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七話
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土曜日、遠藤を待ちたくて約束の時間より三十分以上も早くF駅着いた愛美だったが、既に遠藤の姿があった。
「ごめんなさい! 待たせてしまって」
小走りで遠藤に駆け寄る。
「約束の時間はまだまだ先だよ。俺が早く来すぎただけなんだ」
そう言う遠藤に、いつから待っていたのかと尋ねると、遠藤は少し気まずそうに「四時頃かな」と言った。
「えー! じゃあ待ち合わせ四時にしたら良かったですね」
「いや、そうしたら結局三時に着くだけだよ」
そう言われ、愛美はクスッと笑う。恐らく自分もまた三十分以上前に来ると思ったからだ。
今日の遠藤は昨日よりも少しフォーマル度高めの、やはりきれいめカジュアルな服装で、髪型もビシッと決まっていた。
そして、眼鏡は掛けていなかった。
「愛美ちゃん、今日のワンピース可愛いね。凄く似合ってるよ」
「遠藤さんも素敵ですよ。そのシャツ凄く似合ってます」
言ってから少しの間視線を合わせた後、堪えきれずに吹き出したのは、やはり愛美だ。
「何ですかこの会話ー。バカップルみたいじゃないですか」
「今日はちゃんと感想言ってくれたね。俺、すげえ頑張ったんだよ。覚えたての『きれいめカジュアル』で検索して、自分で上と下の服を何着か選んで買ったんだ。来週あたりまた届くから、感想聞かせてね」
嬉しそうに子供のようなキラキラした目で話す遠藤に母性本能をくすぐられる。年上男性にそんな気持ちが湧いた自分に驚いた。
「また貝になっちゃったら困るので……」と茶化してから「今までで一番決まってますよ」と愛美は笑顔で言った。
予約時間までまだ少し早かったので、カフェで休憩することにした。
いつものように向かい合って座る。
会社の食堂のテーブルより少し縦幅が狭くて、遠藤との距離が近い。よく見ると、遠藤の髪の所々にヘアワックスが残っている。
「遠藤さん? ワックス残ってますよ」
愛美がテーブルに身を乗り出して手を伸ばすと、遠藤は目を丸くして固まった。
愛美は遠藤の毛束を摘まんで馴染ませていく。
伏し目がちになった遠藤をチラ見すると、長い睫毛が素早く上下している。
「これで大丈夫です」
「あ、ありがとう」
小一時間程カフェで過ごしてから、遠藤が予約してくれているレストランへ向かった。
到着したのは、如何にも高級そうな雰囲気のいい店で、愛美は緊張していた。
「何か緊張するよね。俺こんなとこ来たことないし」
愛美が感じていたことを、遠藤は率直に口にした。
それを聞いて愛美の気持ちは解れ、その後は気負わず二人で食事を楽しんだ。少しお酒が入ったせいか、遠藤との会話のぎこちなさがいつもよりいくらか和らいでいるようにも思えた。
しばらくすると、愛美の背後から聞き覚えのある声が近付いてきた。嫌な予感――。
「遠藤さん? あ、やっぱり!」
その声に振り向くと、やはり会社の女子社員だった。
「あ、曽根崎さんも一緒なんだー! じゃあみんなで一緒に食事しましょうよ。向こうに友達もいるんです」
と彼女は嬉しそうに言った。
「ああ……悪いけど、今日は曽根崎さんと約束して来たんだよね。彼女と二人がいいんだ」
遠藤は躊躇なくきっぱりと断った。
それが嬉しくて不意に涙が溢れそうになり、愛美は慌てて化粧室に立った。
気持ちを落ち着かせてから席に戻ったが、遠藤に気付かれただろうか。
今まで遠藤に見向きもしなかった女子社員が執拗に遠藤に言い寄るようになってから、愛美は焦りを感じていたのだ。
こんなことなら冴えない遠藤のままで良かった――などと愛美の心におかしな感情まで湧いていた。
運ばれてきたデザートを食べながら、遠藤に気持ちを伝えようか、と悩んでいた。
愛美の席からは、幾つかテーブルを挟んで少し離れた席で、談笑しながら食事を楽しんでいる女子社員の姿が見え隠れしていた。そして時折彼女らがこちらに目を向ける様子も。
愛美の表情の曇りに気付いたのか、愛美がデザートを食べ終えると程なくして「出ようか」と急かすように遠藤が言った。
「ごめんなさい! 待たせてしまって」
小走りで遠藤に駆け寄る。
「約束の時間はまだまだ先だよ。俺が早く来すぎただけなんだ」
そう言う遠藤に、いつから待っていたのかと尋ねると、遠藤は少し気まずそうに「四時頃かな」と言った。
「えー! じゃあ待ち合わせ四時にしたら良かったですね」
「いや、そうしたら結局三時に着くだけだよ」
そう言われ、愛美はクスッと笑う。恐らく自分もまた三十分以上前に来ると思ったからだ。
今日の遠藤は昨日よりも少しフォーマル度高めの、やはりきれいめカジュアルな服装で、髪型もビシッと決まっていた。
そして、眼鏡は掛けていなかった。
「愛美ちゃん、今日のワンピース可愛いね。凄く似合ってるよ」
「遠藤さんも素敵ですよ。そのシャツ凄く似合ってます」
言ってから少しの間視線を合わせた後、堪えきれずに吹き出したのは、やはり愛美だ。
「何ですかこの会話ー。バカップルみたいじゃないですか」
「今日はちゃんと感想言ってくれたね。俺、すげえ頑張ったんだよ。覚えたての『きれいめカジュアル』で検索して、自分で上と下の服を何着か選んで買ったんだ。来週あたりまた届くから、感想聞かせてね」
嬉しそうに子供のようなキラキラした目で話す遠藤に母性本能をくすぐられる。年上男性にそんな気持ちが湧いた自分に驚いた。
「また貝になっちゃったら困るので……」と茶化してから「今までで一番決まってますよ」と愛美は笑顔で言った。
予約時間までまだ少し早かったので、カフェで休憩することにした。
いつものように向かい合って座る。
会社の食堂のテーブルより少し縦幅が狭くて、遠藤との距離が近い。よく見ると、遠藤の髪の所々にヘアワックスが残っている。
「遠藤さん? ワックス残ってますよ」
愛美がテーブルに身を乗り出して手を伸ばすと、遠藤は目を丸くして固まった。
愛美は遠藤の毛束を摘まんで馴染ませていく。
伏し目がちになった遠藤をチラ見すると、長い睫毛が素早く上下している。
「これで大丈夫です」
「あ、ありがとう」
小一時間程カフェで過ごしてから、遠藤が予約してくれているレストランへ向かった。
到着したのは、如何にも高級そうな雰囲気のいい店で、愛美は緊張していた。
「何か緊張するよね。俺こんなとこ来たことないし」
愛美が感じていたことを、遠藤は率直に口にした。
それを聞いて愛美の気持ちは解れ、その後は気負わず二人で食事を楽しんだ。少しお酒が入ったせいか、遠藤との会話のぎこちなさがいつもよりいくらか和らいでいるようにも思えた。
しばらくすると、愛美の背後から聞き覚えのある声が近付いてきた。嫌な予感――。
「遠藤さん? あ、やっぱり!」
その声に振り向くと、やはり会社の女子社員だった。
「あ、曽根崎さんも一緒なんだー! じゃあみんなで一緒に食事しましょうよ。向こうに友達もいるんです」
と彼女は嬉しそうに言った。
「ああ……悪いけど、今日は曽根崎さんと約束して来たんだよね。彼女と二人がいいんだ」
遠藤は躊躇なくきっぱりと断った。
それが嬉しくて不意に涙が溢れそうになり、愛美は慌てて化粧室に立った。
気持ちを落ち着かせてから席に戻ったが、遠藤に気付かれただろうか。
今まで遠藤に見向きもしなかった女子社員が執拗に遠藤に言い寄るようになってから、愛美は焦りを感じていたのだ。
こんなことなら冴えない遠藤のままで良かった――などと愛美の心におかしな感情まで湧いていた。
運ばれてきたデザートを食べながら、遠藤に気持ちを伝えようか、と悩んでいた。
愛美の席からは、幾つかテーブルを挟んで少し離れた席で、談笑しながら食事を楽しんでいる女子社員の姿が見え隠れしていた。そして時折彼女らがこちらに目を向ける様子も。
愛美の表情の曇りに気付いたのか、愛美がデザートを食べ終えると程なくして「出ようか」と急かすように遠藤が言った。
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