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「それにしても、君の希望リストには驚いたよ」
思い出した萌々香は、羞恥心で体が火照った。
「他のモニター参加者の中でも、君が断トツだったよ。事細かに、百以上の希望が書かれていたからね」
「え……瑛大君、見たの?」
「まあ、僕が担当だからね」
瑛大に見られるとわかっていたら、書かなかったであろうことが多々ある。
「君のことがよくわかったよ」
俯く萌々香の顔を覗き込みながら瑛大が言った。
萌々香は丸裸にされた気分だった。
「萌々香? 君は、すごく気が変わりやすい性格だってこと、自分でわかってる?」
何のことを言われているのかは、心当たりがあり過ぎて、萌々香は気まずさで黙り込んだ。
「僕がデートの行き先を決めたって、途中で『やっぱり何処其処に行こうよ』なんてこと、よくあっただろ?」
ああ、そのことか。
「だから僕は、萌々香が行きたいところでいいよって言うんだ。それなのに僕がそう言うと、何故か君の機嫌が悪くなる」
瑛大は困ったような表情で額を掻いている。
「だって、何かそれだと丸投げされたみたいで嫌な気分になるんだもん」
「じゃあもし、萌々香があれこれ必死に考えて決めたデートの行き先を、僕が毎回気分で変更したとしたら、萌々香はどう思う?」
「それは、まあ……嫌、だよね」
「そうだろ?」
「だってさぁ……」
「ああ言えば、こう言う」
瑛大が呆れ顔を向けている。
「何なの? 喧嘩しにきたんだったら帰ってよ」
「帰らないよ!」
「――ッ!」
いつになく強気な瑛大に、萌々香は気圧された。
「それに、君はすごくお喋りだ」
「え?」
「話しだすと止まらない。そんな君にずっと付き合うとなると、なかなか根気がいるんだよ。僕だっていつでも心に余裕があるわけじゃないから、つい片手間になっちゃう時もあるんだ」
ああ、あの時だ。
「それから、萌々香、言ってたよね? 女だからって理由で、職場で舐められるのが悔しいって」
「言ったけど、それが何?」
その日は、夜中に瑛大を呼び出して、愚痴っているうちに大泣きしてしまった。男性の多い職場の営業職だった萌々香は、女という理由だけで自分をきちんと評価してもらえないことが悔しくて仕方なかったのだ。
「君はその後、僕に何て言ったか覚えてる?」
その後――
ああ、そうだ。
瑛大の腕に抱かれ、「辛かったんだね。何も無理にそんな男ばかりの職場で働かなくても」と言われたことに、萌々香は何故か無性に腹が立った。
「瑛大君まで、私のこと見下すの!? か弱い女扱いしないでよ!」
「だったら泣くな! そんなんだから『女は』って言われんだよ!」
売り言葉に買い言葉だったはずだ。
あの時瑛大は、語気を強めてそう言った。
萌々香は、はっとした。
きっとそれからだ。
女の子扱いしてくれなくなったのは……。
「萌々香? まずは僕が謝るよ、ごめん」
「何?」
「萌々香の誕生日を忘れて、釣りに行ったこと」
「ああ……」
「だけど、僕の言い分も聞いてほしい」
「うん、何?」
「僕は萌々香と付き合う前に、萌々香のことは大事にすると言った」
「うん、そうだね」
「なるべく会える時間を作るようにするとも言った。だけど、息抜きの時間が必要だから、趣味の時間は大事にしたいってことも言ったはずだ」
確認するように、瑛大が言う。
「……うん、そうだったね」
「だけど君は四六時中、僕と一緒にいたがるタイプで……まあそれはいいとしても、僕に趣味の時間を何ヵ月も与えてくれなかっただろ? 僕だってストレスが溜まるよ」
確かにその通りだった。
思い出した萌々香は、羞恥心で体が火照った。
「他のモニター参加者の中でも、君が断トツだったよ。事細かに、百以上の希望が書かれていたからね」
「え……瑛大君、見たの?」
「まあ、僕が担当だからね」
瑛大に見られるとわかっていたら、書かなかったであろうことが多々ある。
「君のことがよくわかったよ」
俯く萌々香の顔を覗き込みながら瑛大が言った。
萌々香は丸裸にされた気分だった。
「萌々香? 君は、すごく気が変わりやすい性格だってこと、自分でわかってる?」
何のことを言われているのかは、心当たりがあり過ぎて、萌々香は気まずさで黙り込んだ。
「僕がデートの行き先を決めたって、途中で『やっぱり何処其処に行こうよ』なんてこと、よくあっただろ?」
ああ、そのことか。
「だから僕は、萌々香が行きたいところでいいよって言うんだ。それなのに僕がそう言うと、何故か君の機嫌が悪くなる」
瑛大は困ったような表情で額を掻いている。
「だって、何かそれだと丸投げされたみたいで嫌な気分になるんだもん」
「じゃあもし、萌々香があれこれ必死に考えて決めたデートの行き先を、僕が毎回気分で変更したとしたら、萌々香はどう思う?」
「それは、まあ……嫌、だよね」
「そうだろ?」
「だってさぁ……」
「ああ言えば、こう言う」
瑛大が呆れ顔を向けている。
「何なの? 喧嘩しにきたんだったら帰ってよ」
「帰らないよ!」
「――ッ!」
いつになく強気な瑛大に、萌々香は気圧された。
「それに、君はすごくお喋りだ」
「え?」
「話しだすと止まらない。そんな君にずっと付き合うとなると、なかなか根気がいるんだよ。僕だっていつでも心に余裕があるわけじゃないから、つい片手間になっちゃう時もあるんだ」
ああ、あの時だ。
「それから、萌々香、言ってたよね? 女だからって理由で、職場で舐められるのが悔しいって」
「言ったけど、それが何?」
その日は、夜中に瑛大を呼び出して、愚痴っているうちに大泣きしてしまった。男性の多い職場の営業職だった萌々香は、女という理由だけで自分をきちんと評価してもらえないことが悔しくて仕方なかったのだ。
「君はその後、僕に何て言ったか覚えてる?」
その後――
ああ、そうだ。
瑛大の腕に抱かれ、「辛かったんだね。何も無理にそんな男ばかりの職場で働かなくても」と言われたことに、萌々香は何故か無性に腹が立った。
「瑛大君まで、私のこと見下すの!? か弱い女扱いしないでよ!」
「だったら泣くな! そんなんだから『女は』って言われんだよ!」
売り言葉に買い言葉だったはずだ。
あの時瑛大は、語気を強めてそう言った。
萌々香は、はっとした。
きっとそれからだ。
女の子扱いしてくれなくなったのは……。
「萌々香? まずは僕が謝るよ、ごめん」
「何?」
「萌々香の誕生日を忘れて、釣りに行ったこと」
「ああ……」
「だけど、僕の言い分も聞いてほしい」
「うん、何?」
「僕は萌々香と付き合う前に、萌々香のことは大事にすると言った」
「うん、そうだね」
「なるべく会える時間を作るようにするとも言った。だけど、息抜きの時間が必要だから、趣味の時間は大事にしたいってことも言ったはずだ」
確認するように、瑛大が言う。
「……うん、そうだったね」
「だけど君は四六時中、僕と一緒にいたがるタイプで……まあそれはいいとしても、僕に趣味の時間を何ヵ月も与えてくれなかっただろ? 僕だってストレスが溜まるよ」
確かにその通りだった。
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