。
しかし、実家には戻らず近くで独り暮らしをするという話だった。
あの人と暮らすのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。 彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──…… 公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。 しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、 国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。 バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。 だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。 こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。 自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、 バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは? そんな心揺れる日々の中、 二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。 実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている…… なんて噂もあって────

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

処理中です...